さまざまな英単語・英語の表現のニュアンスについて迫る連載第5回。アンちゃんこと言語学者クレシーニ・アンさんが今回取り上げるのは、「移民」を表す英語です。immigrant、migrant、expatriate などがありますが、それぞれから浮かぶイメージは異なっていて……。
目次
今回のテーマ:「移民」を表す言葉とニュアンス
ヤッホー!福岡在住アメリカ系日本人のアンちゃんです。
2月、皆さんと同じように私もミラノ五輪にハマっちゃった。最近、世の中は不安なことが多すぎて、ニュースやSNSを見るたびに絶望的な気持ちになるけれど、やっぱりオリンピックを見ると癒やされたなあ。オリンピックでは、われわれ人間の一番魅力的なところが見られると思う。
今回、特に注目された一人が、フィギュアスケートのアリサ・リュウ選手だった。リュウ選手はアメリカ生まれ、アメリカ育ちの中国系アメリカ人です。父親のアーサーさんが中国から亡命してアメリカに移住した話はよくメディアに取り上げられた。彼は、娘が金メダルを勝ち取って表彰台に立つ姿を見て、またアメリカ国歌が流れるのを聞いて、きっと誇りに思う気持ちが半端なかっただろう。
リュウ選手の話は、まさに「アメリカンドリーム」だ。つまり、頑張れば、バックグラウンドや肌の色など関係なく成功できる。こうしたアメリカンドリームをつかんだ移民がたくさんいるからこそ、アメリカは魅力的だと思う。アメリカのオリンピック選手のうち、約3%が外国生まれで、13.5%は移民の両親を持つ子どもだったそうだ〔*1〕。
最近、日本でも「移民」という単語をよく耳にする。「移民対策」「移民反対」「移民受け入れ」など、毎日SNSのフィードに流れてくる。だけど、「移民」って一体どういう意味?「外国人」とはどう違う?
というわけで、今回は「移民」に関する用語をたくさん解説するから、最後まで付き合ってね。
〔*1:参照〕
・ Commentary: US Olympic team showcases America’s immigrants | msn
・2026 Olympic Team Showcases America's Immigrants | Institute for Immigration Research
immigrant:「永住する」イメージ
英語で「移民」は immigrant と言う。いろいろな英語辞書で調べてみると、一緒によく出てくる共通の単語が permanent(永続する、永続的な、不変の)です。つまり、母国ではない場所に一時的に住むのではなく、「永住する」というニュアンスが強い。そして、結婚して子どもを産み、子孫たちもその国に住みながら移民として新しいアイデンティティーを作り上げる、というニュアンスがある。
Immigrant を使った例文
My parents are immigrants from Europe.
両親はヨーロッパ出身の移民です。
I come from an immigrant family.
私は移民の家族に生まれた。
Immigrants built this country.
この国は移民によって築かれた。
I am an immigrant to Japan.
私は日本への移民です。
I’m a third-generation immigrant.
私は移民三世です。
He is an illegal immigrant.
彼は、不法移民です。
illegal immigrant や illegal alien は「不法移民」という意味の表現で、昔はよく使われていたが、最近のアメリカでは使わない人が増えている。代わりに主流になってきているのは、undocumented workers(滞在ビザがない労働者)という言い方だ。
また、「移住する」という意味の動詞 immigrate もある。
My parents immigrated to the U.S. from Vietnam in the 1990s.
私の両親は1990年代にベトナムからアメリカへ移住しました。
He immigrated here when he was a kid.
彼は子どもの頃にここへ移住した。
migrant:immigrant よりも短いイメージ
immigrant より短期間のイメージが強い言葉は migrant(移住者、出稼ぎ[季節]労働者)、あるいは migrant worker です。この人たちは、自分の国を出て一時的に他の場所で働く。日本語では immigrant に近いけれど、immigrant の方が「永続的」イメージが強い。多くの migrants は農業、漁業、建設業などに従事する。ちなみに、母国アメリカでは最近、migrant はかなりネガティブなニュアンスが強くなってきている。
migrant を使った例文
That company hires a lot of migrants for seasonal work.
あの会社は季節労働のために多くの出稼ぎ労働者を雇っている。
They could not operate without the hundreds of migrant workers they hire every year.
あの会社は、毎年雇っている数百人の外国人労働者なしでは成り立たない。
There is a lot of fake news on the net about the increase in crime among migrants.
