英語の発音に自信を持ちたい皆さんへ。ネイティブ・スピーカーのような発音は、口の動きや筋肉の使い方が鍵です。特に母音/ɑː/の発音は、その独特なストレッチ感が要求されます。この記事では、日常の発音エクササイズを通じて、そのネイティブ感を効果的にマスターする方法を紹介します。エクササイズ用の単語やフレーズも掲載しているので、毎日の練習にぜひ取り入れてみてください!
発音ストレッチってなに?
読者のみなさん、こんにちは。藤田佳信です。この連載では、一般アメリカ英語「ネイティブ発音」のお話をしながら、毎日できる発音ストレッチ(※)をご紹介したいと思います。
発音記号の /ɑː/ は、口を大きく開いて、カタカナで表せば「ァアアァ」というふうに声を伸ばして出す母音です。「最初の」とか「もっとも重要な」という意味を込めて、わたしはプライム(Prime)と呼んでいます
英語に比べ日本語の母音はとても短いので、母音の「ア」をうんと長くストレッチします。口の大きな変化を、鏡で確認してみてください。「ストレッチ」ということばを、わたしは次のa)と b)の、2つの意味で使っています。
a)発音に必要な口筋肉のストレッチ
b)話しことばにおける母音のストレッチ(引き伸ばし発声)
a)と b)は、互いに連係プレーして驚くほど効果をあらわします。
ことばを声に出す(発音する)のに、みなさんは口筋肉を、どのように働かせていますか?まずは息を吐き出しながら、閉じた口を開けます。これは、話しことばの基本です。意識してしっかり息を吐きながらこの動作をすると、母音と子音が合体するシラブル(音節)が生まれます。シラブルとは、一番小さな息(音声)のかたまりのこと。話しことばの、最小単位です。1つの音のように発音し、1つの音のように聞こえます。
一息で話す(英語の)ことばは、全て密着しています。ネイティブ・スピーカーが話すのを耳にして、「あれ、聞きとれない、音声に切れ目がない」と聞こえたことはありませんか?実際、音声(シラブル)はすべてくっついていて、単語の始まりも終わりも分かりません。
リスニング・スピーキング上達のヒント
リスニング・スピーキング上達のヒントは、実は強弱のリズムを作る発音動作、ストレス(強勢)にあります(※)。口筋肉を しっかり 働かせ、息を たっぷり勢いよく 出してストレスをかけると、強いシラブルが生まれます。ストレスをかけると、そのシラブルの音声がクリアに際立って聞こえるからです。プライム/??/ は、そんな強いシラブルのなかでも、中心となる母音の1つです。
口唇を閉じた状態から出す音は、子音の/p/、/b/や/m/です。上下の唇を閉じて、息をせき止めてください。ぴったり両唇を合わせます。すると口内で声をつくる声道が閉じられ、息(呼気と言います)は、漏れ出しません。つまり、肺からの空気が閉じた両唇でストップし、息を吐き出せない状態です。そのままだと口の中で呼気の圧力が高まりますね。呼気を出すのが母音の役割なら、呼気を妨害するのが子音の役割なのです。
そんなふうにしっかり閉じた口唇を高まる呼気圧で押し開きます。パァーっとです。発音エネルギーの強い/p/と合体する母音 /ɑː/ にストレスをかけてください。つまり下アゴをゆっくり下げながら息をたっぷり勢いよく出して、/ɑː/をストレッチしましょう!そうするとシラブルの/pɑː/ができます。音声の/pɑː/は、アルファベット文字で表す‘Pa (Papa)’という単語です。
/pɑː/は、始まりの強い子音/p/と母音/ɑː/の組み合わせ。子音の‘consonant’の頭文字Cと、母音の‘vowel’の頭文字Vで表すと、CV型のシラブルです。シラブルの<ひな型>で、赤ちゃんのはじめのことば(early words)に多いです。
言葉を話す初めの頃、赤ちゃんは例えば、イヌ‘dog’のことを‘do’(「ダアアァ)と発音します。語末の子音‘g’がとても弱くて、聞き取りにくいからでしょう。パパを呼ぶ/pɑː/もその1つ、CV型です。そして赤ちゃんは、大人のことば、シラブルの基本形をめざします。イヌなら‘dog’のように、中心の母音(下線部)が、前後2つの子音に挟まれたCVC型です。
/ɑː/のストレッチを実践してみよう
そこでわたしたちもストレッチのエクササイズに、シラブルの基本形のCVC型を使うことにしましょう。例えば、‘pop’ということば、しっかり閉じた口唇を開いて、プライム/ɑː/の声をストレッチし、また口唇を閉じて作ります。動作は単純ですが、実際の発音はストレッチしないと、ネイティブ発音になりません。‘pop’のビジュアル・イメージを描いてみますね。
Poooop(カタカナ・イメージなら、 パア アアp)
(アルファベット文字‘o’を大小4つ重ねて、母音のストレッチを大げさに表現してみます。)
シラブル始まりの子音はオンセットと呼ばれ、発音エネルギーのとても強い子音。おわりの子音はコーダで、とても弱い子音です。それで前の/p/を大きめの字で表し、後の弱い/p/は、両唇を閉じるだけでサイレント(無音)ですから、とても小さな字で表記しています。
両唇をぴったり閉じるのに、口筋肉をしっかり働かせなければなりません。呼気をストップして呼気圧を高める、それが子音/p/などを発音する、大切なポイントです。わたしたちノンネイティブの口唇を合わせる力は、省エネ発音で、とても弱いですから。がんばって口筋肉を鍛えてください。息漏れに要注意!
しっかり合わせた口唇を、高まる呼気圧でパアアアッと破裂させるように開きます。同時にあくびをする要領で、下アゴをゆっくり下げてゆきますね。ゆっくりです。「アアアア」と息をたっぷり勢いよく吐き(声を出し)ながら、下アゴを下げる、限界まで下げてゆくプロセスで生まれるのが、プライム、母音の/ɑː/です。コレが、母音のストレッチ、引き伸ばし発声です。口から生まれるのは、今回のターゲットの母音。人差し指・中指・薬指を重ねて入るぐらい、下アゴを下げてゆきましょう。ゆっくりと。
プライム/ɑː/の発音はエネルギッシュで、ダイナミックです。省エネ発音の日本語の、控えめな「ア」の発音とは比べものになりません。下アゴの下げ具合も、吐く息の量と勢いも。そんなふうにストレスをかけて、がんばって発音しましょう!すると顔の表情も、自然にネイティブらしく大きく変化します。
他にもpop、Bob、pot、dog、hot、jobなどは、ネイティブ感たっぷりの効果を実感できる、エクササイズ用の単語として練習できます(どの単語もCVC型のシラブル1つの単語です。中心の母音のつづり字は‘o’ですが、音声はプライム/ɑː/です。前後の子音、始まりのオンセットは強く、終わりのコーダは弱く)。
毎日のエクササイズは、まずは以下の短文で始めてください。コロナ禍のTVニュースなどで、よく聞いていたかもしれないフレーズですね。強弱のリズムの強い部分を、ストレッチして作ります。
She lost her job.
(‘o’の部分が/ɑː/)
発音ストレッチを毎日やることで、正しい口の動かし方を口筋肉が覚えて、ネイティブの発音に近づいていきます。ぜひ練習してみてください!
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