通訳・翻訳者で、ベネディクト・カンバーバッチさんやエディ・レッドメインさんなどの通訳や英語インタビューも行う川合亮平さん。この連載「通訳者が実践する英語学習法」では、15年ぶりに本格的に英語学習を再開した川合さんに、日々、向上し続けるための方法を多方面から教えていただきます。第4回のテーマは「英語学習を成功に導く6つのクエスチョン」です。
目次
こんにちは、川合亮平です。
これまで少なくない数の日本人英語学習者に直接触れてきた僕の見解として、英語学習が成功しやすいか挫折しやすいかは大体の場合、 学習開始時の学習者の心の持ちようによって決まる と実感しています( ただし 、「挫折」が必ずしも悪いわけではなく、単に「継続しないと 判断 した」という状況だとお考えください)。
今回は、ではどのような心の持ちようなら成功しやすいのか?を 具体的に お伝えします。すでに学習を開始している方にとっては、今回紹介する項目を(できるならじっくりと)考えていただくことで、成功する英語学習者のマインドに近づいていただけると考えています。
成功する英語学習マインドのつくり方
まず、あえて、成功「しにくい」マインドから紹介すると、それは「なんとなくぼんやり始める」です。例えば、広告などを見て、自分の確固たる意志ではなく、一時の感情でなんとなく流されて始める、という感じです(その気持ちはすごくよく分かるんですけどね)。
一方、成功する英語学習マインドはその逆で、まずは自分の頭でちゃんと考えて、頭の中をきっちり 整理する 、ということになります。
ただ、「英語学習についてあなたの考えをきっちり 整理 してください」と言われても、「いや、川合さん、そんなこと急に言われても・・・ただなんとなくしゃべりたいと思ってるだけなんですけど・・・。」と思われる方も少なくないかもしれません。
そこで、「成功する英語学習マインド」への思考プロセスを楽に進められるように、幾つかの質問を用意しました。名付けて、「英語が自動でできるようになるクエスチョン~~」です(←ドラえもんが四次元ポケットからひみつ道具を出すときの感じで読んでみてください)。 これらの質問に答えることで、自分の英語学習に対する考えを明確化させる のが一番の狙いです。
ウェブの記事というのは、「気軽にさらっと流し読み」する 傾向 にあるかもしれませんが、 今後 しっかり英語を身に付けていきたい方にとって、これらの質問にちゃんと答えることは(自分で言うのもなんですが)値千金の行動になり得ると思っています。ですから、できれば時間をかけて答えてみてください。また、将来的には、定期的に見直していただくのも効果的だと思います。
英語が自動でできるようになるクエスチョン
では、じっくり考えてみてください。答えが複数になってももちろん大丈夫です。
Q2: Need /Want : 具体的に どのような英語力が必要なのでしょうか?
Q3: How long :いつまでに(どのくらいの期間で)それを達成(その英語力に到達)したいのでしょうか?
Q4: Action :それを達成するために何をしますか?
Q5: When :上記の Action はいつしますか?
Q6: Where :上記の Action はどこでしますか?
例えば、Q5で「学習時間は朝」と決めたなら、30分の眠りを断つことを意味するかもしれませんし、「毎日退社後の30分」と決めたなら、(少なくとも目標を達成するまでは)飲み会を断つことを意味するかもしれません。
でも逆に、自分で「決断」したからこそ、そこに確固とした学習時間が生まれるわけですよね。When(いつ)が曖昧だと、日常のさまざまなイベントによって、学習時間がうやむやに消えてしまう 可能性 が高くなります。
イギリスの歴史学者で政治学者のシリル・ノースコート・パーキンソン氏が提唱した「パーキンソンの法則」というものがあります。僕も詳しく理解しているとは言い難いのですが、基本的な考え方としては、「空いたスペースは、自分が意識的に埋めなければ、外的要因によって無作為に埋められてしまう 」ということだと理解しています。つまり、時間というものは誰にでも平等に与えられているが、自分でしっかり優先順位を決めて、それに対して 意識的に時間を使っていかないと、ぼんやりしていたら時間は他のことで自然に埋まってしまう 、ということです。
英語力をアップさせたいなら、いつ、どこで、どのくらい、英語のための時間をつくるのかを、まずは自分で決断しないと、スキルアップの機会は永遠に訪れない・・・、というのを日々、自分に言い聞かせています(そして、この考え方は英語力に限ったことではなく、ですよね)。
決断して翻訳家デビューした友人の話
僕の高校時代からの親友にヒガシ君という男がいます。小説とボクシングをこよなく愛する会社員です。数年前、彼から LINE メッセージが入りました。詳しい内容は忘れましたが、趣旨は「洋書が読めるようになりたいんだけど、川合の知恵を貸してくれ」でした。
ヒガシ君は中学・高校と一般的な英語の授業を普通に受けたのみで、特に英語に興味があるわけでもなく、その後20年ほどは全く英語に触れない生活をしていました。
