ガーデニングを愛する国、イギリス【LONDON STORIES】

ガーデニングを愛する国、イギリス【LONDON STORIES】

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

イギリス人の「ガーデニング愛」

新型コロナウイルスの影響によるロックダウン(都市封鎖)が続く5月現在、皆、家仕事に没頭しているが、庭付きの家を持つ人の多くがガーデニングに精を出している。「ロックダウンはつらいけど、週末にまとめてやっていたガーデニングを毎日ちょこちょこできるから、その点はよかったかな」なんて声もよく聞かれる。

渡英前から「イギリスはガーデニングの国」と知ってはいたが、実際に生活してみるとイギリス人の庭に対する愛情は想像以上、ただならぬものだと気が付いた。「イギリスでは、ガーデニング番組をゴールデンタイムに放映している」という話は割と有名だが、どの新聞や雑誌にもガーデニングコラムが連載されているし、スーパーや1ポンドショップ(イギリスの「100円均一ショップ」的なもの)にもガーデングッズのコーナーが必ずある。

春から夏にかけて、イギリス人は庭と共に生きている。家ではなくて「庭に住んでいる」と言っても過言ではないほどだ。この時期、人々はせっせとガーデンセンターに通い詰める。週末、特に土曜日の昼間は駐車ができないほどの混雑ぶりだ。

 

ガーデニングを愛する国、イギリス【LONDON STORIES】

おしゃれガーデンセンター「Petersham Nurseries」で種を物色しているおじさんたち。

子どもから大人まで、みんなで庭仕事

長い冬のことをひととき忘れ、1年分の太陽を浴びたいという気持ちもあるのだろう。週末のほとんどの時間を庭で過ごす人も多い。子どもの頃から庭仕事を手伝いつつ大人になるので、「庭仕事が嫌い!」と断言する人を個人的には知らないが、唯一「ちょっと面倒なときもある」というつぶやきを聞くのは芝刈りについてだろうか。

多くの一軒家の場合、前庭(玄関前)と裏庭の2つの庭スペースがある。夏場は2週間に 1度は芝刈りしないとボウボウに茂ってしまうのだが、前庭の手入れを怠ると近所から苦情が来る。これは景観上の問題もあるが、虫がわいて近隣の庭に影響を与えてしまうのが理由。元気に伸びる芝を見ながら「今度は誰が芝刈りをするか」を家族で押し付け合ってけんかになるらしい。

ガーデニング話をつまみにパブで一杯

ガーデニングの話で盛り上がるのも、毎年夏の恒例だ。数人集まり、誰か 1人でもガーデニングの話を始めたら最後、そこからしばらくはこの話が続くのを覚悟しなくてはならない。

昨年のちょうど今頃、イギリス人男性3人とパブに行ったのだが、「イチゴの苗を買ったんだけど」と1人が話し始めたのを皮切りに、イチゴの話で小一時間、その後「レンガの間に生えた雑草の除去方法」→「塀のメンテナンス法」と続き、結局閉店までずっとガーデニング話で盛り上がった。ロックダウンでパブが閉店している現在、その日のことを懐かしく思い出す。ガーデニングは天気同様に、多くの人と共通で話せる話題なのだ。

個性あふれる、さまざまなお宅の庭

そんな国に長年住んでいるのだが、実は私は庭どころかベランダもないフラット(日本で言うマンション)に暮らしている。この家を購入する前に庭付きの戸建ても散々内覧したが、利便性を重視した上で駅前通りの庭なし&ベランダなしの物件を納得の上で選んだ・・・はずだった。

しかしこの選択をその後ちょっと・・・いやいや、かなり後悔することになった。それまでは気楽な借家暮らしで、庭のメンテナンスは大家さんがしてくれていた。しかし小さいもののわが家を得たことで地域での知り合いも自然と増え、「ちょっとお庭拝見」の機会が格段に増えたのは想定外だった。

庭はインテリア同様、時にはそれ以上に個性が出る。よく言えばワイルドガーデン、つまりデザインをまったく考えず自然のままに作っている庭もあれば、鉢植えがミリ単位のブレもなくお行儀よく並んでいる庭もある。

花をメインに育てている庭もあれば、ほとんどの敷地を家庭菜園にしている庭もある。各々がいちばんホッとする身近な自然との関わり方を表現しているのが、庭なのだろう。どの庭にお邪魔してもくつろげるし、そこで頂くお茶は本当においしい。 

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毎年バラが咲く頃、このお宅の BBQに呼ばれるのが楽しみなのだが今年は開催できず(涙)。

私も早く「マイガーデン」が欲しい!

そんな庭探訪を数年続けているうちに、庭もベランダもないことの「残念感」が心にズシリと刺さるようになった。加えて、家から割と簡単に行ける場所にロンドンいちおしゃれと評判のガーデンセンターがあることも私の心を揺すぶっている。ここで見掛ける人たちの、ああ、なんと楽しそうなことよ。

プレゼン力が高過ぎる植物のディスプレーにもため息がでる。ああ、庭、庭が欲しい!最近はこの思いが常軌を逸したレベルに達し、友人に「庭仕事を手伝わせて」とお願いしている始末。土に触れて汗をかく気持ちよさを味わい、手伝いの報酬に料理に使うハーブ類を枝ごとどっさりもらう。腕の中のローズマリーや月桂樹(げっけいじゅ)の香りに酔いしれつつ家路に着く日の充実感は例えようがない。

実はあまりの庭欲しさに、今年家の買い替えを検討していた。しかしそんな折に新型コロナウイルス問題が発生。ロックダウンによりすべての不動産売買は凍結したため夢は先送りになってしまった。

今年はまだ誰の庭も訪問できていないし、ガーデニング話をつまみにパブで盛り上がることさえも許されない。仕方がないので家の窓際で小さな鉢植えを育てつつ、ガーデニング番組を見ながら「いつかマイガーデン」の夢を膨らませている。今はただ、新型コロナウイルスが早く終息し、なんとか夏の間に「押しかけガーデナー・ライフ」が戻ってきてほしいと願っている。

イギリスのロンドンってどんなところ?

イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。

文・写真:宮田華子

ライター/エッセイスト。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年8月号に掲載された記事を再編集したものです。