ギレルモ・デル・トロ監督がノワール小説を映画化したサスペンススリラー大作『ナイトメア・アリー』

気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。

今月の1本

『ナイトメア・アリー』(原題: Nightmare Alley )をご紹介します。

※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。

ショービジネスでの成功を夢見る野心にあふれた青年スタン(ブラッドリー・クーパー)は、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座と巡り合う。そこで透視術師のジーナ(トニ・コレット)から読心術の技を学んだスタンは、人を引き付ける天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となる。しかしステージを見に来た心理学者のリリス・リッター(ケイト・ブランシェット)と出会い、その 先に は思いがけない闇が待ち受けていた―。

富、名声、欲望に溺れていく人間の姿を描くサスペンススリラー

『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー作品賞を含む4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ監督が、ノワール小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』(1946)を映画化。この原作は1947年にも『悪魔の往く町』というタイトルで映画になっているが、デル・トロ監督はあくまで原作小説の「再映画化」と表現している。オリジナルの映画よりも、この小説自体に並々ならぬ思い入れがあるようだ。

映画は1人の男が荒れ果てた家に火を放つ、謎めいたシーンから始まる。スタン(ブラッドリー・クーパー)はそのまま燃え上がる家を振り向きもせず、街へ出てカーニバルに寄った。彼はそこで働き始め、透視術師のジーナ(トニ・コレット)にも気に入られて、透視や読心術のトリックを身に付けていく。そしてスタンは感電の芸をするモリー(ルーニー・マーラ)と夫婦になって独立すると、メンタリストとして名をはせるようになる。だがステージを見に来た心理学者のリリス・リッター(ケイト・ブランシェット)と出会ったことから、彼は禁断の心霊術に手を出すことになる……。

ショービジネスのいかがわしさと妖艶さが立ち込め、怪しげなムードのある作品に仕上がっている。透視や心霊術を操っていても、決して幽霊やこの世ならざるものが登場するわけではない。本作で揺らいでいるのは欲望の炎である。登場人物たちは手放しで善人と呼べる人は少なく、何かしら心に弱みを持っていて、自制できずにその弱さに溺れてしまう。特にスタンは人倫も踏み越えるほど、欲望との葛藤が甚だしい人物だ。金の欲、名声の欲、酒の欲……。彼が意外にも簡単に法を踏み外していく姿は、同じ人として不安さえ覚える。確かに彼は「怪物」である かもしれない

ブラッドリー・クーパーは決して善人顔ではないので、この複雑な役に似合っている。有能だが短気で我慢ができないなど、もろさと魅力を兼ね備えたキャラクターに注目してほしい。

Nightmare Alley )">『ナイトメア・アリー』(原題: Nightmare Alley

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved .
Staff ">Cast & Staff

監督:ギレルモ・デル・トロ/出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラ他/公開中/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

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真魚八重子(まな・やえこ) 映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。

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