しかし、当時、40歳を目前にして何か思うところがあったのでしょう、「洋書が読めるようになりたい」という願望が湧いてきたようです。もっとも、これは突拍子もない発想では決してなく、 そもそも が小説をこよなく愛する男なので、「好きな英米小説を原書で読んでみたい」という長年の静かな気持ちが、たまりにたまって顕在化した、と僕は考えています。
そんなヒガシ君に僕が送った LINE の返事は至極シンプルなものでした。
「洋書を読めるようになりたければ、洋書を読んでいくしかない」
ぶっきらぼうではなく、僕としてはこれは真理だと実感していますし、彼にもその真意は伝わると思ったのです。なお、彼へのメッセージには一応補足として、夏目漱石さんも村上春樹さんも同じようなことをハッキリと発言していらっしゃるぜ、ということは付け加えておきました(両者がいわゆる「英語多読」を推していらっしゃるのは、本当のことです)。
かくしてヒガシ君は、40歳までに好きなペーパーバックを気軽に読めるくらいの読解力を付ける、という明確な目標を胸に、人生の新たなチャレンジに出航したのです。彼はもともと、家族が起きてくる前の朝4時に起床して「マイ・クオリティー・タイム」をつくり、その時間に読書を楽しむ、というのが日課だったようなのですが、英語力向上を標榜してからは、読書時間の半分を英語読書に充てると「決断」しました。
それから現在に至る約4年間、着実に洋書を読む時間を積み重ねた結果、今、ヒガシ君はどうなっているのか?もちろん、試行錯誤やトライアル&エラーの連続ではあると思いますし、英語読解力というのは単純に「読める・読めない」の二極ではなく、グラデーションであることを重々承知しつつ書かせていただくと、「ジュンク堂難波店さんに行って、洋書セクションで普通に読みたい洋書選べるで、オレ!」な状態に到達しています。
彼の読書チョイスは、以前とは比べ物にならないほど豊かになっています。 英語が読めるようになったことで、人生で幸せを感じる対象が何倍にも深く、広くなった のです。
Why、 Need /Want、How long、 Action 、When、Whereをガッチリ固めて開始したヒガシ君の英語読書チャレンジは 今のところ 「成功」、“ So far so good.”と言って良いと僕は思っています。そして、なんと昨年は、僕と共訳で本を出版することもできて、僕としてもある種の確かな達成感を感じずにはいられません。
- 作者: ジョンアトキンソン,川合亮平,東佑亮
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- 発売日: 2018/06/23
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かどうか 」が分かれ道">「長い目で見られる かどうか 」が分かれ道
ビル・ゲイツさんは、次の趣旨の発言をよくされるようです。
We tend to overestimate the short term and underestimate the long term .とかく結果や効果を急ぎがちな僕としては、人生をより快適に有意義に生きていくのに、とても 有効 な教訓だと思っています。 本当に価値のあることは、往々にしてじっくり時間と労力をかけて育てていくもの なのですね。われわれは、短期的な結果に期待し過ぎる 傾向 にある。一方で、長期で取り組んだときにもたらされる大きな結果 に関して は過小評価し過ぎる 傾向 にある。
ちなみに 、「じっくり確実に成長していきたい」方にとって、「コツコツのすさまじい威力」を科学的に証明してみせている全米ベストセラー本『The Compound Effect 』は一読の価値があると思いますよ。長期的な目で物事を捉える感覚を養うことができる一冊です。
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では、次回の記事もお楽しみに!川合亮平でした。
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満足するまで学習に終わりはない、いつからでも、続けるための方策がある――「英語」のみならず、大人の「学びと向上」に対する多くのヒントも得られる一冊です。
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文:川合亮平(かわい・りょうへい)
通訳・翻訳者。最近の通訳実績はエディ・レッドメイン来日イベント(OMEGA主催)、TBSドラマ『グッドワイフ』制作会議など。関西のテレビ番組で紹介され、累計1万部を突破した『 「なんでやねん」を英語で言えますか? 』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・監修書は現在9冊。イギリス現地の観光・エンタメ・文化情報を伝えるジャーナリストとしても活動中。
ブログ: https://ameblo.jp/ryohei-kawai-blog/
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