北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんの連載「かなり不思議な日本語の世界」。今回は自然や人間関係に関する、日本ならではの言葉を取り上げます。
自然に関する言葉で私が好きなのは……
昨年、北九州市のPR動画を撮影する仕事をしました。英語版も日本語版も作る予定だったから、その場で日本語を英語に訳さないといけませんでした。
私はバイリンガルだけど、こういう仕事は正直、難しい。なぜかというと、いつも話しているように、言葉と文化はリンクされているからです。そして、英語圏の文化と日本の文化は違います。
北九州市の真ん中を流れる川に関する動画で、自然関係の言葉が多かった。日本は自然をバリバリ大事にする国だから、自然を表す言葉も当然多い。
ちなみに 、自然に関する言葉で私が一番好きなのは「木漏れ日」です。
なんという素敵な単語やろう?
英語には、当てはまる単語がないから、sunlight filtering through the trees と説明しないと…。5語もあるけれど、なんとなく同じニュアンスになります。
とにかく、自然用語は難しかった。一番苦労したのは、「憩いの場」という言葉でした。いろいろ考えたあと、結局、 relaxing place や place to relax と説明しました。100パーセント同じニュアンスではないですが、まぁ、一番近いかな。
人間関係&感情に関する言葉
私は、ずっと「絆」という言葉の意味が分かりませんでした。英語で bond 、 link 、connection と言うけれど、なんとなく、日本語の使い方はそれとは微妙に違うような気がしていました。
今回は、こんな人間関係や感情を表す、英語に訳しにくい日本語について書くバイ。
さて、始めましょう。
「感動する」には moved を使う?
ほとんどの日本人は、「感動する」を to be moved と訳します。最も近いとは思いますが、いつも move を使うのは、なんか、バリ不自然です。例文を見てみましょう。
誕生日に彼氏からお花をもらった。感動した。I got flowers from my boyfriend on my birthday. I was so moved.これはいいけれど、ちょっと硬い。I was so happy. の方がいいかも。
あの映画は最高やった。超感動した!That movie was awesome. I was really moved.バリドラマチックな映画なら moved でいいかな。
ファンレターが来た。感動した。I got a piece of fan mail. It moved me.これもバリドラマチック。
「感動する」には touch を使えます。“It touched me.” “It really touched my heart.” “I was touched.”のように使います。
入院しているとき、彼が毎日お見舞いに来てくれたことに感動した。It really touched my heart that he visited me every day while I was in the hospital.
感動の瞬間だった。It was a touching moment.touching という形で形容詞としても使えます。
ところで、日本人はよく moved と impressed を混同します。moved は「感動する」に近いです。一方、impressed は「感心する」です。英語では、意味がまったく違います。
moved は、すごく心が動かされたときに使います。例えば「泣ける映画を見た」とか「誰かがとても優しいことをしてくれた」というようなときです。
That was the most moving movie I have ever seen!今まで見た映画の中、あれは一番感動した!moving movie はちょっと言いにくいよね!はは。
「感心する」という意味の impressed は、使い方が違います。たとえば、誰かがすごいいことをしたときに使います。
「できると思わなかったけど、できた!」だから「凄い!」。「あの人には、私は考えていた以上に才能か技術がある!」というようなときです。
He got a 980 on the TOEIC test . I am so impressed.彼が、TOEICテストで980点を取った。バリ感心した。
I was really impressed with his performance today.彼のプレーにとても感心した。日本人は、アメリカ人より「感動した」という表現を多く使うと思います。だから、ぴったりな英語表現がなかなか見つからないんです。
日本人の友人は「感動した!」と一日10回以上言っている気がします。彼女は英語が話せるので、英語で“I was so moved.” と言いますが、何か変。この表現を日常生活で使うことはあまりないからです。
直訳できない「懐かしい」
「懐かしい」に同じような意味で、英語ではたまに nostalgic を使いますが、これはどちらかというと小説などでよく使われる表現という感じ。“It brings back memories.”という表現の方が、日常生活でよく使われます。例えば、こんな感じです。
ああ!!この写真を覚えている?超懐かしい!Hey! Do you remember this picture? It brings back so many memories!
Bon Joviの曲をラジオで聞いたら、高校時代を思い出した。超懐かしかった。When I heard the Bon Jovi song on the radio, it made me think of my childhood.
わあ!子ども/高校/大学時代が超懐かしい!Wow! this really reminds me of my childhood/high school/college!.日本語のように、単独で「懐かしい!!」というのは、英語で表すのはかなり難しいです。「何が懐かしい」と 具体的に 言ったほうが意味が伝わりますね。
アメリカ人は自然と触れ合わない?
