数々のハリウッド大作に出演されてきた、日本を代表する国際派俳優、渡辺 謙さん。渡辺さんは2015年にミュージカル『The King and I 王様と私』の王様役でブロードウェイ・デビューし、日本人として初めて、トニー賞ミュージカル部門主演男優賞にノミネートされました。ニューヨーク、ロンドン公演に続き、東京での公演を終えたばかりの渡辺さんに、お話を伺いました。
「こんなに大変だとは思わなかった」ミュージカルへの挑戦
渡辺さんにとって、初めてのブロードウェイミュージカル出演は大きなチャレンジでした。日常会話では使わない英語表現、ミュージカル特有の発声、多いときには1日に二幕の舞台をこなすハードな日々……。特に王様は、まるで早口言葉のような歌やセリフもたくさんあります。
渡辺さんは「こんなに大変だとは思わなかった」と話します。
東京公演を終え、「ハードな生活からやっと解き放たれた」とほっとした様子の渡辺さんですが、 新しい世界に挑戦することが好きな「根っからのチャレンジャー」。 ミュージカルへの挑戦は大変だったと言いつつも、それが楽しくて仕方がない様子が表情からにじみ出ています。
演劇は“play”、遊びの“play”と同じ
渡辺さんのチャレンジといえば、42歳の時、ほとんど英語が話せない状態で『ラスト サムライ』(2003)に出演し、ハリウッドデビューを果たしたことが挙げられます。しかしそれよりもずっと前から、チャレンジを楽しむ姿勢は身に付いていたといいます。きっかけとなったのは、ある外国人演出家の言葉でした。
俳優になりたての20代の頃、イギリスの著名な劇団出身の外国人演出家と仕事をする機会があったそうです。「彼に、『なぜ君たちはそんなに深刻な顔をしているんだ? 演劇は“play”、子どもが遊ぶときの“play”と同じだ。日常の中から何かを発見したり、新しいことに挑戦することを面白がろう。 そうでないと、見ているお客さんも楽しくないだろう』と言われたんです」
この言葉は、強く渡辺さんの心に残りました。昔から、新しいものに対してオープンでありたいという気持ちは持っていたそうですが、それに加えて、新しいことに挑戦し、試行錯誤することを楽しむ姿勢を持つようになったといいます。
「何が話せるか」が大事
今では英語での映画や舞台出演はもちろん、海外メディアのインタビューも難なくこなす渡辺さんですが、普段は、「特別英語の勉強はしていません」と話します。「生活の中でしゃべるだけ。勉強は、『やらなきゃいけない』という状態にならないとやらないんだよね」と笑います。
「やらなきゃいけない状態」というのはもちろん、海外作品への出演です。「英語のセリフがある場合は、必ず(セリフ指導を行う)ダイアログコーチについてもらいます」。今や海外でもベテラン俳優の渡辺さんですが、取り組む姿勢は謙虚です。ネイティブではないのだから、足りないところはプロの手を借りて努力する。「それは決して恥ずかしいことではないですからね」と強調します。
重要なのは、 「『英語が話せるか』だけではなく、『何が話せるか』」 だといいます。ただ台本に書かれた英語のセリフが話せればいいというものではないのです。日本人として、アジア人として、その作品に出演するからには、背景となる文化や歴史を、監督や共演者、海外のメディアなどに説明すべき場面が出てきます。「その時に、そうした知識を持っていなかったり、表現すべき自分の考えがなければ、話の中身が空っぽになってしまう。話す相手もつまらないと思います」
新しいことに挑戦し、見る人を楽しませたい。試行錯誤をしてよりよい作品を作り、観客を喜ばせたい。渡辺さんは、サービス精神が旺盛です。海外でのメディア対応でも、その精神は発揮されています。 「英語でインタビューを受けるときにも、とにかくウケたい。相手を笑わせたいんです」 と、いたずらっぽい笑顔を見せます。「英語、日本語にかかわらず、ユーモアって大事。言葉の選び方だけでなく、間の取り方や機転の利かせ方を、いつも考えています」
『ENGLISH JOURNAL』11月号は明日発売!
10月4日(金)発売の『ENGLISH JOURNAL』11月号「あっぱれジャパニーズ」では、渡辺 謙さんのインタビューをさらにお楽しみいただけます。『王様と私』のストーリーのテーマとなっている「異文化間の相互理解」や、NY・ロンドン・東京での観客のリアクションの違いなどについて、お話しいただきました。
取材・文・構成:大井明子(ライター)/須藤瑠美(ENGLISH JOURNAL編集部)
写真:田村 充
衣装協力:ブリオーニ/ブリオーニ ジャパン03-6264-6422、ヘアメイク:筒井智美(PSYCHE)、スタイリスト:馬場順子
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