世界100カ国以上の現地在住日本人ライターやカメラマンの集団「海外書き人クラブ」がリレー形式で担当する連載「世界のニホンゴ調査団」。第18回はアメリカ在住のハントシンガー典子さんが「Matcha」についてレポートします。
アメリカの健康ブームでスーパーフード化した Matcha
2006年、タリーズコーヒージャパンによる抹茶専門店「クーツグリーンティー」がシアトルに海外初出店を果たし、「コーヒーの街に抹茶?」と、日系コミュニティーは驚きをもって迎えました。すでに閉店しましたが、今になってみれば「あと10年待っていたら・・・」と、歴史のIF(もしも)を感じてしまいます。なぜなら、今やシアトルをはじめ全米の都市圏で抹茶が大ブームとなっているからです。
ブームの火付け役はもちろん(?)、ニューヨーカー。数年前からファッション界やセレブの間でインスタグラムにより拡散し、セレブが抹茶ビジネスに乗り出すと、メディアもそれを追います。トレンドに敏感で、新しモノ好きなインフルエンサーは、「旬のスーパーフードは抹茶!」と飛び付き、やがて一般にもブームが広がりました。そして、旧来のコーヒー文化への対抗馬として力を付けていくのです。
以下はニューヨーク発の抹茶ブランド、Cha Cha Matcha のキャッチコピーです。
We started Cha Cha as an alternative to artisanal coffee culture and the extreme, hyperbolic world of energy drinks. This is not your ordinary caffeine fix .Cha Chaは、昔ながらのコーヒー文化や行き過ぎて大げさなエナジードリンクに取って代わるものとしてスタートしました。そこらのカフェイン飲料とは全然違います。
Matcha はカフェやスイーツ、一般家庭にも浸透
そして2019年、抹茶はすっかりカフェの定番になっています。以前も日系やアジア系の店では見られましたが、「コーヒーの街」であるシアトルの一般的な店でさえ、ミルクと抹茶を融合させた「抹茶ラテ」をよく見掛けます。抹茶の緑色と、ミルクの白で描かれるラテアートがまたかわいくて、確実に「インスタ映え」な1杯です。ほかにもコーヒードリンクのように多様化し、さまざまな味や香りとミックスさせたフレーバー抹茶ドリンクが豊富にあります。
全国チェーン店のピーツ・コーヒー&ティーでも、今年の夏のイチオシドリンクとして、冷たい抹茶ドリンクが堂々とポスターになっていました。オーダーしてみると、フルーティーな甘さと抹茶の苦味が絶妙で、スッキリとした爽快感。日本人の舌にも「アリ」だと感じました。
2018年12月に日本からシアトルに進出した、ナナズグリーンティーも大人気です。抹茶ドリンクはもちろん、白玉がいっぱい入ったパフェ、抹茶を使った焼き菓子など、スイーツを注文する人が目立ちます。もちろん、みんなスマホで写真を撮りまくりです!
ナナズグリーンティーのように専門店も続々登場していますが、一般のスイーツ店でも、抹茶フレーバーを取り入れています。
シアトルでは、アイスクリームにケーキ、マフィン、クッキー、マカロン、ドーナツと勢ぞろい。コストコを始め、近所のスーパーマーケットでも抹茶を使ったスイーツや、抹茶の粉が販売されているので、現在は一般家庭にも抹茶が浸透しています。
普通に飲むだけでなく、ベーキングやスムージー作りに使う人も。その健康パワーを買われてサプリメントや抹茶コスメまで出てきています。
I have been a coffee drinker for a long time. This is a great replacement . The health benefits of Matcha are a huge plus!長い間、コーヒー愛飲者だったけれど、これは素晴らしい代替品よ。抹茶を飲むことによる健康上のメリットはかなり大きいわ。
Matcha の持つ和のイメージ
Green Tea Powder
現在のように Matcha という日本語が英語に根付くまでは、抹茶のことを Green Tea Powder や Zen Teaとも言い、日本文化や禅思想を思わせるイメージ がありました。Coffee Time に代わる Matcha Time は、アメリカ人には、より健康的でリラックスしたものになるのかもしれません。Matcha Break は、まさに癒やしの休憩時間。瞑想(Zen Meditation )に抹茶を取り入れる効果も提唱されています。
実際、近所の 空手教室では稽古の合間に「Matcha」と呼ばれる休憩時間があり、日本の故事成語、慣用句、ことわざなどを子どもたちに紹介しています 。正座をして先生の話に聞き入る子どもたちの様子は、まるで寺での説教の時間。Matcha がいろんな形でアメリカに日本の文化を伝えています。
Matcha! Have a seat please. Today's theme is “Nikai kara megusuri.” It means “Eye drops from the second floor” in English. That will be quite useless.休憩! 座ってください。今日のテーマは「2階から目薬」。つまり、全く役に立たないという意味です。
まとめ
シアトルでも伝統的な茶室、茶道教室、コミュニティーイベントでの野点体験など、本来の抹茶文化に親しむ機会はあります。しかし、この Matcha ブームのように日本の文化が一般に浸透するには、そうした堅苦しい形式は外して、カジュアルに変化を楽しむくらいの方がいいのかもしれませんね。
文・写真:海外書き人クラブ・ハントシンガー典子