インターネット上には、移民による犯罪増加に関するフェイクニュースが数多く出回っている。
「移民」と「難民」の違い
そして、「難民」は英語で refugee という。「移民」と「難民」の最大の違いは、移民は「自ら移住することにした」が、難民は「移住せざるを得なかった」ことだと言えるだろう。難民申請の理由として多いのが、戦争や、宗教的・政治的な迫害。つまり、自分の国に残れば命が危ないから、その環境から逃れなければならなかった。
世界中にはさまざまな refugees がいる。共通点は、人種(race)・宗教(religion)・国籍(nationality)・政治的意見(political opinion)または特定の社会集団に属する(membership of a particular social group)という理由で、迫害を受ける恐れがあるということだ。〔*2〕
〔*2:参照〕
・The 1951 Refugee Convention | UNHCR
・難民とは? | UNHCR 日本
expatriate / expat:より「一時的に住む」イメージ
もう一つのキーワードは expatriate / expat です。日本語で一番近い訳は「海外駐在者(員)」や「海外居住者」。expatriate は主に仕事のために一時的に外国に住む人で、「一時的」だから、社会にそこまで深くはなじもうとしない人が多く、母国のアイデンティティーをしっかりキープする。expatriate は外国に住むのが長期間になることもあるけれど、退職したら必ず母国に帰る。
では、例文を見ていこう。省略形が expat で、こちらの方が日常生活で圧倒的によく使われている。
expat を使った例文
There are a ton of expats from all over the world living in Tokyo.
東京には世界中から来た外国人居住者がたくさん住んでいる。
日本語だと「駐在者」という訳はそれほど使わないから、expat は「外国人(居住者)」と訳した方が自然だろう。
There’s a vibrant expat community in New York.
ニューヨークには活気に満ちた外国人コミュニティがある。
There are a lot of international schools for expats there.
そこには外国人向けのインターナショナルスクールがたくさんあるよ。
I was an expat living and working in England for a few years.
数年間、イギリスで暮らしながら働いていたよ。(=私は数年間、イギリスに住んで働く外国人居住者だった)
U.S. citizens who are expats living abroad still have to file U.S. taxes every year.
海外在住であっても、アメリカ市民は毎年アメリカの税務申告をしなければならない。
アメリカ人が抱く「immigrant」「expatriate」のイメージ
多くのアメリカ人は、immigrant を「アメリカより貧しい国から来た人々」と見なしている。移民は、自分と子どものためにより良い生活を求めて祖国を離れた人々。その「より良い生活」が、アメリカなら手に入る可能性がある。要するに、アメリカンドリームだ。
私が若い頃は、immigrant という言葉には割とポジティブなニュアンスがあって、自分の周りにいる、頑張ってアメリカンドリームをつかんだ周囲の移民の人たちをめっちゃ尊敬していた。でも、残念ながら、最近はネガティブなカラーが強まってきている。
アメリカの歴史を見ると、immigrant の多くはアメリカに来た時点でお金も仕事もないため、かなり「貧しい」イメージが強い。一方、expatriate は高学歴、高収入というイメージ。
《「immigrant」と「expatriate」から連想されやすいイメージ》
・ immigrant → 貧しい、低学歴
・ expatriate → お金持ち、高学歴、白人
では、アメリカを出て、海外に居住する人は immigrant なのか、それともexpatriateなのか――。
英語のSNSはいつも immigrant VS expatriate の論議で盛り上がっている。例えば、長年海外に住んでいる白人が「I am an expat.」みたいなことを言うと、「No, you‘re not. You are an immigrant!」と反論する人が必ずいつもいる。
日本での「移民」が意味するもの
私は白人で、高学歴・高収入に分類されるけれど、私自身の自称は immigrant です。どう考えても私は expatriate ではない。なぜかというと、私の感覚では、immigrant にお金の有無、貧しい国から来たかどうかなんて関係ない。大事なのは海外で暮らすことが「一時的」か「永続的」かどうか。
日本に来た最初の頃の私は、expatriate だったかもしれない。当初は、お金を稼ぐため、そして海外経験を得るために3年間日本に住むと決めていた。ずっと日本で暮らす予定は全くなかったし、アメリカ人としてのアイデンティティーもバリ強かった。
それが、どこかで expat から immigrant に変わった。もしかしたら、2014年に日本での永住資格を得た時だったのかもしれない。でも正直、その時もまだ、ずっと日本に住みたいかどうか分からなかった。
私が確実に「移民」となったのはコロナ禍だ。この国が私の居場所。アメリカに戻る気は全くない。ここに骨を埋めたい。
ところが、周りの日本人たちに自分のことを「移民」だと言うと、「いやいや、アンちゃんは移民じゃないよ」と意外な反応が返ってくる。……なんで?
それはやはり、日本語の「移民」にも英語の「immigrant」と同じようにネガティブなイメージがあるからだと気づいた。SNSを見ると、「移民」と「反対」がセットで目に入ってくる場合が多い。また、英語と違い、日常会話に「外国人居住者」という表現は出てこず、「移民」を「外国人」と言い換える人が多いような気がする。「外国人問題」「移民対策」などの話題では、みな一緒くたにして取り上げられていると思う。
「移民」の定義って何?
