「パンになります」?店員さんの使う表現が英語に訳せない!日本語って難しい・・・

北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんの連載「かなり不思議な日本語の世界」。第6回は、コンビニやレストランなどでよく耳にする、店員さんの丁寧な言葉遣いを取り上げます。

「レタス言葉」は野菜と関係ないバイ!

去年、小学2年生の子どもが学校から帰ってきた後、すぐ、「そこに行けれる!」と言った。

は?「行けれる」って何?

私の知らない方言?若者用語?おしゃれな敬語?

分からないままだと絶対に落ち着かないアンちゃんは、すぐ日本語の先生たちに聞きました。そうしたら、「それは『レタス言葉』だよ!」と教えてくれました。

野菜のレタスじゃなくて、「ら抜き」言葉の親戚の「れ足す」言葉。つまり、必要ないときに、動詞に勝手に「れ」を入れた言葉だそうです。いろいろ調べてみたら、ほかの例がありました。例えば「言える」は「言えれる」になるらしい。

言葉は生きているから、こういう言葉の変化にはある程度納得する必要がありますが、日本語を勉強している外国人にはかわいそうすぎる!「正しい」日本語を一生懸命学ぼうとしているのに、近くにいる子どもに「ね、さ、あなたは行けれると?」と言われるかも。ヤバイ!

文法にうるさいアンちゃんママは「行けれる」を絶対に認めなかったから、うれしいことに、私の子どもは「行けれる」を使わなくなりました。

でも、使い方がよく分からない不思議な日本語がほかにもたくさんあるから、ここで話すことにします!

なんでそんなに謝るの?

日本語で特に不思議なのは、なんと言っても敬語です。日本語のような敬語がない英語のネイティブスピーカーはバリバリ困ります。

私から見ると、日本人はとにかく一日中謝っているような気がします。笑笑。

例えば飛行機の機内アナウンスは、「恐れ入ります」と「申し訳ありません」まみれ。最も理解できなかったのは、コンビニエンスストアで交わした次のような会話です。

店員:ポイントカードはありますか。お客さん:いいえ、ありません。店員:恐れ入ります。
これを英語に訳すと・・・
Cashier : Do you have a rewards card?Customer: No , I don’t. Cashier : Oh, I’m sorry about that!
そのまま英語にすると、この会話は本当にナンセンスです。店員さんは何も悪いことをしていないのに、何で謝っているの?ポイントカードがあると聞いただけやろう?

ここでの日本語の本意を考えると、「余計な質問して申し訳ございません。お客さまがポイントカードをお持ち かどうか を確認する必要がございましたので」のような感じでしょうか。

英語であれば、店員さんは“Oh, okay!”と言うだけだと思います。思いやりがある店員さんなら、“ Would you like to make one?”(カードをお作りしますか)と尋ねてくれるかもしれません。

また、レストランで注文したいものがなかったときに、お店の人が「申し訳ございません」に続けて、「よろしいでしょうか」と言うことがあります。これを英語に直訳すると“Is that okay?”になりますが、よく考えたら本当に「大丈夫 かどうか 」を確認しているわけではありません。なぜなら、お客さんは選びようがないからです。

私は、そんな言葉に「いいえ! よろしく ない!納得いかない!」と応じたいと思うことがありますが、礼儀正しいので遠慮しています。

ちなみに アメリカでは、レストランやお店で納得いかないことがあった場合、店員にはこんなふうに言います。

Let me talk to your manager!責任者と話します!
そもそも アメリカの文化は、日本のように謙虚ではないから、思ったことはストレートに言葉に出てきます。一方、日本人はというと、「気を使うこと」「迷惑をかけないこと」を大事にするので、謝っているような言葉が頻繁に会話に入ってきます。

長く日本に住んでいる私の友人は、日本語と日本の文化にかなり 影響 を受けています。ある土曜日の朝、その友人が電話で仕事に関する質問をしてきました。彼は全て英語で話しましたが、こんな感じでした。

Good morning. I am so sorry to bother you on a Saturday morning. I am sure that you must be busy, and it is bad of me to call you on a weekend, but could you spare a few minutes for me to ask you a question?

