アメリカ人も理解できないアメリカの英語って?!【イージー英会話表現】

英会話の達人、カン・アンドリュー・ハシモトさんが今回取り上げるのは、アメリカ人でも理解できないことがあるという、アフリカン-アメリカン英語について。生の英語に触れられるのは素晴らしいですが、ハシモトさんのような怖い体験はあまりしたくないですね。

楽しく悲しいスポーツの思い出

僕は子どもの頃からチビだったので、身体の大きさとパワーがモノを言うアメリカのスポーツではいい思い出がほとんどありません。

高校生になったら、全てのアメリカ人の憧れのスポーツ、アメリカンフットボールを絶対にやるぞ、と小学生のころから決めていたのに、高校に入った初日、申し込みに行った教室で、体育の先生に「つぶされた空き缶(crushed can)になりたいのか?」と大笑いされました。

冬になったらバスケットボールかアイスホッケーを選ぶことができるのですが、田舎の小さな高校なのにダンクシュートができるクラスメイトが3人もいたり、車のタイヤを投げつけてコヨーテの群れを追い払ったことがあるfridge(冷蔵庫)というニックネームの巨大なクラスメイトがいたり、チビの僕は冬のスポーツでも活躍どころかチームに入れてもらうこともかないませんでした。

「フットボールもアイスホッケーも、ヘルメットやマウスピース、ショルダーパッド、ニーパッドなどいろんなモノを買いそろえる必要があるが、Kan、おまえの場合はさらに coffin (ひつぎ)も準備しなきゃならないぞ」と笑った前述の体育の先生に対して、父親は最初は怒っていました。でも、その口調を何度かまねするうちに笑い出してしまって、結局、最後は家族中で笑う、という楽しいのか悲しいのかさっぱり分からない思い出もあります。

陸上競技のロッカールームで出合った衝撃的事件

スポーツにはいい思い出が 少ない 僕でしたが、唯一足だけは少し速くて、春の track and field (陸上競技)で選抜メンバーに選ばれました。僕は17歳のとき100メートルを12秒00で走った記録を持っているのですが、それはアメリカの高校生アスリートとしては「Not bad.(まあまあ)」くらいのもので、大した記録ではありません。

ただ、Mike B.という同級生が11秒前半で100メートルを走ったので、僕を含めた4人が4x100m relay (four by one hundred meter relay と読みます。4人それぞれが100メートルを走るリレー走です。four by oneと呼ばれることが多いです)でいくつかの競技会( track meet )に出ることができました。

近隣の数校が集まった地元の大会に勝ち、少しずつ大きな競技会に勝ち上がるたびに変化していったことがありました。それは選手たちの人種の比率でした。競技会が大きくなるに従い、African-Americanの生徒たちの数が増えていき、County(群)の大会では、sprint(短距離)に出る選手のロッカールームは、肌の黒い人たちが大半のように見えました。

僕が暮らしていた地域のAfrican-Americanの人口はとても少なく、学校にも一家族しかいなかったので、僕たち4人はAfrican-Americanの人たちの話し方、雰囲気、コミュニケートの仕方などにそのとき初めて触れました。

County大会の当日、ロッカールームはAfrican-Americanの選手ばかりでした。彼らを僕はきっと情けない顔で見つめていたのでしょう。同じチームのSteveが笑いました。

What kind of face is that, Kan? You know what I told you? I don’t care. I’ll beat them.(何て顔してるんだ、Kan。きっとこうだって言ったろ?オレは気にしない、やっつけてやるよ)
僕たちがここまで勝ち上がってきたのは決してSteveのおかげではなく、ただただMike B.の活躍と、強いチームの選手たちがフライングで退場になることが続いたからだったのですが、僕はそのときはSteveにうなずきました。
I’ll do my very best.(がんばるよ)・・・どこまでも気弱な僕
僕たちが母親から持たされたチキンレッグスやリンゴ、ポテトチップスをほお張っていたとき、突然、大音量の音楽が聞こえロッカールームのドアが開きました。肩に僕の胴体くらいのサイズのSony製ラジカセを乗せ、金のネックレスをしたものすごく太った男性を中心に、数人の男たちがロッカールームに入ってきました。

ラジカセから流れる音楽はKool & the Gang *1 で、彼らは全員African-Americanでした。彼らは出場選手を片端から激励するようにhigh fiveをして回りました(Kool & the Gangは僕は大好きなグループなのですが、このときばかりは彼らに似合いすぎていて、本当はこういう人たちのための音楽なのかな、などと思いました)。

Yo-yo, nigger, what’s up?(よぉ、おまえ、元気か?)
今ではrap musicでよく聞く “yo-yo”というあいさつも、African-American同士では本当にniggerと言い合うことも、僕はそのとき初めて耳にしました(niggerは人種が違う人は絶対に言ってはいけない言葉ですが、彼ら同士では驚くほど多くこの言葉を使って声を掛け合っています。後に福生の米軍基地でも何度も見かけました)。

選手の首をつかんで一人が言ったせりふも、映画でしか聞いたことがない表現でした。

He bin laughing. (He been laughing.)(こいつ、いつも笑ってばっかりいるんだよ)
一般的な英語表現ではHe’s always laughing.です。

中心人物に見える太った男性はTシャツに短パンでしたが、後ろにはサングラスにスーツの男、ピンクのスウェットでドレッドヘアの男性など、少なくとも彼らは大会の参加選手には見えませんでした。しかし口ぶりからすると、どうも彼らも同じ高校生のようでした。

太った男性はロッカールームの選手たちを激励して回った後、最後にゆっくりと僕たちのところに来ました。人種が違うのは僕たちだけでした。僕より頭2つ分くらい大きな彼は僕の頭の上にあごを乗せ、言いました。

