英語通訳者・翻訳者として活躍する中村光秀さんは、英語が得意ではなかった少年時代から、独学でTOEIC300点台から同時通訳者へと成長を遂げました。営業職を退職し、フリーター生活を送りながら独学で通訳訓練に励み、現在では海外メーカーとの商談/交渉時での同時通訳など、幅広い分野でその力を発揮しています。この記事では、独学で英語力を鍛え上げ、夢を実現させた彼の経験や、英語学習へのアプローチについて伺いました。
英語の道に進んだのは「両親に勧められて」
―みちさんは、もともとは英語学習が好きではなかったんですよね?なぜ英語の道に進まれたのですか?
英語学習を始めたきっかけについてですが、正直、自分の場合は特別な理由があったわけではなく、どちらかというと流れに身を任せた結果なんです。もともと大学進学は考えておらず、働くつもりでした。ただ、私の両親は教育に恵まれなかったこともあり、「息子だけは学校に行かせたい」という強い思いがあったんですね。それで、「受けてみるよ」と大学受験をすることになったんです。英語を選んだのも、特に自分が好きだったからというわけではなくて、親から「英語がいいんじゃない?」って言われただけなんです。実際、英語でなくてもよかったんです。神田外語大学ではタイ語などの学科もあったので受けてみましたが、全部落ちてしまいました。他の大学もいくつか受験しましたが、やっぱり落ちました。そもそも僕は高校時代、授業中に居眠りしてばかりで、勉強もほとんどしていなかったので、当然の結果だと思います。その後、働こうと思っていたんですが、母に初めて叱られました。「専門学校を受けなさい」と勧められて、たまたま受けたのが神田外語学院という英語の専門学校だったんです。正直、これは僕自身の意思というよりも、母の希望に従っただけでした。
進学した専門学校では一番下のクラスで、クラスメートたちは授業中に日本語で無駄話をしてばかり。僕自身も入学して最初の半年間は、ほとんど英語の勉強をしていませんでした。高校や中学の時と同じように、授業中に先生の話を聞かない生徒が多いような雰囲気でした。特別な動機や情熱があったわけではなく、偶然と流れに任せてここまで来たのが正直なところです。語れるような立派なきっかけがなくて申し訳ないですが、これが僕のスタートなんです。
みちさんに影響を与えるロールモデルとの出会い
―専門学校に入ってすぐにやる気が出たというわけでもないのですね?
はい。入学してから、最初は正直、勉強する気が全くなくて、ただ遊んでばかりでした。自分では「このまま卒業したら、ニートになってもいいや」と思っていたくらいです。でも、そんな中で、自分のロールモデルとなる人物と出会うことができ、その出会いが、僕のモチベーションを大きく変えてくれました。ロールモデルとして影響を受けたのは、2人の方でした。1人は通訳のクラスの先生で、もう1人はガオ・ジュンフェンさんという中国出身の方です。ガオさんは、以前はTOEIC300点台だったものの、1年ちょっとで900点近くに達し、英語も流暢に話せるようになっていました。僕にとって、ガオさんはすごく身近に感じられる存在で、勉強を続けるための強いインスピレーションを与えてくれました。通訳のクラスの先生である門田先生も、僕に大きな影響を与えてくれました。先生は30歳前後で英語を学び始め、留学経験もない中で通訳者として成功を収めた方です。TOEIC300点台で英語も全く話せない下位クラス在籍の僕に「才能がある」と言ってくれたことが本当に励みになり、僕の成長を信じてくれたその言葉が支えとなりました。
特にガオさんからは、「昨年の自分を見ているようだ」と言われ、「もしやる気がないならずっと俺のそばにいろ、勉強すれば絶対にできるようになる」と励まされました。その言葉をきっかけに、一年間一緒に勉強し続け、継続する力をつけることができました。門田先生からは、TOEICスコアが300点台だった僕に、「未来を変えるのは今の選択だ」と何度も言われ、最初は信じられなかったものの、その言葉に勇気をもらい、少しずつ自分を変えることができました。専門学校から大学への編入試験を受験し合格できたのも、お二人から頂いた言葉が原動力だったように思います。結果として、ガオさんや門田先生のおかげで、僕は自分に可能性があると信じて努力を続けることができました。これが、僕が今こうして通訳者として活動している原点になっています。
諦めずに努力すれば通訳者には誰でもなれる
―通訳者という職業には、当時どのようなイメージを持っていましたか?
