世界で動物保護活動が活発化する中、日本でも動物や環境に配慮した「エシカル」な行動を意識する人や企業が増えています。『ENGLISH JOURNAL』6月号の特集では、公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長の杉本 彩さんへのインタビューや、在日外国人による動物に関する英語対談、そして今気になるヴィーガンについて紹介します。本記事では、動物福祉先進国と呼ばれる国々のトレンドや、世界と日本の法律の違い、知っておきたい関連用語を公益社団法人アニマル・ドネーション代表の西平衣里さんにご紹介いただきます。
「知らない」では恥ずかしい時代に
動物福祉を特別なことだと思わず、配慮するのが当然と感じている国々の人は多い。理由はその国の歴史、文化、宗教、法律、教育などにより異なるが、 残念ながら日本人の意識が遅れている分野であることは否めない。日本では動物福祉が自分の生き方に影響する、大事な観点であることの認識が薄いと感じる 。しかし、多くの日本人は動物の命を享受している。あなたは羽毛布団に寝ていませんか? ダウンジャケットだってお持ちでは? 皮革製品を一つも持っていない人は少ないかも。子供の頃、動物園に行った思い出もあるはず……。
「犬や猫が好きではないから、自分には動物福祉は関係ない」というスタンスは間違っていて、 海外の人と接する際やビジネスの場で自分に動物福祉への理解がないことが垣間見えたとき、場合によっては「イタイ人」になってしまうかもしれない 。「犬畜生」という言葉のある日本だから仕方ない、で片付けてしまうのか、それとも八百万(やおよろず)の神に守られている日本らしく、生きとし生けるものに目を向け尊敬の念を持って接していくのか。当然、後者の時代が来ているのだ。
法律の違いは歴然
国によって大きな違いがあるのが、動物法だ。 日本は動物法の歴史が浅く、質量共に充実していない。一方、イギリスは1800年代に動物虐待や動物実験に対する法が作られている 。1824年には、現在も動物保護業界をけん引するRSPCA(The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals、英国王立動物虐待防止協会)が設立された。アメリカでも1860年代に、現在も活躍する三大レスキュー団体が誕生している。つまり、日本よりかなり早く動物に関する法整備と組織が作られているのである。
さて、各国で動物がどう法定義されているのかを紹介しよう。まず、日本の民法では「物」に定義されているが、動物愛護管理法では「動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない(第二条)」と定義されている。要約すると、「動物は命あるものだから大事にしよう」ということである。
片やフランスでは、「自然保護に関する1976年7月10日の法律」で、 動物は人間と同じく「感覚ある存在(etre sensible)」と規定されている 。歴史の新しいEUでは、1997年のアムステルダム条約に動物福祉に関する特別な法的拘束力を持つ議定書が盛り込まれ、「家畜は単なる農産物ではなく、感受性のある生命存在(sentient being)」として定義された。
私の個人的な分析だが、 動物に対して「感覚や感受性がある」と定義しているか否かは、とても大きな違いだと考えている 。
「いただきます」という言葉のある国、日本
今後、日本の皆さんがどう行動していけばいいのかを、最後に一緒に考えたい。「いただきます」の語源は、「命をいただくことに感謝を伝える」といわれている。牛や鳥、魚などの動物以外にも、野菜や果物にも命があって、その命をいただく。英語で「いただきます」に近い言葉はありませんよね。Let’s eat!では到底翻訳できない、深い意味合いのある言葉を私たちは日常的に発している。そこは誇りに思っていいと思う。だから、 一つ一つ当たり前と思わずに命に向き合い、考え、行動することを心掛けていきたい 。「この卵は安いけれど、ケージ飼いの鶏から生まれているのなら、買うのをやめておこうかな」とか、「かわいいファッションだけど、本物の毛皮を使っているから買うのは我慢」とか、 皆さんの行動がほんの少し変われば、笑顔になる動物たちが増えるはず 。
ぜひ一緒に、感情豊かな動物たちに負けないよう、私たちもあふれんばかりの優しさを持って、動物に向き合っていきましょう。
押さえておきたい関連用語
animal welfare (アニマルウェルフェア、動物福祉)
動物を「感受性を持つ生き物」として捉え、人間が動物に与える痛みやストレスを最小限に抑えることなどに配慮し、動物の待遇を改善しようとする考え方。安全な畜産物の生産にもつながることから、農林水産省でもアニマルウェルフェアを踏まえた家畜の飼養管理の普及を進めている。
ethical(エシカル)
「道徳的な、倫理にかなった」という意味の形容詞で、「エシカル〇〇」という形で使われることが多い。代表的なものに「エシカル消費」があり、社会や地球環境、動物に配慮して作られたモノを購入・消費することを意味する。
pet-friendly (ペットフレンドリー)
「ペットと一緒に利用できる」「ペットに優しい」の意。ペット関連の市場規模が拡大している背景に「ペットの家族化」が挙げられることも影響し、ペットフレンドリーなホテルやレストラン、オフィスなどが増えている。
environmental enrichment (環境エンリッチメント)
飼育動物の幸福な暮らしを実現するために、飼育環境に対して行われる具体的な方策のこと。動物本来の行動に着目した住環境づくりや、本来の食事の取り方を考えた給餌方法、音や匂いなどの五感に刺激を与えることなどが含まれ、動物園や水族館、実験動物なども対象となる。
five freedoms for animals (動物の五つの自由)
① 飢えと渇きからの自由 ② 不快からの自由 ③ 痛み・負傷・病気からの自由 ④ 本来の行動ができる自由 ⑤ 恐怖や抑圧からの自由
1960年代のイギリスで、家畜の劣悪な飼育管理を改善させるために定められた。現在では家畜のみならず、ペット・実験動物などあらゆる動物の福祉の基本として世界中で認められている。
battery cage (バタリーケージ)
養鶏業などで使用されるケージで、家畜飼育システムの一つ。金網で囲まれ、卵が転がりやすいよう床には傾斜が設けられている。動物へ与える多大なストレスや人獣共通感染症のリスクを考慮し、ヨーロッパやオーストラリアなどでは平飼いや放牧での養鶏が増えている。
ENGLISH JOURNAL6月号は『アニマルウェルフェア』
EJ6月号ではさらに、西平さんが訪れたスイスの動物保護シェルターの様子や、昨今のフランスの英断、私たち一人一人が考えたいことなどについてお話しいただきます。ぜひご覧ください。
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