“It’s four less fingernails to clean.”の間違いは?『ゲーム・オブ・スローンズ』でジョークになっている英文法

文学&カルチャー英語

英語は、文学、映画やドラマ、コメディーや歌などに楽しく触れながら学ぶと、習得しやすくなります。連載「文学&カルチャー英語」では、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが、英語の日常表現や奥深さを紹介します。今回のテーマは、ネイティブスピーカーにも難しい場合があるlittleとfewの使い分けです。

『ウォッチメン』『ゲーム・オブ・スローンズ』で学ぶ

前回はネイティブスピーカーでも混乱する単数形と複数形の区別がテーマでした。今回はその続編という位置付けで、物の数や量のお話をしたいと思います。

取り上げるのはlittleとfew、扱う作品はテレビドラマの『ウォッチメン』(原題:Watchmen)と『ゲーム・オブ・スローンズ』(原題:Game of Thrones)です。

BLMの盛り上がりを予見したような社会派ドラマ

HBOが2019年に放送し、日本でもAmazonプライムなどで配信されているテレビドラマ『ウォッチメン』は、アラン・ムーアによる同名コミックのスピンオフ作品です。

人種差別と暴力に満ちたアメリカの歴史がテーマで、警官によるアフリカ系アメリカ人男性殺害事件をきっかけブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動が盛り上がっている世相を予告するような鋭い作品です。

ドラマの内容についてはあまり立ち入るとネタバレしますのでここには書きませんが、それでもいいという方は私が別のところで書いたネタバレありレビューをご覧ください。

雷が怖い?怖くない?

ここで取り上げたいのは、このドラマの第1シーズン第5話のエピソードタイトルである“Little Fear of Lightning”です。

『ウォッチメン』の各エピソードには気の利いたタイトルが付けられています。この話のタイトルはAmazonプライムのサイトなどでは「落雷へのささやかな恐怖」と訳されています。

ここであれっと思った方もいると思います。このエピソードタイトル、Littleの前に不定冠詞のaがありません。

前に不定冠詞の付かないlittleは「ほとんど~がない」、不定冠詞aが付いたa littleは「少し」だと、英語の授業で習った方は多いと思います。つまりこのタイトルは、「落雷へのささやかな恐怖」ではなく、ほとんど落雷への恐れがない状態を指すのではないでしょうか?

『海底二万里』が元ネタ

実はこのタイトルは、19世紀フランスの小説家でSFの祖と言われるジュール・ヴェルヌの海洋冒険小説『海底二万里』(1870年)の一節から取っています。SFニュースサイトであるサイファイ・ワイアの記事によると、“If there were no thunder, men would have little fear of lightning.”の一部を取ったものだということです。

この文のthunderは雷の音の方(雷鳴)、lightningは稲光の方で、仮定法過去を使っているので、「もし雷の音がしないのならば、稲妻なんぞほとんど恐れるに足りなかろう」くらいの意味です。フランス語の原文では“La foudre, sans les roulements du tonnerre, effraierait peu les hommes[.]”となっており、日本語訳では「雷にしても、もしそれがごろごろという雷鳴を伴わなければ、さして怖くないのかもしれません」(渋谷訳、上巻p. 312)です。

つまり、このエピソードタイトルの意味は、ささやかな恐怖があるのではなく、ほとんど恐れはないということです。

前述のサイファイ・ワイアの記事で説明されているように、これは主要登場人物の一人であるウェイド(ティム・ブレイク・ネルソン)がとある衝撃的な出来事の真相を知って怖がる必要がなくなったというエピソードのプロットに呼応しています。さらにこのエピソード自体に『海底二万里』の終盤のクライマックスへの目配りがあり、なかなか気の利いたエピソードタイトルになっています。

しかし、タイトルの日本語訳は原文の意味があまり明確に取れていません。最初に不定冠詞aが付いて“A Little Fear of Lightning”なら「落雷へのささやかな恐怖」となるのですが、aがないと「ほとんど存在しない落雷への恐れ」、ということで、エピソードタイトルっぽく意訳すると「落雷なんてほぼ恐くない」くらいの意味になります。

数えられる?数えられない?

