Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。第6回は提示された和訳の中で、英文の意味を大きく取り違えているのはどの部分かを選択する問題です。
クイズ
下の英文を読んでクイズに答えましょう。
Finally, it is not because you are old that you must use an old-fashioned walking stick. At any age, you want to combine function with fashion. Moreover, if you wish to offer a walking stick to an elderly person who might be a little reluctant to use such an object, a slightly modern appearance is essential to convince them.
―“HOW TO CHOOSE A WALKING STICK HANDLE?”
文脈:イギリスの杖販売店のウェブサイトの文章から。年配の人に杖をプレゼントとして贈る場合に気を付けた方がよいポイントを解説しています。
以下の日本語文はこの英文の和訳例です。この和訳の中で英文の意味を特に大きく取り違えているのはどの部分の訳でしょう。選択肢から選んで下さい。
和訳例
(第1文)最後に、古い杖を使わなければならないのは、年をとったからではない。(第2文)いくつになっても、機能性とファッション性は両立させたいものだ。(第3文)また、そういうものを使うことに少し抵抗のあるお年寄りに杖を贈る場合、少しモダンな外観であることが、相手を納得させるためには不可欠だ。
(1)第1文
(2)第2文
(3)第3文
(4)どれも大きくは取り違えていない
単語・語句
問題を解き終わった人、出てきた語句を理解できなかった人は、ここで確認しましょう。
- old-fashioned:古風な
- function:機能性
- be reluctant to ~:~したくない、~するのに気がすすまない
- modern:現代的な、最新式の
- convince:~を納得させる、~を説得する
ヒント
文脈から考えて違和感のあるところに注目しましょう。
つまずきポイント
形から連想される典型的な解釈にとらわれると正解に気付けないかも。
第1文
第1文では、it is not because … that ~という形から強調構文(分裂文)だと解釈し、that以下のyou must use an old-fashioned walking stick「古い杖を使わなければならない」ということを前提として、その理由について、not because you are old「年をとっているからではない」と述べている文だと考えることができます。
第1文の訳例も基本的に同じ形になっており、大きな問題はなさそうです。この段階ではそう判断して先に進みましょう。
第2文
続いて第2文のAt any age, you want to combine function with fashion.に目を向けます。combine A with Bは「AとBを結び付ける」ということなので、この文は「どんな年齢でも、機能性とファッション性は結び付けたいと思う」という意味だということになります。これも訳例でOKでしょう。
第3文
第3文は少し長めなので、従属節の範囲と全体の主語と述語を見極めることが重要です。
上のような構造が見えれば、「さらに、もし、杖のようなものを使うのにあまり気が進まない高齢者に杖を贈るのであれば、少し現代的な見た目が彼らを納得させるために不可欠である」と述べていることが分かります。細かい違いはありますが、やはり、訳例とほぼ同じと考えてよいものです。
そうなると、3つの訳例全てが英文の意味を大筋では正しく捉えているということになり、(4)が正解ということでよいでしょうか。
ここで、全体を通して考えてみて、ある違和感に気付くかどうかがポイントになります。上で見た通り、第1文では「古くさい杖を使わなければならない」ということを前提に、その理由について述べる形になっていました。ところが、第2、3文を読むと、「いくつになっても機能性とファッション性は両立させたい」「抵抗のある人には今っぽい杖を贈った方がよい」と、どちらかというと「古くさい杖を使わなければならない」というのとは相容れない内容が続いています。むしろ、第2、3文の流れから読み取れるのは「古くさい杖でなくともよい」という趣旨です。
そこで、改めて第1文の解釈が正しかったか確認してみましょう。たしかに、it is not because … that ~というのは強調構文(分裂文)の典型的な形の1つです。しかし、今回の文章では続く第2、3文の内容から、that以下を前提とする強調構文(分裂文)の解釈だと文脈上の矛盾が生じるように思えます。
では、この第1文に対してそれ以外の解釈をすることは可能でしょうか。ここで、改めて第1文を構成する語句を1つ1つ確認し、notが否定しているのがbecauseではなく、that以下なのではないかと考えることができれば、正解に一気に近づきます。
第1文の構造
つまりこの文の核は、it is not that …「・・・ということではない」であり、それにbecause you are old「年をとっているからという理由で」という従属節が挿入されていると考えるわけです。そうすると文全体の意味は「年をとっているからという理由で古くさい杖を使わなければいけないということではない」→「年をとっているからといって、古くさい杖を使わなければならないわけではない」となり、第2、3文とのつながりもスムーズになります。
これに関して、だとすれば第1文はJust because you are old (it) doesn’t mean you must use an old-fashioned walking stick.のような形になるべきなのではないか、と感じた人がいたとすれば、それはもっともな疑問です。たしかに、「・・・だからといって~ということにはならない」を表す最も典型的な構文はjust because … (it) doesn’t mean ~であり、今回もこの形を使っていればより誤解が生まれにくい文になっていたでしょう。
しかし、一般的に強調構文(分裂文)として解釈されるit is not because … that ~の形でも、実は同様の意味を表すことができ、稀にではありますが使用されることもあるのです。
今回のクイズは最初に思い浮かんだ解釈でうまく説明がつかないときに、思い込みを捨てて語句を1つ1つ丁寧に検討することができるかを問う好例だと言えるかもしれません。
解答と訳例
正解 (1)
訳例
最後に、年をとっているからといって古くさい杖を使わなければならないわけではない。いくつになっても、機能性とファッションは両立させたいものだ。また、杖を使うことに少し抵抗のあるお年寄りにプレゼントする場合、少し今風の見た目のものであることが、相手を納得させるためには不可欠だ。
前回までのクイズはこちらから
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