通訳者になることは難しいという一般的な認識がある中で、私はその当時から、実際には諦めずに努力すれば誰でもなれる職業だと思っていました。大学を卒業する頃には、訳あって英語学習からは数年に及び離れてしまっていましたが、20代も半ばを過ぎた頃に、友人に誘われ同時通訳者の横山カズ先生のセミナーに参加しました。そこで横山先生に、「絶対に通訳者になれるよ!」と心のお守りになるような言葉をかけて頂きました。専門学校時代と同様に、実力がなくても自分の可能性を信じてくれる人がここにもいる!その経験が後押ししてくれたおかげで、不思議と迷うことなく、通訳者を目指そう!と決心することができました。そう決意した翌日に新卒で入社した企業に退職届を提出。金銭的な理由で通訳学校に通うことができなかったものの、独学ですが自分の決めた道を進み始めました。当時、実際にプロ通訳者として稼働している諸先輩方に、英検1級を取得し満を持して通訳学校の門を叩いた人でも、結局途中で辞めてしまう人が多いと聞いたことがあります。東京で通訳をしているのは、数百人程度ですが、その中で本当に成功している人たちは一部だけです。しかし、その一部の人たちは、途中で諦めなかった人たちなんです。私もその一員になれると信じて、やるべきことをやり続けた結果、通訳者として活動できるようになりました。
通訳者という職業は、実際、誰でもなれる職業だと私は思っています。もちろん、努力や集中した勉強が必要ですが、諦めずに続けることさえできれば、目指すことができるんです。私は最初から思い描いていた通りに、通訳者になれたという実感があります。学習方法については、非常にシンプルだと感じています。音読、独り言英会話、スピーキングの実践、そして通訳の練習。この4つを徹底的にやることで、通訳者になれると思っていましたし、実際にそれが効果的だったんです。いろいろな勉強法を試すことも大切かもしれませんが、基本的にはこれだけで十分だと感じました。
小さな成功体験が積み重なって自信に繋がる
―早くから「通訳者になれる」という自信があったんですね!
はい。でも、当時の私はどちらかというとマイナス思考な人間だったので、最初から本当に自信があったわけではありません。でも、ガオさんや先生に「お前自身は無理だろうって思っているけど、なれる」と言われると、その言葉に背中を押されて、強制的に自分の思考を変えてみようと決心しました。実際に勉強を始めてみたら、学生時代は時間もたくさんあったので、わずか3ヶ月で英語がかなり話せるようになったと感じました。その後、英会話がすごく上達したことを学校の先生に褒められて、自信が湧いてきました。新入生向けのガイダンスで英語を話す機会をもらったとき、「本当に自分は英語ができるんだ」と実感しました。最初は強制されて、無理に思い込みを変えたようなものだったんですけど、実際に努力してみたら、自分でもできるようになったという成功体験が大きな自信になりました。さらに、勉強方法についても、ガオさんや門田先生が言っていることが一貫していて、それが自分にとって正しいと確信することができました。結局、そういった小さな成功体験が積み重なって、今の自分があるんだなと振り返ると感じます。最初から自信があったわけではなく、ひとつひとつの経験を通じて、自分の進むべき道が見えてきたんです。
努力を続けるための秘訣
―多くの人は通訳者になろうと思っても、努力が続けられないという人も少なくないと思います。どのようにして英語学習を続けたのですか?
通訳者になるための努力は一筋縄ではいかないと実感しました。時間が足りなかったり、気が散ることが多かったり、モチベーションが続かなかったりと、現実的な問題に直面することが常にありました。それでも、私は自分のペースでできる方法を工夫しながら、勉強を続けました。例えば、苦手なことを細かく分けて、達成可能な小さな目標を立てました。すると、少しずつハードルを越えることができ、結果として大きな進歩を感じられるようになったんです。
今でも自分の性格的な本質は変わらなくて、「石橋を1000回叩いても渡れない」タイプだと思っています。だから、何かを始める前に必ず仮説を立てるんです。例えば、カフェに行って勉強しようと思っても、予定通りに行けないことがあります。その時、自分の行動を振り返って、なぜうまくいかなかったのかを考えます。例えば、寝る前に「明日こそ7時に起きてカフェに行き勉強しよう」と思っても、朝起きられないことがよくあります。どうして起きられなかったのかを振り返り、『目覚ましをしっかりセットしなかったからか?』『前の晩に早く寝なかったからか?』など、自分の行動を検証します。それで次にどうすればうまくいくのかを考え、実際に行動に移します。目覚ましを2回セットしたり、もっと早く寝たりといった、やろうと思えばすぐにできる簡単なことを試しながら、自分に合った方法を見つけていきました。
つまりただ勉強をするのではなく、ひとつひとつ実験のように考えて取り組むようになったんです。自分の性格や習慣に合わせた方法を見つけることで、少しずつ勉強が楽しくなってきました。これが、通訳者になるために努力できた理由だと思います。
結局、何事も仮説と検証を繰り返しながら進むことが大切だと感じています。最初は不安だらけで、できるかどうかもわからなかったけれど、少しずつ積み重ねていくことで、今の自分があると思っています。
学習ログをつけてみよう!実生活に即した英語を学ぶ大切さ
―大人になってからの英語学習、特に30代から40代にかけての心構えについてどう考えるか、教えていただけますか?