日本では、どこを見ても「ふれあい広場」とか「ふれあいの森」のような場所があります。自然と触れ合えたり、動物と触れ合えたりする場所が多いですね。
私はずっと、「あれはなんの意味やろう」と思っていました。辞書で調べたら、connect、touch などが出てきましたが、まだよく分かりませんでした。
学生はよく、「自然と触れ合う」「外国の文化と触れ合う」といった文をリポートに書きます。そして、それを英語で、“I want to touch nature .”や“I want to touch another country.”のように言います。
でも、英語では絶対そう言いません。“I want to connect with nature .”とも“I want to connect with another country.”とも言いません。では、どう言ったらいい?
難しいですね。アメリカ人は、日本人ほど自然と触れ合うことを大事にしない気がします。表現として最も近いのは次のようなものです。
自然と触れ合いたい。I want to experience nature .I want to be in nature .
外国の文化と触れ合いたい。I want to experience visiting another country.I want to learn the culture of another country.
日本には「癒やし」がいっぱい
「触れ合う」と同じように英語に訳しづらいのが、「癒やされる」です。
私が住んでいる福岡県宗像(むなかた)市には、すてきな風景が広がっています。駅前や線路沿いに、川や田んぼがあります。そして、その田んぼに自転車に乗っているおばあさんを加えたら、完璧な景色になる!
そこに行くと、「癒やされる」という言葉しか口から出てきません。だから、英語に訳したくてたまらん。こんなに心が動かされると、当然自分の母国語で表したい。
自然に対しての「癒やされる」はsoothingだと訳していいかな。ちょっと不自然ですが、それしかない気がします。
ここにいることが大好き。超癒やされる。I love being here. It is so soothing.それから時々、人と話すときにも、癒やされることはありますよね?私の教会にそういう人がいます。話すたびにマジ癒やされます。話すことだけで、問題は解決するような感じがする。そんなときもこう言うのが近いかも。
彼女と一緒にいると癒やされる。Being with her makes me happy.「彼女に会うと元気が出る」という感じです。“Being around her makes me feel better.”と言ってもいいですが、makes me feel better は、「彼女に会う前にちょっと落ち込んでいた」ってニュアンスが含まれます。
“Talking to her calms my spirit.”とも言えますが、これはちょっと大げさな感じです。
soothing 以外にも「癒やされる」に近い表現はいろいろあります。
この動物と一緒にいると癒やされる。I feel so good when I am with the animals.
その言葉に癒やされる。ありがとう!Those words really cheer me up! Thank you !結局、一語でぴったりと当てはまる英語はないですねぇ。
relationship を使うのがいい">夫婦の絆は relationship を使うのがいい
次は、最初にも話した「絆」。私はこの言葉の意味を、昨年まで知りませんでした。よく耳にしたけれど、意味を調べても、すぐ忘れていました。この「絆」は、英語でどう言ったらいい?
「夫婦の絆を深めることが大事です」
「仲間同士の絆を深めるために、キャンプへ行った」
このような文では bond や connection を使ってもいいですが、少し不自然な感じがします。
結婚の絆を深めるために夫婦が努力することは大切です。It’s important for a married couple to work to strengthen their bond of marriage.
同僚 の絆を強めるため、彼らは一緒に静養に出掛けました。 In order to strengthen the connection among the co-workers, they went on a retreat together.でも、ここでは bond や connection よりも、 relationship を使った方がいいかもしれません。
It’s important for a married couple to always work on strengthening their relationship .
It order to build a stronger relationship among the co-workers, they went on a retreat together.次のような bond の使い方はオーケーです。
あの二人の絆はバリ強いよね。Those two have a really strong bond .カッコイイ!
日本語になって -ing が取れた言葉
ちなみに 「キャンプ」も面白い単語です。外でテントを張って、バーベキューをするなら camping。“-ing”を忘れんでね。外来語の場合、ing はよくカットされていますから。
昨夏、川の近くにキャンプをしに行った。I went camping with my friends last summer by the river.
先週、スキーに行った。Last week, I went skiing.
スノボーが好き。I like snowboarding.-ing はみんなカットされたのに、なぜか「ボウリング」だけはカットされなかった。
ボウリングが大好きです。I totally love bowling.日本語は面白いね。
外で友達と楽しくキャンプすることは camping と言いますが、最近、 retreat という英語がよく使われるようになっています。campingよりちょっとしゃれとる。
ストレスがたまる仕事からちょっと離れて、精神的、肉体的にリフレッシュすること。そのまま訳すと変ですが、最初に話した「憩いの場」はこれに近いかも!宿泊旅行にも使えます。
先週末、友人とヨガの宿泊旅行に行った。I went on a yoga retreat with my friends last weekend.教会でもよく使います。
昨年、夫と教会のリトリートに行ってきた。I went on a church retreat with my husband last year.英語にも、日本語に訳しにくい言葉があります。教会の人は、「宿泊」でもなく、「憩いの場」でもなく、カタカナの「リトリート」を使います。はは。
このような言葉はほかにもたくさんあるけど、字数が多くなったバイ!次回も英語に訳しにくい、不思議な日本語をたくさん解説します!お楽しみに!
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