英語学習で最も大切なことは?会社を辞めて人生転換して得た答え

EJ新書 『英語学習法に悩むのをやめる本』 の著者、新多 了さんは、第二言語習得の専門家。なぜ英語教育の研究と実践への道を歩んだのか、英語学習において最も大切なことは何か、などについて、インタビューで語っていただきました。今回は後編です。

▼インタビュー前編はこちら↓

大学は英語専攻でイギリス留学したのに「英語ができない」!自らの悩みから始まった探求の行方は?

大学教員の仕事は3つの能力が求められる

イギリスの大学院を修了した後、日本の大学に就職しました。

名古屋の1つ目の大学で1年半、2つ目の大学で11年教えて、2019年の4月からは立教大学で授業を担当しています。現在は2020年4月に新しく開設された外国語教育研究センターで、立教大学全体の外国語教育プログラムの運営と、新しいカリキュラムの開発を行っています。

大学の仕事は、教育、研究、大学運営の大きく3つに分けることができ、それぞれ必要な力が異なります。教育(授業)なら人前で話す力、研究なら論文を書く力、大学運営ならほかの教員や事務職員と協働する力など。

まったく異なるタイプの力が求められるのが大変なところであり、また楽しいところでもあります。私は人前で話すことが苦手ですが、さすがに10年以上授業で話しているとそれなりにできるようになります。苦手なことは人並みに、得意なことはさらに伸ばすことができると、総合的な人間力が高まります。

また、1つがうまくいかないときは、ほかの業務があって救われる気持ちになることもあります。大人の世界(大学運営)に疲れると、授業で学生に会うのはすごく癒やされたりしますね。

最近と昔の学生を比べると?

現代は昔と比較して、英語がより身近な存在になったことは確かです。

旅行者に加えて、働く外国人の人たちも増えましたし、インターネットを使って海外の情報に容易にアクセスできます。都心部と地方では少し事情が違うかもしれませんが、今の学生は生まれたときからそういったグローバル化された環境に育っているので、英語に触れることや、多様な人たちと接することに対する壁は低くなっていると思います。

「最近の学生は・・・」とよく言われますが、私の感覚では、よくも悪くも、昔とあまり変わっていないような気がします。

いくつかの大学で教えてきましたが、どの学生も真面目です。英語を学ぶときに素直に、与えられた課題をこなすことは大事な要素です。その一方、自分で自分の英語学習に主体的に取り組める人は限られます。

全体的に受動的な姿勢の学生が多いことは昔からあまり変わっていなくて、その理由の一つは学校教育にあるのではないかと思います。つまり、社会が大きく変化しているのに、教育現場はあまり変わらず、十分に対応できていないのです。

新刊では「実践的な英語学習法」を加筆

先ほどお話ししたように、学習に対する主体性が持てる かどうか が英語学習のカギだと思っています。そのため、「ENGLISH JOURNAL ONLINE」の連載では、第二言語習得の視点から、英語学習に対する姿勢について詳しく書きました。

この連載の読者の多くは専門外の方ですので、身近な話題や例を取り上げながら、わかりやすく、かつ丁寧に説明することを心掛けました。

EJ新書には、連載部分に加えて、実践的な英語学習法をかなり書き足しています。初級レベルと中級レベルに分けて、英語学習のポイントと 具体的な 方法を説明しました。さまざまな仕方を紹介していますので、何か参考にしていただけるものが見つかるのではないかと思います。

自分の学びに主体的であれ

今回の連載記事とEJ新書でいちばん伝えたかったことは、英語を身に付けるために最も大事なのは、自分で自分の学びに主体的になることだ、という点です。専門的には、学習者エージェンシー(learner agency)と言います。

英会話学校、オンライン英会話、英語教材など、世の中には英語学習法があふれています。でも、どんな優れた方法を使ってみても、それが中長期的に継続され、しっかりと自分の内側に取り込まれなければ意味がありません。

そのため、どんな方法を用いるかということと 同時に 、自分自身の状態もしっかりモニターして、自分の学習を振り返り続けることが不可欠です。「自分はなんのために英語を学んでいるのか?」「今、英語に対するやる気があるか?」「今、学習に集中できないのはなぜか?」などなど。自分の状態を観察しながら、柔軟に学習方法を調整します。

そして、英語学習は数年、数十年続く長い旅ですので、あまり無理し過ぎず、持続可能な 体制 を作って実行することが大切です。

一生、成長し続けたい

仕事に関する目標は2つあります。

1つ目は、もっと多くの高校生が立教大学で英語を学びたいと思えるような、魅力的で、一人一人が成果を実感できる英語プログラムを作ること。

2つ目は、よい研究をして、よい論文を書き続けること。

今まで自分が書いたどの論文よりもよい論文を書くことはいつも心掛けています。論文を書くことは大変な 作業 なので、今まででいちばんよいものを書くというモチベーションが湧いてこなければ、難しいですね。

そうやって毎回少しずつ進歩して、気が付いたらかなり高い山まで登っていた、というようになるといいと思っています。

さらに大きな視点から見た、人生の目標もあります。それは、死ぬ瞬間まで成長を続けること。

もちろん、年を取れば体力は落ちてくるし、記憶力も衰える。だから、客観的には成長しているようには見えないかもしれません。でも、「昨日よりも少し世の中の理解が進んだ」とか、「この人の考えが受け入れられるようになった」とか、自分の実感として最後の最後まで成長していたいなと思います。

それができれば、本当に幸せな人生だと思います。 半年で会社を辞めようと決心したときの思い が、これまでも、これからも自分を支えているような気がしますね。

EJ新書『英語学習法に悩むのをやめる本』発売中!

「ENGLISH JOURNAL ONLINE」の連載に、レベル別の実践的な英語学習法の章を書き下ろして加えた電子書籍『英語学習法に悩むのをやめる本』。

一生、英語以外の学びにも役立つ「マインド」「やる気アップ法」「学び方の工夫」などを紹介しています。

効果が高いと聞いては、次から次へといろいろな英語学習法に飛び付き、挫折を繰り返すのは、もう終わりにしませんか?

英語学習の本質が含まれる第二言語習得の「理論」と、学生への指導経験に基づく「実践」に裏打ちされた、本物の「学ぶ力」を手に入れましょう!

新多 了(にった りょう)立教大学外国語教育研究センター教授。著書に 『はじめての第二言語習得論講義――英語学習への複眼的アプローチ』 (共著、大修館書店)、 『「英語の学び方」入門』 (研究社)、 『英語学習法に悩むのをやめる本』 (アルク)など。現在は、立教大学の新しい英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる。
写真:山本高裕(編集部)/編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部

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