単語の意味だけで答えると間違えやすい!空欄を埋める単語を考える問題【難問クイズで学ぶ文法知識⑱】

Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。最終回の第18回は空欄を埋める単語を考える問題です。

クイズ

From 1580 to 1630, one-third of Amsterdam’s merchant community were either Protestant refugees or the children of refugees. Most of these immigrants arrived penniless but ( ) they lacked in funds, they more than made up for in perseverance and drive.

-Fareed Zakaria : Age of Revolutions 

文脈

16世紀から17世紀にかけてアムステルダムが迫害を逃れようとするプロテスタントたちにとっての避難場所となっていたということを説明している箇所です。

問題

空欄に入る単語は何?

単語・語句

  • refugee:「難民」
  • immigrant:「移民」
  • penniless:「無一文の、全く金がない」
  • fund:「資金」
  • more than:「十二分に」
  • perseverance:「忍耐力、粘り強さ」
  • drive:「意欲、気力」

ヒント

空欄を含む節(but以下)は全体が「よくある形」になっています。また、後半のforはどこにつながるのでしょう?

つまずきポイント

全体がよくあるパターンであることに気づかずに意味だけで埋めようとすると間違いやすい。

第1文はシンプルな作りの文。From 1580 to 1630までが文修飾の前置詞句で、中心は

というSVCの構造になります。1580年から1630年にかけてアムステルダムの商人のコミュニティの人々の多くがプロテスタントの難民かその子供のいずれかであったという趣旨が読み取れます。

第2文については、空欄の直前のbutまでを前半、but以降を後半として考えます。前半では、these immigrants「これらの移民」が第1文のrefugeesやthe children of refugeesのことを指していることを読み取りましょう。また、最後のpenniless「一文無しの」は形容詞ですが、いわゆる準主格補語と呼ばれるもので、ここで描写されている事態が起こった時(つまり、これらの移民の大半がアムステルダムにやってきた時)の主語の状態を説明しています。よって、前半は「これらの移民の大半は一文無しの状態でやってきた」という意味になります。この準主格補語というのは、いわゆるSVCのCではないものの、Sの状態を補足的に説明するものとしてよく用いられます。例文で確認しておきましょう。

He returned a millionaire.
「彼は億万長者になって帰ってきた」

They died too young.
「彼らはあまりにも若くして命を落とした」

さて、それでは問題の第2文の後半に目を向けましょう。今回は選択肢がないので空欄に入りうる語はいくらでもあるのでは、と感じた方もいるかもしれません。しかし、おそらく、英語の上級者に空欄に入る語を聞けば、だいたい1つに定まるのではないかと思います。それは、上のヒントでも言及しているように、この英文はそれ自体がよくあるパターンになっているからです。該当する知識のある人であれば、lacked in funds,くらいまで読んだ時点、あるいは遅くとも、they more than made up forまで読んだ時点で、「あれか」と気づき、正解を空欄に入れることができるはずです。

では、そのパターンについて説明しましょう。このパターンはある人物やものが弱点を持ちつつも、それをカバーできるような長所や強みを持っていることを表現する際によく用いられるもので、典型的に以下のような形を取ります。

What S lacks in …, S makes up for in ○○.
What S lacks in…, S compensates for in ○○.
What S loses in…, S gains in ○○.

それぞれ細部は異なりますが、全て同じパターンのバリエーションで、意味もだいたい「Sは…で欠いている部分を、○○で補っている」といったものになります。文法的に説明すると、先頭のwhat節は本来はmake up forやgainの目的語で、前置されて主節の主語の前に出た形ということになります。

ただし、what節を先頭としたこの語順でよく用いられるので、まるごと覚えてしまうのもありです。

さて、この表現パターンを認識している人にとっては、課題文のlacked inやmade up for in…といった形から、すぐに空欄の候補としてWhatが思い浮かぶはずです。その上で、実際に空欄にWhatを入れて解釈してみると、「彼らは資金において欠いている部分を、粘り強さや意欲の点で十二分に補っていた」→「彼らは資金不足を補って余りある粘り強さと意欲があった」となって意味的にも文脈にマッチするので、Whatが正解だと結論づけることができるというわけです。

正解 What

訳例

1580年から1630年まで、アムステルダムの商人社会の3分の1はプロテスタント難民か難民の子弟であった。これらの移民のほとんどは無一文でやってきたが、資金不足を補って余りある粘り強さと意欲があった

前回までのクイズはこちらから

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北村一真(きたむら・かずま)
北村一真(きたむら・かずま)

1982年生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、2009年に杏林大学外国語学部助教に就任。2015年より同大学准教授。著書に『英文解体新書』(研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア』(共著、アスク出版)、『ジャパンタイムズ社説集2022』(解説執筆、ジャパンタイムズ出版)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など。Twitter:@Kazuma_Kitamura

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