Good evening, Chinaman. How you are? (よお中国人。元気か?)
僕はおしっこが出そうなくらいにビビっていた(freaked out)ので、何と答えたのか覚えていません。ただ「あのギャング映画でもHow are you?じゃなくてHow you are?って言ってた、Who is he?じゃなくてWho he is?と聞いてた。あの不思議な表現はウソじゃなかったんだ」とそんなことを思っていました。

僕の隣で固まっていたSteveの肩に、彼はゆっくりとラジカセを乗せながら言いました。

If you win, I’m a shoot you.(おまえが勝ったら、撃ち殺す)
子どものころからギャング映画ばかり見ていたので、僕は詳しいのです。この不思議な位置にaを入れることで、African-Americanの人たちの表現ではI’ll shoot you.という意味になります。ここでもやはり「あ、あの言い方だ」と思った記憶があります。

Steveが本気を出したからといって大会の結果には全く 影響 はないのですが、そう言われてSteveは “All right , sir.”と答えていました。

同じ言語を話すのに全くbackgroundが違う人たちと触れたのはそのときが初めてで、僕たちにとっては大きなカルチャーショックでした。大会はもちろん最悪の成績でしたが、僕にはいい思い出です。

帰りのバスの中、僕はギャング映画の話しを得意げにしながら「ホントにこういう風に言うんだと思った。初めてホンモノを聞いたよ!」とチームメイトに興奮して言ったのですが、彼らはみな冷たく“Who cares?”(どうでもいい)と言って、相手にしてくれませんでした。

アメリカ人が理解できないアメリカの英語

2010年、アメリカ麻薬取締局がある人材を募集したことが全米で話題になりました(DEAと呼ばれ、数々の映画にも出てくる頭文字なので見覚えのある方もいるでしょう。Drug Enforcement Administration の略です)。

募集された人材とは、Ebonicsの英語通訳者。 前回の記事でも触れました が、Ebonicsとは一部のAfrican-Americanが話す英語のことです。話題になったのは、麻薬取締局が電話の盗聴のためにEbonicsを一般のアメリカ人にも分かる英語に通訳する人を募集するというニュースでした。

DEA wants to hire Ebonics translators - CNN.com

日本語で「黒人英語」と言われている英語変種ですが、その英語での呼称はさまざまで、それを見るだけで、アメリカ社会があまりに多くのことに気を遣っているのが分かります。

African American Vernacular English(アフリカ系アメリカ人の特徴的な英語)という言い方が、現在は最も問題が 少ない 言い方だとされています。これに次いでAfro-American English(アフリカ系アメリカ人の英語)という言い方も存在します。

しかし、肌の色が黒くても「アフリカ出身ではない」というアメリカ人もいます。そのためあえて避けてきたblackという言葉を使って、Black English VernacularまたはBlack Englishという呼び方が用いられることもあります。Ebonicsは差別的な呼称だとする人も、そうではないとする人もいます。

以下、Ebonicsの特徴的な例文です。

  1. 三人称単数現在のsがないHe eat. / It come. / She love.
  2. 現在形でbeがないときHe mad.(彼は今怒っている=He is mad.)
  3. 現在形でbeを残すときHe be mad.(彼はいつも怒っている=He’s always mad.)
  4. 不思議な過去形He been had dat gun.(彼は昔からあの銃を持っていた=He has had that gun for a long time.)
  5. thereではなくitを使うIt ain’t no heaven.(天国なんてない=There’s no heaven.)
  6. 近い未来I’m a kill you.( すぐに おまえを殺す=I’ll kill you soon.)
  7. 遠い未来I’m a gonna kill you.(いつかおまえを殺す=I’ll kill you someday .)
  8. 多重否定It ain’t nobody’s business .(関係ない=It’s nobody’s business .)
1、5、8は予備知識がなくても意味は分かるでしょう。でもそれ以外は難しいと思います。2と3の違いや、6と7の違いなどは、一般的な英語よりも何だかうまくできていて、とてもシステマチックに見えます。4に至っては、一般的な英語ではこんなにシンプルに表現できません。

日本の方はEbonicsを聞いたこともない英語だと思われるかもしれません。でも、映画やテレビ番組などで本当はかなり耳にしている表現です。イギリスにはRP(Received Pronunciation)と呼ばれる標準英語とされるものが存在しますが、アメリカにはそれに相当するものはありません。

 ちょっと極端な例だったかもしれませんが、アメリカで話されている英語にはこんな英語もある、ということをお話ししたいと思いました。

 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

*この記事を書くのにJohn Rickfordの以下の資料を参考にしました。

Suite for Ebony and Phonics
Using the Vernacular to Teach the Standard
Ebonics Notes and Discussion
SJMN OpEd on the Oakland Ebonics decision

*Georgia州出身の友人に、今回僕が取り上げたEbonicsのproofreadingをお願いしました。いくつかのアドバイスに続く最後のコメントはこれ。Nahh problem and shit !(問題ないぜ!)

映画では本当のEbonicsを連発すると意味が伝わらないので、Ebonicsは実際よりも少なく使い、代わりに最後に shit を入れたり、f-wordを入れてごまかす、という脚本が多いのだそうです。なんだ、僕、分かってるつもりだったのに、そうじゃなかったんだね・・・。 

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カン・アンドリュー・ハシモト
アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手がける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。9作目となる著作『外国人に「What?」と言わせない発音メソッド』(池田書店)が発売中。

*1 :アメリカのソウル、R&Bバンド。1970~80年代に多数のヒットを飛ばした。

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