年齢を重ねると、過去の経験や自分の習慣が積み重なり、それが新しい挑戦への障壁となることがあります。特に、英語学習を始める際には「もう遅いのではないか?」と感じる方も多いですが、そんなことはありません。年齢に関係なく、新たなスキルを習得することは可能です。
重要なのは、無理に完璧を目指すのではなく、徐々に進歩を感じられるように工夫することです。特に、学習過程で「成功体験」を積み重ねていくことが大切です。小さな成果を感じることで、学習意欲が保たれ、続けることができるからです。また、英語学習の進行が思ったよりも遅いと感じても、焦らずに自分のペースで学び続けることが、成功の鍵となります。年齢に関係なく、英語学習は続けられるし、その過程で得られるものは大きいです。自分のペースで、学びを楽しみながら進めていくことが、最も効果的な方法です。
さらに、学習の記録をつけることは効果的な方法です。学習ログをつけることで、自分の進捗を視覚化でき、過去に取り組んだ内容を振り返ることができます。これにより、学んだことをより深く自分のものにすることができます。学習ログは、単に勉強した内容を記録するだけでなく、学んでいる過程で感じたことや、実際に使用した表現をメモしておくことが重要です。学んだ内容や経験を、自分の言葉で記録し、日常生活に活かしていくことが、学びを深める鍵となります。自分の行動や経験を英語に結びつけ、実生活に即した形で学びを進めることで、英語が単なる学問から「自分の一部」に変わっていくでしょう。
英語学習には「ロマン」が必要
―目標やロールモデルを持つことの重要性について教えてください。
英語を学ぶ目的は、単にスキルを上げることだけでなく、自己成長の一環として「ロマン」を追求することでもあります。ロマンというのは、明確な目標やイメージを強く持つことだと思います。つまり、自分の理想像、ロールモデルが必要で、その目指すゴールに向かって段階的に進むことが重要だと考えています。その際に、1万段の階段を登るには、1万個の小さなステップに分けて、1歩ずつ確実に踏みしめていけば登れるという感覚が重要です。「自分には無理だ」とあきらめてしまう人は、その「細分化」がうまくできていないだけで、「細分化」さえできてしまえば、時間と労力がかかるだけで、それが難しいことではないと感じるんです。だからむしろ、それだけの労力をかけても良いと自分で思える「ロマン」、つまり自分がなりたい/在りたい像をしっかり描くことが最も重要なんです。
TOEICや英検などの試験を目標に置く人は多いと思いますが、それだと少し「ロマン」が足らないと思うんです。そうではなくて、試験はその先のビジョンと結びつけた中間目標として活用できれば、自己成長のために大切な意味を持ちます。先を見据えた道しるべとして活用することが重要だということですね。TOEICを軽視する人もいるかもしれませんが、実際に学びを深めると、その重要性がわかります。TOEICは実用的な英語を学べる設計になっており、語彙や表現の選択にも細かい配慮がされています。これを途中の折り返し地点として使い、進むべき道を示すメルクマールとして活用することが大切だと思います。
独学で英語力を伸ばす「英語学習のための英語学習」
―英語を独学で学ぶひとが持つべきマインドセットについて教えてください。
独学の最大のデメリットの一つは、社会人の場合、英語学習を先延ばしにする理由をいくらでも挙げられてしまう点だと思います。最初はモチベーションが高くても、「時間がない」「忙しい」などの理由で学習を後回しにすることが多く、そのうち「今日は疲れたから」「明日からやろう」などと自己正当化し、結局学習が進まなくなります。このような自己正当化の連鎖に陥ると、最初は小さな言い訳だったものがだんだん大きくなり、学習を続けること自体が負担に感じられるようになります。「時間がないから仕方ないんだ」と思い込むようになり、すっかり学習から遠ざかってしまうのです。
この落とし穴から抜け出すためには、自分の学習に対して責任を持つことが重要です。「時間がない」という理由に流されず、どうやって学習の時間を作るか意識的に考えることが大切です。最初は難しいかもしれませんが、この意識を積み重ねることで、学習成果が得られるだけでなく、自己正当化を打破する力になると考えます。
特に初心者の方は、まずは結果を追い求めすぎず、プロセスを楽しむことがとても大切です。最初は基礎を身につけることが必要ですが、その過程を楽しむことが、学び続ける力になります。もし英語学習を、TOEICの点数とか、外資系企業への就職だとか、英語学習の外にある「結果」のためだけにしてしまうと、途中でモチベーションが下がりやすく、続けることが難しくなってしまいます。しかし、英語を学ぶこと自体が楽しいと感じると、学びが苦痛ではなくなり、自然に続けられるようになります。意外に思う人もいるかもしれませんが、最初のうちは「英語学習のために英語を学ぶ」という姿勢が大切なんです。
「英語は伝わればいい」の一歩先へ
―なるほど。「英語学習のために英語を学ぶ」という視点は面白いですね。
例えば、テニスのプロ選手を夢見る人で、「有名選手になって大金を稼ぎたい」という結果のためだけに努力できるひとはおそらく稀です。そうではなくて、「テニスを上達させることが楽しい」と感じられるから、テニスの練習が捗り、結果的にプロを目指せるレベルにまで上手くなるのだと思いませんか?