不定冠詞のaが付くか付かないかで意味が変わってしまうややこしいlittleですが、もう一つ問題なのは、どこでlittleを使ってどこでfewを使うかということです。

基本的にはfewは1個、2個・・・と数えられるものに使い、littleはこのように数えられなくて量ではかるものに使います。非常に単純に言うと、複数形の語尾sが付いているものはfewそうでないものはlittleを使います。

fewもlittle同様、不定冠詞aが付くと「多少はある」という意味になりますが、aがない状態で使うと「ほとんどない」という意味になります。littleの比較級はlessfewの比較級はfewerです。比較級はaを付けずに使います。

実はこの区別はネイティブスピーカーでも難しいと思うことがあるようで、特に比較級になると混同してしまうことがあるようです。

『ゲーム・オブ・スローンズ』の「文法警察」

この区別に大変厳しいのが、HBOのドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズで七王国の王座を争う王位請求者の一人だったスタニス・バラシオン(スティーヴン・ディレイン)です。

スタニスが文法に厳しいというのはこの作品のファンの間では有名で、ファンコミュニティーでは文法警察などと呼ばれていたほどです。放送期間中は、スタニスがlessとfewerの誤用を訂正するたびにファンが盛り上がっていました。

第2シーズン第4話では、スタニスが右手の4本分の指先を失っている部下のダヴォス・シーワース(リアム・カニンガム)と次の会話を交わします。

Davos: […] it’s four less fingernails to clean.

Stannis: Fewer.

Davos: Pardon?

Stannis: Four fewer fingernails to clean.

最初のダヴォスの発言はちょっとくだけた文ですが、「きれいにする指の爪が4枚分、もっと少ない」ということで、「指の爪をきれいにするのが4枚少なくて済みます」くらいの意味です。

しかし、fingernails(指の爪)は量ではかるのではなく1枚、2枚・・・と数えられるので、次のせりふでスタニスが言っているように本来はfewerを使わないといけません。ダヴォスはよくわからなくて聞き返していますが、さらに次のせりふでスタニスはlessをfewerに言い換えた文で訂正しています。

この場面がファンに受けたせいなのか、スタニスは同じ訂正を第5シーズン第5話でもやっています。王国の北側を守る冥夜の守人たちが野人の処遇について議論しているとき、野人が死ねば“less enemies for us”(自分たちにとって敵がもっと少ない)状態になる、という意見に対してスタニスがボソっと端で“Fewer.”と言います。ここで相変わらずダヴォスが“What?”(え?)と聞き返しますが、スタニスは“Nothing.”(なんでもないんだ)と答えます。

スタニスに仕えていたダヴォスは主人の死後、ジョン・スノウ(キット・ハリントン)の部下になります。ダヴォスは亡き主人に教わった文法をよく覚えていたようで、第7シーズン第4話では自ら文法警察になりました。ジョンが“How many men do we have in the north to fight him? 10,000? Less?”(北部であいつと戦える男は何人いる?1万人かな?もっと少ない?)と尋ねると、ダヴォスは“Fewer.”と訂正します。ここではジョンは兵士の数に言及しているので、lessではなくfewerでないといけません。

今回の文法のまとめ

とてもややこしくて『ゲーム・オブ・スローンズ』の登場人物も間違えてしまうlessとfewerの区別ですが、最後にまとめとして表を用意しますので、しっかり見て覚えましょう。

  数えられる 数えられない
「ほとんどない」 few little
「少しはある」 a few a little
比較級「より少ない fewer less
使われる単語 men、fingersなど複数形にできるもの milk、snowなど量ではかるもの

ドラマの『ウォッチメン』と『ゲーム・オブ・スローンズ』

参考文献

■ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』全2巻、渋谷豊訳、角川文庫、2016。

海底二万里 (上) (角川文庫)

海底二万里 (上) (角川文庫)

 
海底二万里 (下) (角川文庫)

海底二万里 (下) (角川文庫)

 

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北村紗衣

文:北村紗衣(きたむらさえ)

武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書』(白水社、2018年)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か──不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書誌侃侃房、2019年)など。

ブログ:https://saebou.hatenablog.com/

編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部/トップ写真:山本高裕(編集部)