世界的な人の移動・移住の問題を専門に扱うIOM(International Organization for Migration:国際移住機関)〔*3〕によると、「移民」とは、国際法などで定義されているものではない。「一国内か国境を越えるか、一時的か恒久的かに関わらず、またさまざまな理由により、本来の住居地を離れて移動する人という一般的な理解に基づく総称」と説明されている。〔*4〕
OECD(経済協力開発機構)は、移民を統計上扱う際、permanent immigrant inflows(永住的移民の流入)を「受け入れ国の観点から、定住するとみなされる外国籍の人の入国(自由移動を含む)」として整理している。一方、留学生や季節労働者のように滞在期間が限られる人は一時的(temporary)な移民として別枠で扱われる。「移民」に国際的に統一された定義がないため、OECDでは統計や政策分析の目的に応じて、こうした区分を用いている。〔*5〕
〔*3:参照〕
・IOM | 国連広報センター
〔*4:参照〕
・移住(人の移動)について | 国際移住機関(IOM)駐日事務所
〔*5:参照〕
・OECD International Migration Outlook 2025
・OECD Permanent immigrant inflows
・経済の動き ~ 移民社会化する日本をどう考えるか | 三井住友信託銀行 調査月報 2024 年1月号
・連載 統計から読み解く移民社会①日本は移民社会なのか?その特徴とは? | 日立財団グローバル ソサエティ レビュー:日立財団
人によって「移民」で浮かぶものは違う
日本では、「移民」という言葉は法律上、統一的に定義されていない。入管庁、外務省、法務省などでも「移民」という言葉はあまり使われていないように見える。政府の統計や在留制度では、「移民」よりも「外国人」「在留外国人」「永住者」「留学生」「技能実習」「特定技能」など、在留資格や制度に基づく用語で区別されることが多い。
以前、別の連載で書いたけど、「日本人」という単語も正式な定義を持たない。人によって「日本人」の基準や感覚は全然違う。「移民」も同じで、人によって「移民」の感覚は違うから、「移民政策」について論じる時は当然、誤解が起こる可能性がある。
例えば、ある人は技能実習生を「移民」だと思うかもしれない。別の人にとっては難民が「移民」で、さらに別の人は留学生を「移民」と呼ぶ。また、私のように、長期滞在の労働者を「移民」と思う人もいる。同じ「移民」という単語でも、口にした時に頭の中に浮かんでくるイメージが違うのだ。
誰かが「アイスが食べたい!」と言ったら、あなたは何を思い浮かべる?言ったその人はサーティワンのロッキーロードを想像しているかも。友達はかき氷で、もう一人はアイスキャンデー、さらにもう一人がソフトクリーム……というように、「アイス」という単語でも浮かぶイメージは違う。ソフトクリームが食べたい人は、サーティワンに連れて行かれたらガッカリするかも!
まとめ
「日本人」「外国人」「移民」「多文化共生」――これらのワードも、聞く人それぞれにイメージがあるだろう。言葉はそういうものだから、それは別に問題ない。ただし、いろいろな解釈があることを認識することが不可欠だ。
私はアメリカ系日本人です。私は移民。私は長年日本で英語を教えている大学の先生。そして、私は日本語が大好きな言語学者。言葉を理解すると、きっと多文化への理解が深まるだろう。
最近は、「多文化共生」についてよく考えている。きっとリベラル系が思う「多文化共生」と、保守系が思う「多文化共生」は全然違うんだろうな。誰か、アンちゃんとの対談を企画してください!
アンちゃんも日本語の謎に沼ってる!?

\言語沼の世界へようこそ/
『日本が好きすぎて日本に帰化した元アメリカ人の応用言語学者が語る 世にも奇妙な日本語の謎』
日本が、日本語が好きすぎて、日本人に帰化した元アメリカ人の応用言語学者が語る。なんでこんなヘンテコな言語を日本人は操れるの!?外国人だからこそ気づいた“日本語の不思議”と、そこに宿る文化の奥深さをユーモアと愛情で綴った一冊です。
◆ 目次 ◆
第1章 ガイジンから見た日本語の不思議
第2章 やっぱり不思議なニホンジン
第3章 日本語はなぜこんなにムズカシイのか?
第4章 これを使いこなせれば「日本人」として認定したい日本語
第5章 何を隠そう「カタカナ語オタク」です
編集部イチ押しのアンちゃん連載
「アンちゃんが見つめた 多様性の懸け橋」

2023年(令和5年)11月21日、アンちゃんは日本国籍を取得。「日本人になりたい」と願い続けたアンちゃんの夢が叶った日でした。この連載では、日本国籍を取得するまでのさまざまな思いや出来事、そして取得後のアンちゃんに起きたことなどをつづります。
「アンちゃんの死語の世界」

昔は誰もが知っていたのに、今はすっかりすたれた言葉――死語となった日本語を、アンちゃんが毎回1つ、ピックアップして解説します!