テニスの選手がミスをしたときに、フォームを見直して調整する場面を思い浮かべてください。この場合、「もっとうまく打ちたい」という気持ちが、フォームの微調整をさせるわけですが、スイングが少し違ったから次はどう修正しようかなど、微調整を繰り返すことが、上達につながるはずです。
英語学習にはこれと似た部分があると思います。英語を話すときに、過去形を使うべきところを現在形にしてしまったりすることはよくありますが、それを「伝わればいいのだ」と結果だけを優先してしまうと、どうしても学びが浅くなります。一方で、英語学習のために英語を学んでいる人は、そのようなディテールにもこだわり、どのタイミングで過去形を使うべきか、なぜ自分は現在形を使ってしまったのかを考え、そこに気づきを得ます。この気づきが、まさに「ログ」を残しているということです。自分の学びを振り返り、修正することで、少しずつ上達を感じることができます。このプロセスが楽しいのだと感じるのは、まさに「ステップアップしている実感」が得られるからです。自分が狙い通りに話せるようになるために、どの部分を微調整するかを考えることが、学びの楽しさに繋がります。この「微調整」の積み重ねが、学習の深さや成長を生み出し、英語を極めていく過程そのものが面白いと感じることができます。
お金をかけなくても英語力は伸びる!
―独学で学ぶ場合、具体的にはどんな学習方法がおすすめですか?
英語学習の大枠として、私は「(1)音読(基本英文の暗記・暗唱)」「(2)独り言英会話」「(3)人との英会話」という三つの柱を設定しています。音読や独り言英会話に関しては、お金をかけないことに決めました。信頼できる参考書(文法書やTOEIC・英検などの教材)を使い、その時点での最適な発音で音読するだけで十分です。人との英会話に関しては、私の場合半年間という期間を決めて、「 ビズメイツ (ビジネスオンライン英会話)」を受講し、スピーキングを集中的に学びました。重要なのは、スピーキング力など習得したいスキルに特化した期間を設け、その期間中に集中的に磨くことですので、「ビズメイツ」のようなサービスもおすすめです。お金をかける場合は、目的意識を持ち、期間を決めて学ぶことが大切だと思います。目的も期間も定めずに行う自己投資は、投資ではなく浪費だと考えています。
次に、学習教材の選び方についても重要です。レベルに合わせた教材選びよりも「興味」を基盤に選び、「習得したいスキル」に応じて教材を活用することが重要だと思っています。私の場合、通訳者として時事問題をキャッチアップしつつ、どこに出ても恥ずかしくないスピーキングの型(できるだけ高尚な型)を習得するために、NHK World Newsを使って音読を行っています。日常会話を伸ばしたい方は、定番の 『NHKテキスト』 はもちろんですが、英会話本(例えば『 CD-ROM付 最強の英語独習メソッド パワー音読入門 最強の英語独習メソッド パワー音読入門』や『 新装版 即戦力がつくビジネス英会話』 )で音読をしたり、独り言英会話で練習したりすることをお勧めします。また、英検やIELTS等の二次試験(面接)対策(例えば『 14日でできる! 英検1級 二次試験・面接 完全予想問題 改訂版 』や『 新セルフスタディ IELTSスピーキング完全攻略 』、『 はじめて受ける VERSANT Speaking and Listening 全パート完全攻略 』を使うのも有効です。自分に合ったレベルの教材でも、興味のない内容では楽しく学べないため、興味を持てる題材を選ぶことが大切だと感じています。