世界100カ国以上の現地在住日本人ライターやカメラマンの集団「海外書き人クラブ」がリレー形式で担当する連載「世界のニホンゴ調査団」。第16回は、トルコ在住の横溝絢子がレポートします。
トルコでは、瞬間接着剤を「日本のり」と呼ぶ!
1980年代にトルコで初めて売り出された瞬間接着剤は日本製。接着剤の専業メーカー、株式会社アルテコにより発売されました。
その際のパッケージに、Made in Japanという印字および日本語での説明があったことから、瞬間接着剤の通称が、japon yapıştırıcı(ジャポンヤプシュトゥルジ。「日本のり」の意味)に。その後トルコメーカーからも類似品が販売された際に、各メーカーが日本のりという通称をパッケージに記載したことから、日本のりという名前が通称となりました。小さい筒型の入れ物に入った1.5グラムのもので約20円(2019年9月現在)程度で買うことができます。
瞬間接着剤のトルコでの正式名は Super yapıştırıcı(スペルヤプシュトゥルジ。「スーパーのり」の意味)ですが、 わざわざ「Japon」の文字を加え て、Super *japon yapıştırıcı(スペルジャポンヤプシュトゥルジ)と記載するメーカーが多いのです。
雑貨店の通称も「日本」
さて、この「Japon」という言葉、「日本のり」以外にも使われています。
例えば食器、文房具やキッチン道具など食品以外の日用雑貨を安く売っているお店の通称が「Japon Pazari」(ジャポンパザル。「日本バザール」の意味)。「安売り雑貨店」といった意味で使われます。最初にこういった安い商品をトルコに売り出したのが日本の企業であったことから、この名前になったと言われています。
日本バザールという名前にもかかわらず、現在では日本製のものはほとんど売っていません 。売られているものは、トルコ製や中国製の廉価な作りのもの。あまり長持ちしない商品が多いですが、気軽に買い物できるので庶民には人気のショップです。
Japon(日本)と名前が付く雑貨は売れる
日本バザールで買うことのできる つまようじも Japon Kurdan(ジャポンクルダン。「日本ようじ」の意味)と呼ばれ ています。
トルコにも木製のようじはあるのですが、太く使いにくく、日本で作られている製品が細く使いやすかったため、日本ようじと呼ばれ広まることになりました。
日本のようじと違うところは、両方がとがっていて、どちらにも食べ物をさせること。トルコでは日本ほど細かく切って食べるものがないため、ようじを使わず、フォークだけで済ませる人々も多いです。
日本好きの理由には130年の歴史あり
トルコが日本好きになった理由の一つにトルコの軍艦「エルトゥールル号」の遭難事故があります。明治22年オスマン帝国皇帝アブデュル・ハミット二世は、オスマン・パシャ特派大使海軍少将を特派使節として日本に派遣しました。
日本に滞在すること3カ月、日本帝国の国賓として扱われ、9月14日横浜港を出発し、イスタンブールへの帰路に就きました。
エルトゥールル号は、横浜港を出た翌々日の9月16日、串本町大島樫野崎沖を航海していましたが、同海域で台風に遭遇し、猛烈な波浪と強風のために航行の自由を失い、次第に樫野崎に寄せられ、船甲羅岩礁に激突しました。船体破損部から流入した海水が機関の爆発を引き起こし、オスマン海軍少将以下587名が殉職、生存者わずかに69名という大海難事故となりました。
当時の大島島民は不眠不休で生存者の救助、介護、また殉難者の遺体捜索、引き上げにあたり、日本全国からも多くの義金、物資が遭難将士のために寄せられました。
この 歴史的な「友情と絆」の物語 が、 2015年12月に日本・トルコ合作映画『 海難1890 』として公開され ています。
まとめ
トルコ人に「Japon」のイメージを聞いてみました。
Made in Japan products are detail oriented and useful. Unfortunately, Chinese and Korean electric appliances are much cheaper in Turkey so we can not afford Japanede one. Japanese cars are also practical but the repair services are less here and that’s why we see European cars often here.日本製の物は作りがとても丁寧で便利だよね。でも電化製品は、トルコでは中国製とか韓国製が安くて日本製のものは手が出なくて残念。日本製の車も性能がいいんだけれど、修理サービスできるところが少ないから、トルコではヨーロッパ製がよく走っているんだよね。
古くからの親日国トルコで、意外なところに残る「Japon」という言葉。実際の生産元は日本でないことがほとんどなのですが、 日本と記載すればイメージアップ するので、トルコでは日本と書かれたたくさんの製品を見つけることができます。
文・写真:海外書き人クラブ・横溝絢子