「アフターコロナ」の時代において、「これからを生き抜く力を考える」特集。この記事では、日本にやって来た難民の若者たちと未来を作る活動を続けるNPO法人WELgee(ウェルジー)で理事を務める安齋耀太さんが、 今後の 「多文化共生社会」の在り方を語ります。
コロナ禍の日本社会で暮らす人たち
私が関わるWELgeeという団体は、日本に難民として逃れてきた外国人たちとともに活動している。
新型コロナウイルス感染症の 拡大 によって生活はどのような 影響 を受けたのか、彼らの声を聞く機会があった。そのほとんどが、「解雇された」「仕事のシフトが減った」「休業手当が(十分に)出ない」といった、仕事とお金の問題だった。
「難民の人も日本人も同じような困難に直面している」――これは当然だ。なぜなら、難民の人たちも日本の人たちも、同じようにコロナ禍の中にある日本社会で暮らしているからだ。しかし、この気付きは私にとって衝撃的だった。
普段、私は、「日本に来たばかりで泊まるところがない」「国に残してきた家族が 心配 だ」といった、難民として逃れてきた外国人に特有の困難を耳にすることが多い。だから、彼らも日本人も同じ困難に直面しているという現状を意識しにくくなっていた。
「日本人と外国人を含む日本社会」という認識
いわゆる「コロナ禍」という状況下で、新型コロナウイルス感染症から日本の社会や経済を守るためのさまざまな 施策 が行われた。その一連の動きの中で、「日本人と外国人を含む日本社会」という意識が全体的に強まったように感じられる。
まず、「公衆衛生(public health)」への関心が高まった。公衆衛生とは、ある1つの社会に属する人々の健康に対する脅威を取り除いたり軽減したりしようとする、医療・政策上の関心を意味する言葉だ。
日本という国家が公衆衛生の対象として関心を向けるものは、もちろん「日本社会」である。このとき、この「日本社会」は日本人だけを含むと考えることは、まったくの無意味であり、むしろ有害であるとも言える。なぜなら、日本人も外国人も 同様に ウイルスに感染するし、日本人も外国人も 同様に 感染を広めるからだ。
従って 、公衆衛生という観点では、日本人も外国人も、感染防止の対象であり担い手でもある。 すなわち 、日本人も外国人も、Stay Homeを行う(べき)人たちだ。
あるいは、経済という観点でも、冒頭で述べたように、日本人と外国人は同じようにコロナ禍の中にいる。
この点で象徴的な 施策 が、「1人10万円」として話題になった特別定額給付金だ。この給付金は、原則として住民基本台帳の登録者を対象としている。そのため、この条件を満たせば、日本国民だけではなく、外国人も給付の対象になった。 *1
社会の内に線を引かない思考力
とはいえ、日本人と外国人を区別しないような社会の認識を続けることは非常に難しい。人は容易に社会の内に線を引いてしまうからだ。日本人/外国人だけではない。男性/女性、子ども/大人、白人/黒人、保守/リベラル、マジョリティー/マイノリティーなど、さまざまな線を引く。
このような線を引くとき、私たちはその線で分かれたどちらかに身を置き、反対側との差異や対立に目を向けてしまう。しかし、差異や対立という考え方だけでは、「自分の側と相手の側の両方を含む社会」という全体を考えることが難しくなる。
だからこそ、「 With コロナ」「Afterコロナ」の社会でも、「社会の内に線を引かない」という社会認識を続けられる かどうか は、私たちにとっての1つの挑戦だ。
線を引くこと自体が誤っているとか、倫理的に許されないとかいうことではない。大切なことは、私たちが常に線を引いてしまう生き物であることを自覚した上で、「社会の内に線を引かない思考力」を働かせることだ。
この思考力は、意識的なトレーニングで養うしかない。
自分の引いている線を認識すること。線で分かれた双方の共通項や共通の利害を見いだしていくこと。自分の引いた線を超える社会の在り方を構想すること。
この積み重ねによって初めて、私たちは、新型コロナウイルス感染症という危機を超えて、「社会の内に線を引かない」社会認識を続けていけるだろう。
安齋耀太(あんざい・ようた)
NPO法人WELgee 理事・戦略室長。当団体の法人化に携わったのち、組織全体のマネジメントを担う。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍中(研究テーマは「国家と難民」「ドイツの庇護(ひご)権」、学問領域は社会学)、神奈川社会福祉専門学校・非常勤講師(担当科目「社会理論と社会システム」)。1990年東京都葛飾区生まれ、千葉県我孫子市育ち。
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