ケンドリック・ラマーの5年ぶりのアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』

「今聴いてほしいアーティスト」と関連楽曲を、音楽が伝えるメッセージや社会的・音楽的文脈などと併せて渡辺志保さんが解説します。

今月のアルバム

ケンドリック・ラマーのアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』を紹介します。

2018年、アルバム『DAMN.』でピュリツァー賞の歴史上初めてヒップホップの作品が受賞したことで大きな話題となったケンドリック・ラマー。5年ぶりとなる本作『Mr. Morale & The Big Steppers』のジャケット写真には自身の妻と子供たちが描かれている。

ピュリツァー賞受賞のヒップホップアーティストが抱える葛藤と困難

2018年にピュリツァー賞の音楽部門を受賞するなど、ヒップホップやラッパーという枠を超えて世界中のリスナーを魅了してきたケンドリック・ラマー。5年ぶりの新作『Mr. Morale & The Big Steppers』は、まさに世界中が注目した大作アルバムだ。
静かなコーラスと鍵盤の音色とともに幕を開けるこの物語の1曲目でまず明かされるのは、ケンドリック・ラマー自身がセラピストによる治療に通っているという内容だ。以降、「N95」や「Worldwide Steppers」といった楽曲で、自身が抱える葛藤や困難についてフラストレーションを吐き出すようにラップしていくケンドリック。後者の曲では「2年間、ライターズ・ブロック(執筆上のスランプ)に陥った。何にも心を動かされなかった」とも告白している。
アルバムが進むにつれ、ケンドリックの告白はどんどんディープなものになっていく。「Crown」では“I can’t please everybody(全員を満足させることはできない)”と繰り返し、「Savior」では自分の名前を挙げて“but he is not your savior(彼は君の救世主じゃない)”とラップする。
アルバム全編を通して強調されるのは、これまで彼自身が背負ってきたプレッシャーと過度な神格化(歌詞の中ではidolize「偶像化する、崇拝する」という言葉も使っている)からの解脱だ。結局は1人の人間であることを説き、そのためには生々しく、そして荒々しい表現もいとわない。同時に、「Father Time」や「Mother I Sober」「Auntie Diaries」では自分の家族を取り巻く環境や感情を隠すことなく語り、同時にアメリカにおける黒人コミュニティーが抱える問題にも触れている。

『Mr. Morale & The Big Steppers』に参加したアーティストの楽曲4選

今回の記事で紹介している音楽のプレイリストをご紹介します。『Mr. Morale & The Big Steppers』と併せて聴いてみよう!


  1. Chosen (feat. Ty Dolla $ign & Tyga) by Blxst
  2. Girls Need Love by Summer Walker
  3. family ties by Baby Keem & Kendrick Lamar
  4. NTWFL by Sam Dew

ケンドリック・ラマーのアルバム

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※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年8月号に掲載した記事を再編集したものです。

渡辺志保(わたなべ・しほ)

音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビュー経験もあり。block.fm『INSIDE OUT』をはじめ、ラジオMCとしても活躍中。

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