世界を相手にビジネスを行うためには、英語力だけでなく、多様な文化を受け入れるためのグローバルマインドセット、つまり視野の広いもののとらえ方が必要となります。本コラムでは、経営コンサルタントのロッシェル・カップさんにグローバルマインドセット獲得のヒントを教えていただきます。
部下からクレーム!「何をするべきか分かりません」
あなたはドイツに駐在しているマネージャーで、ドイツ人の部下が5人います。ある日、部下の1人が、チームを代表して苦情を訴えるためにあなたのオフィスに来ました。
「このグループの戦略とビジョンが不明確だと思います。われわれは何を目指すべきか、どこに重点を置くべきか、それが分かりません」
それを聞いてあなたは驚きました。戦略もビジョンもすでに十分に部下に伝えたと思っていたからです。このような場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?
日本型コミュニケーションは「阿吽(あうん)の呼吸」
日本の職場では、詳しい説明がなくても、皆なんとなく戦略とビジョンをつかめます。それはなぜかというと、下記の図で見られるように、日本人は言葉に依存しないコミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)を好んでいるからです。
このようなコミュニケーションスタイルを持つ文化の人は、言葉で全てを言い表さなくても意思伝達ができます。そして言葉よりも、体の動き、声のトーン、顔の表情などのノンバーバル(非音声的)なサインに注意を払います。
また共通の予備知識と歴史を持っていることがコミュニケーションの 前提 となっています。日本では、人々は同じ文化的背景を共有している場合が多いため、言語に依存しないコミュニケーションが可能です。
そのうえ日本の職場では、従業員が比較的狭いスペースで一緒に長時間、そして長期間働いているため、さらに「阿吽(あうん)の呼吸」が通じやすい環境になっているのです。
この対照にあるのが、言葉依存型のコミュニケーション(バーバルコミュニケーション)を好む文化です。そのような文化では、コミュニケーションに多くの言葉使います。細部にわたっての言語によるコミュニケーションが重要であると考えられ、曖昧さを嫌います。明確に伝えるために、音声的言語を駆使します。
責任があるのは「メッセージを発する側」
このような文化によるコミュニケーションスタイルの違いを理解した上で、上記のケースをもう一度見てみましょう。このチャートで左の方にある文化、つまり言語への依存が高い文化において日本人がマネージャーになる場合、実はこのような状況が頻繁に発生します。日本の職場で日本人同士の場合ならば、マネージャーが積極的に言葉で戦略やビジョンを説明しなくても、グループで何が必要なのかの意思統一ができます。しかし、日本人のマネージャーが海外で同じようにすると、部下に伝えたいことが伝わりません。 外国人の部下は、上司から言葉による明確な説明をもらうことに慣れている からです。
このケースのような状況の場合、多くの日本人マネージャーは上記の【a】のような 判断 をします。つまり、外国人の部下は察しが悪いと思って、能力に欠けていると決め付けます。しかし、それはほとんどの場合、間違った 判断 なのです。
このチャートの右にある文化では、コミュニケーションを成立させる責任を持っているのは、メッセージを 受け取る 側です。例えばこのケースでは、マネージャーの意思と意図をつかむのは、部下の責任です。
しかし、この表で左の方へいくほど、コミュニケーションを成立させる責任の比重がメッセージを送る側に移ってきます。つまり上記のケースでは、その責任はマネージャーにあるのです。そのため、左の方の文化では、コミュニケーションスキルの訓練は学校教育及び企業内研修の中心的なテーマになっています。
今回のケースのクイズの正しい答えは【b】 または【c】で、理想的なのはその両方をすることです。この マネージャーは、自分が十分だと思う以上に、自分の考えを言葉で部下に明確に伝える努力することが必要 です。日本人を含め、言語で全てを説明することに慣れていない、チャートの右側の文化の人にとって、それはかなりの努力を要する 作業 ですが、言葉依存型の文化の人と効果的なコミュニケーションを成立させるには必要なことなのです。
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編集:GOTCHA!編集部執筆:ロッシェル・カップ
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社 社長。
異文化コミュニケーションと人事管理を専門とする経営コンサルタントとして、日本の多国籍企業の海外進出とグローバル人材育成を支援している。イェール大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営学院卒業。日本語が堪能で、『 反省しないアメリカ人をあつかう方法34 』(アルク)、 『英語の品格』 (集英社) をはじめ、著書は多数。朝日新聞等にコラムも連載している。