北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんの連載「かなり不思議な日本語の世界」。今回取り上げるのは「あげる」と「もらう」。日本語と英語の文化の違いがよく分かります。
私の故郷では、どんな「魚」もただの fish です
日本語には単語のバリエーションが多すぎる!
よくそう思います。なんで mushroom や seaweed を表す単語はこんなに多いと?エリンギ、シイタケ、マツタケ、キノコ・・・。アメリカでは全部、mushroom です。中にはシイタケを食べる人もいるから、そういう人は shiitake mushroom と言うこともありますが。
それから日本語のひじき、ノリ、ワカメ・・・。これを英語にすると、全部 seaweed です。
何で、こんなに言葉が多いの??
その答えは、文化にあると思います。文化が大事にすることは、その文化の言葉にも 影響 を与えます。
アメリカと比べると、日本人の「食」に対する意識はかなり高いです。私がそれに気付いのは、子どもが保育園に通っていた頃でした。年長クラスで野菜を植えて、水をやって、収穫して、最後はワクワクしながら、みんなでカレーライスを作りました。
こういうことは、私はアメリカで見たことがありません。もちろん、「食」を大事にするアメリカ人はたくさんいますが、日本人の方が概して意識が高い気がします。日本では、小さいときから食べ物を大事にすることを教わります。「お米一粒でも残さないで!」と言われた経験を持つ方は多いでしょう。
ちなみに 、アメリカの私の故郷では、ほとんどの魚はシンプルに fish と呼ばれています。
そして今回、バリエーションが多すぎる例として、取り上げたい言葉は give と get を意味する日本語です。今回はこの2つの単語から、言葉と文化のつながりを考えてみたいと思います。
では、始めましょう!
バリエーションが豊富な「あげる」と「もらう」
日本語を勉強し始めた頃、私は give と get を表す無数の日本語に悩まされていました。この簡単な概念を表すために、日本語にはなんでこんなにたくさんの言葉が必要なの?
渡す/あげる/やる/差し上げる 受け取る /もらう/くれる/頂く日本は上下関係を大事にする国ですから、きっと、アメリカのように1つ、2つの単語で済ますことができないんですね。例えば、
犬にえさをやった。 I gave my dog some water.
彼氏にプレゼントをあげた。 I gave my boyfriend a present .
上司にお土産を差し上げた。 I gave my boss a souvenir from my trip.英語には日本語のような敬語が少なく、どれも give を使うだけで違和感は全くありません。でも、日本語で次のように言ったら、バリバリヤバい!
犬にえさを差し上げた。上司にお土産をやった。なぜヤバいかというと、皆さんもご存じのように、日本の社会には上下関係があるからです。相手の立場が上か下かによって言葉を使い分けます。
私の解釈では、日本での上下関係は次のようになっています。上にあるものの方が立場が上になります。
上司や目上の人 同僚 、恋人、友人身内子ども動物や植物伝統を大事にする家庭の場合は、「身内」の中にも明確な上下関係があったりしますね。
さて、「お土産」の話が出てきたので、日本人がよく間違える present という単語の使い方にも触れておきます。私の学生は、よくこういう文を言います。
【?】My parents presented me a new bicycle for my birthday. 誕生日に両親は新しい自転車をプレゼントしてくれた。実は英語では、「プレゼントをあげる」という意味で、動詞の present を使いません。「(プレゼント)をあげる」という意味の動詞として使うのは、もう少しフォーマルな場合のときだけです。例えば次のような場合です。
My company presented me with a new car upon my retirement . 私の会社は、私が退職するときに新車をくれた。誕生日などにもらうプレゼントの場合、英語では次のような言い方が自然です。
My parents gave me a new bicycle for my birthday. 誕生日に両親は新しい自転車をくれた。
My boyfriend gave me a diamond ring for Christmas. クリスマスに彼はダイヤの指輪をくれた。
英語の get は多くの意味を持つ万能の言葉
ここまで 「あげる」「くれる」の英語での言い方を見てきました。次は「もらう」や「頂く」を見てみましょう。
英語では主に get と receive を使います。例えば、
I got a new bicycle from my parents on my birthday. 誕生日に両親から新しい自転車をもらった。
I got a diamond from my boyfriend for Christmas. クリスマスに彼からダイヤの指輪をもらった。get をもう少し改まった言い方にしたのが receive です。意味はほぼ同じです。
I received a new bicycle from my parents for my birthday. 誕生日に両親から新しい自転車をもらった。
I received a letter in the mail from my host family.ホストファミリーから手紙をもらった。ただし 、get には「もらう」以外の意味もあります。使い方のバリエーションはマジで半端ありません。例えば、
I got a C on my test . 試験で C 評価が付いた。
I got a promotion. 昇進した。
I got sick. 病気になった。
I’ve got good news! いい知らせがある!
I got a new girlfriend. 新しい彼女ができた。
I got a big problem. 大きな問題を抱えた。
I got it! 分かった!
I got pregnant . 妊娠した。基本の意味は「もらう」ですが、get はそれ以外の意味を多く持つ万能な動詞なんです。
「?してもらっていいですか」はヘンな日本語?!
先日、日本語を専門とする友人と「日本語の乱れ」について話しました。彼は、日本人が普通に使っている、文法的におかしい日本語をいろいろ教えてくれました。
例えば「 可能性がある 」という表現。これはポジティブな意味合いを持つので、「望ましいと思っている」ときにしか使わないそうです。でも、最近は次のような使い方をすることが多いとか。
雨が降る 可能性がある 。行けない 可能性がある 。「雨が降ってほしい」ときや、「(そこに)行きたくない」ときに、このように言うのは正しいですが、「雨が降ってほしくない」とき「行きたい」ときは、次のように言うそうです。
行けない恐れがある。私はこれまでに、少なくとも500回は「行けない 可能性がある 」と言った気がします。気を付けないとといけませんね!
そして、専門家の友人が教えてくれたもう一つの日本語は、「~してもらっていいですか」です。
ここにも今回のトピック「もらう」が出てきました! この表現、毎日聞いたり、使ったりしています。
これをやってもらっていいですか。教えてもらっていいですか。手伝ってもらっていいですか。正しくは「~していただけますか/~してくれますか」ですよね。
でも、多くの人が使っているので、いつか正しい日本語になるかもしれません。あまり気にする必要はないかも!
まとめ
さて、今日のメインの話題は、上下関係を大切にする日本語についてでした。きっと私は死ぬまで、微妙に違う意味の日本語を勉強し続けなければいけませんが、それにワクワクしています。
先日、生まれて初めて、「あらためてご連絡いたします」という表現が口から自然に出てきました。うれしくて、うれしくて、涙が出そうになりました。
だから、まだまだ頑張って勉強し続けます!
アンちゃんのGOTCHA!新書、好評発売中!
- 作者: アン・クレシーニ
- 出版社: アルク
- 発売日: 2018/11/15
- メディア: Kindle版
- 作者: アン・クレシーニ
- 出版社: アルク
- 発売日: 2018/04/24
- メディア: Kindle版
文:アン・クレシーニ
アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「 アンちゃんから見るニッポン 」が人気。 Facebookページ も 更新 中!
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。