おはようございます。土曜日の朝にお邪魔して本当にすみません。きっとお忙しいですよね。週末にお電話して恐縮ですが、ご質問したいことがあります。数分、お時間を頂けますか。

私は爆笑しました。英語では普通、こういう言い方は絶対にしません。彼はおそらく、頭の中で日本語を考えていたんだと思います。英語では「土曜日に電話してごめんね」くらいは言いますが、それだけです。

日本語は敬語が多くて疲れることもあります。でも、相手を大事にする気持ちを言葉で表現するのは、やはりいいことだと思います。

ただ、ポイントカードを持っていなくても、店員さんには謝らないでほしいです!笑

「お召し上がりですか」の爆笑体験

今まで友人たちから、日本語にまつわる笑える話をたくさん聞いてきました。なかでも特に面白かったのは、ハンバーガーチェーン店で起きた事件です。

友人の一人が注文をするときに、「お召し上がりですか」と聞かれたそうです。教科書でバリバリ日本語を勉強した友人は、しばらく考えてから「もちろん食べますよ!」と答えました。

「召し上がる」は「食べる」の尊敬語なので、友人は「そのハンバーガーを食べますか?」という意味に解釈したんです。笑笑。

日本人なら、絶対にそんなふうに解釈しません。「(ここで)お召し上がりですか」の「ここで」が抜けているだけだと理解して、「ハンバーガーを食べる かどうか 」を尋ねているとは思わないでしょう。

友人の解釈を英語にしてみると・・・

Are you gonna eat that hamburger?Sure I am! It’s a hamburger!

そのハンバーガーを食べるんですか。
もちろん食べるよ。ハンバーガーだもん!

でも、店員さんが聞きたいのは・・・
Are you eating here in the restaurant?店内でお召し上がりになりますか?
日本人が当然だと思っていることは、私たち外国人にとっては当然ではない・・・ということです。

「パンになる前は何だったの?」と勘違い

ある日、スーパーでパンの試食をやっていました。パンをもらうときに、私は店員さんに「はい、パンになります!」と言われました。

これは相当、不思議でした。何で、「パンになります」と言うと?英語にすると“It is becoming bread.”で、これはバリおかしい!

皮肉なアメリカ人の私は、「パンになる前は何だった?」と返したい気持ちになりましたが、礼儀正しいので遠慮しました。

ちなみに 、日本語の文法的には「パンです」だけでいいそうです。でも、この日本語も英語に直訳すると、とてもヘンです。

It is bread.
でも、パンを差し出すときに“It is bread.”とは言いません。“This is bread.”とも言いません。それでは、こういうときに英語ではなんと言うでしょう。
Here you are.Here you go.

どうぞ。

“Here you are.”は少し堅い感じで、“Here you go.”の方が日本語に近いかもしれません。

レストランで注文した食事が出されるときなら、“Here’s your dinner!”とか“Here’s your order !”、“Here’s your hamburger!”のようにも言います。 

まとめ

外国語を学んでいると、さまざまな障害に当たります。一つは、教科書が取り上げるのは最も標準的な表現で、実際はその 基準 からずれて使われることが多いこと。方言もあれば、年月の経過による言葉の変化もあります。「キレイではありません」と習っても、日本人の友人が「キレイくない」と言うかもしれません。 

もう一つ大変なのは、自分の母語が邪魔になることです。直訳して誤解してしまうこともあれば、同じような表現が母語になくて、意味が理解できないこともあります。

外国語の深いニュアンスを 把握する ことは本当に難しい!

けど、諦めないで!

私も諦めません。ポイントは毎日少しずつ勉強することです。昨日知らなかったことを今日、知っていると、うれしくなくなくない?笑笑。

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文:アン・クレシーニ
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