「虫の音」「初雁」・・・美しい季節の日本語、英語で説明できますか?

日本語には、季節の移り変わりを表す美しい言葉がたくさんあります。ところがいざ英語で説明しようとすると、なかなか難しいもの。『英語で伝える茶の湯の銘100 100 Beautiful Words in the Way of Tea』では、英語ネイティブスピーカーである著者が、茶道の世界で使われる季節の言葉を紹介しています。今回はこの本から、秋の訪れを感じる時期にぴったりの季節の言葉を紹介します。

「茶の湯の銘」って何?

この本のタイトルにもなっている、「茶の湯の銘(めい)」とはなんでしょうか?

「銘」とは、茶道の世界においてお茶碗、抹茶をすくうための茶杓(ちゃしゃく)などの道具や和菓子に付けられる雅(みやび)な名称のことです。

日本の古典文学や禅語から取られる銘もありますが、銘の多くは季節を表す言葉です。

例えば、新年のお茶会に「初夢(はつゆめ)」という銘が付けられた茶杓を使ったり、夏の暑い時期に「氷室(ひむろ)」(天然の氷を夏まで保存する貯蔵庫のこと)という銘が付けられた涼やかな和菓子を出したりします。

茶席に招かれた客は、ホストである亭主から「銘」を聞き、亭主がその茶会に込めた思いを推しったり、季節感を味わったりすることができます。

この本では、そんな茶の湯の世界で使われている季節の銘を、アメリカ出身の茶人、ブルース・濱名宗整(はまなそうせい)さんがバイリンガル表記で紹介しています。

この本から、今の季節にぴったりな秋の言葉と、英語での説明の仕方を見ていきましょう。

「虫の音」を英語で説明するには?

最近は強い日差しが痛いほどの真夏日も少なくなり、比較的過ごしやすい気温の日が増えてきましたね。夜に外から虫の鳴く声が聞こえてくると、もう秋が来るんだな、としみじみ感じます。

秋に聞こえる虫の声を指す「虫の音(ね)」ですが、英語ではどう説明すればよいのでしょうか。本書では下記のように説明されています。

Mushi no ne means the chirping of insects. This phrase refers collectively to the songs of a varieties of crickets and Japanese katydids. These insects generally chirp in the evening and night, and intensify the desolate feeling of the autumn. Korogicricket ,” suzumushi “bell cricket ,” and matsumushi “pine cricket ” were raised in baskets called mushikago so that people could enjoy their chirping more easily.

虫の鳴き声のこと。コオロギやキリギリスといった虫の鳴き声をまとめてさした句。こうした虫は一般的に夕方や夜に鳴き、秋の夜の寂しさをいっそう強くさせる。鳴き声を楽しむため、コオロギや鈴虫、松虫を「虫籠」と呼ばれる籠に入れて育てた。

「虫の音」という言葉を通して、虫の鳴き声に季節感を見いだすという日本の文化も伝えることができますね。

秋の季語でもある「初雁」って?

「初雁(はつかり)」は、秋の終わりである10月の始め頃に日本に渡ってくる雁のことを指します。

Hatsukari refers to the first geese that arrive in late autumn of the year.

晩秋にやって来る、その年はじめての雁のこと。

The geese have long heads on fat, gray bodies and short tails. From ancient times, the plaintive cries of the geese were much admired, particularly when they first began to arrive, flying in straight lines against the autumn sky.

雁は頭部が長く(体が *1 )ずんぐりしており、体は灰色で尾が短い。古来、雁の悲しげな鳴き声は非常に称賛され、特に秋の空を一列になって飛んでくる初雁の声が良いとされた。

虫の声に耳を澄ませたり、空を見上げたり・・・忙しい日々の中では自然のささいな変化を見逃してしまいがちですが、確かに移り変わる季節を見逃さないように楽しみたいものですね。

アメリカ出身の茶人が感じた「日本語の美しさ」

著者のブルース・濱名宗整さんから、特別に英語でコメントを頂きました!

アメリカで育ったブルースさんは、なぜ日本の茶を学ぼうと思ったのでしょうか?また、どんな思いでこの本を執筆されたのでしょうか。

ぜひ英語での読解にチャレンジしてみてください。

I am a third generation Japanese-American and was raised in American culture. I began practicing chanoyu “tea ceremony” to learn more about my Japanese roots. About 40 years ago, I came to Japan and now I teach foreigners like myself at the Urasenke Gakuen Professional College of the Way of Tea in Kyoto.

As the world turns its attention to Japan and Japanese culture, more and more people, especially foreigners, are interested in experiencing chanoyu. Since gomei “ poetic names” are an important part of chanoyu, they are very useful to explain chanoyu to foreigners. I hope you will find this book useful on such occasions.

Since the gomei used in chanoyu reflect Japanese events, festivals, food, and seasonal scenery, particularly those of Kyoto, learning these beautiful words in this book will help you to understand the “Japanese sense of the seasons” and to explain it to people from abroad.

At the same time, many of the chanoyu gomei in this book are poetic expressions and words which have been used in haiku and waka poems, so it is hoped that by reading this book you will be able to experience directly the beauty of the Japanese language.

私は日系3世で、アメリカ文化の中で育ってきました。自分のルーツである日本のことを学びたいと思い茶道の稽古を始めました。約40年前に来日し、現在は京都にある裏千家茶道の専門学校(裏千家学園)で、私と同じように茶道を学びに来た外国人を指導しています。

世界中が日本と日本文化に目を向ける現在、茶道を体験したい人、中でも特に外国人が増えています。ご銘(銘のこと)は茶道にとって重要な要素なので、茶道を海外の方に説明するのにとても便利です。そのような機会にこの本が役に立つことを願っています。

茶席で使われる銘には、京都を中心とした日本の行事や祭り、食、季節の風景などが反映されているので、これらの美しい言葉を本書で学ぶことは、「日本の季節感」を理解し、それを海外の方に説明するのにも役立つでしょう。

同時に、茶の湯の多くの銘は俳句や和歌などから取り入れた詩的な表現なので、本書を読めば「日本語の美しさ」を改めて実感していただけると思います。

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