「IZAKAYA」が英語に定着。でも「酒」のサービスがない!?

古くは「スシ」「ゲイシャ」「ニンジャ」。最近では「スードク」。海を渡って世界で使われていると言われる日本語がありますが、最近ではどの国でどんな単語が用いられているのでしょうか。世界90カ国以上の現地在住日本人ライターやカメラマンの集団「海外書き人クラブ」がリレー形式で担当する連載「世界のニホンゴ調査団」。連載復活第12回はオーストラリアから、sushiとizakayaというニホンゴの話題をお届けします。

オーストラリアでいちばん人気のある日本食とは?

日本の食べものが世界中に広がるのは、特に海外在住者にとっては本当にうれしいものです。今まで日本に一時帰国しなければお目にかかれなかったものが、気軽に食べられるようになるのですから。

この20年、オーストラリアで最も一般的になった日本の食べものがすしです。20年前は「日本人は生の魚を食べるってホント?」と恐る恐る聞かれたり、おすしをごちそうしてあげようと勧めたら泣き出す子がいたり(いやいやいや。私が勧めたのはかっぱ巻きなんですけどねえ)。

そんなゲテモノ扱いされていたすしですが、今や大人気! あの世界的に有名なハンバーガーショップやフライドチキン店と並んで、ショッピングセンターのフードコートにはなくてはならないファストフードとなりました。sushiという単語を知らない人は、海から遠く離れた内陸部などならまだしも、沿岸の大都市ではおそらくほとんどいないと思います。

子どもたちに好きな食べものを聞くと、こんな答えが返ってきたりします。

I love sushi and pizza!
すしとピザが好き!

My favorite lunch is sushi and cola!
すしとコーラのランチが好き!

その組み合わせの是非はさておいて、すしが大好物と言う子どもは結構多いです。

なんともナイスなsushiたち

とはいえ、日本のすしとはちょっと違うところもあります。フードコートのファストフードすし店で sushi と言えば、まず思い浮かぶのが、こんな形。

はい。巻きずしなのですが、直径約3.5センチで長さ10センチ。細巻きよりも太く、太巻きよりは細いです。とはいえ、「帯に短し、たすきに長し」ということはなく、これはこれでおいしいです。

ちなみにこの写真は、かの有名な「カリフォルニアロール」ですが、中身は揚げ物であることも多いです。まあ、「天むす」も揚げ物ですからね。

こうしたフードコートのファストフードすし店とは別に、回転ずしも人気があります。回転させるよりもタッチパッドでオーダーするスタイルが主ですが。

こういう店では普通の握りずしもありますが、それだとファストフードすし店と差別化が図れないということなのか、なかなかユニークなものも見られます。

これは「炙り(あぶり)エビのとびこ乗せ」というサービス心満点のメニューです。写真のものにはないのですが、私が食べた皿にはなぜか照り焼き風味の甘いソースが上に。なんだかすべてがぶち壊し。座っていたのは固定式のテーブルですが、思わず星一徹(アニメ『巨人の星』のキャラ。怒るとちゃぶ台をひっくり返す)したくなりました。

これは「エビフライロール」で、中にはアボカドとキュウリも入っています。上に乗っているのは炙りチーズととびこで、これも見た瞬間、星一徹する気満々になったのですが、意外とおいしかったです。

そして次が・・・。

「ボルケーノ」。はい、火山です。しゃりの上にホタテを乗せ、サーモンを巻いて、とびこをちりばめて、炙ります。そこに照り焼きソースとタイ風のスイートチリソース。……岡本太郎さんによると芸術は爆発だそうですが、すしもそうなのかもしれません。

じゃあ、すし桶になるとどうなるのか。

これが意外とまともです。日本のすし桶と比べても遜色がない。違いと言えば、アボカドの多用くらいでしょうか。まあ、オーストラリア人はすし桶にアボカドが入っていないと、「アボカド抜きのすしなど食えるかぁぁぁ!」と星一徹・・・はしないですが。

ところが巻きすしだけのすし桶はというと・・・。

一転して、日本のものとはガラリと変わりますね。ほとんどが「裏巻き」、つまり海苔を内側に入れるようになり、アボカドとチキンカツなどの揚げ物の頻度が高いです。

sashimi(刺身)の認知度も

さて、すしと言えば刺身も忘れていけません。sushi ほどでないにせよ、sashimi もそれなりに通じる言葉になってきました。

例えば先日、魚屋さんでのこと。オーストラリアではスライスした状態の刺身を売る魚屋さんはほとんどなく、ヒラメなどは丸ごと、サーモンなどは短冊や切り身の状態で並べられています。で、あれこれ物色していると、同じく客としてきている白人の高齢女性に話し掛けられました。

女性:What are you getting?
何を買うの?
私:I’m getting some salmon and red snapper.
サーモンとタイにします。
女性:Oh, and how are you going to cook those?
サーモンとタイをどう料理をするの?

ここで私はハタと考え込みました。

Well, actually I won’t cook them at all. I will just slice them into 5 or 6 millimetre pieces.
いや、料理はしないのですが、ただ、5、6センチに薄く切ります。

これで通じるかなあと心配していたのですが・・・。

Oh, sashimi!
おー、刺身!

あれこれ説明する必要、なかったですね。

ちなみにそのsashimi、英語ではどう表現されているのか。まずはCambridge Dictionaryでは・・・

a Japanese dish consisting of small pieces of uncooked fish that are eaten with soy sauce
しょうゆで食べる、生の魚を小さく切った日本料理

そしてOxford Living Dictionariesでは・・・

A Japanese dish of bite-sized pieces of raw fish eaten with soy sauce and wasabi paste
しょうゆとわさびペーストで食べる、一口大の生魚の日本料理

さらにCollins Dictionaryだと・・・

a Japanese dish of thin fillets of raw fish
生の魚を細切りにした日本料理

いずれも、「おまえさん。うまいこと言うねえ」と感心するレベルです。

さて、日本料理店で出てくる刺身の盛り合わせを見てみましょう。

こちらはさすがにsushiと違って、「アボカドだってスライスすれば刺身だっ!」とか「フライだって細く切れば刺身だっ!」みたいな暴論は通じないと悟ったのか、非常にまともに見えます。ただし!日本でたぶんあまり見られないものがあります。お気付きですか?実はこのもう一つ上の写真にも同じものがあったのですが・・・。

そうです、わさびの形です!葉っぱのように線を入れています。オーストラリアではもうこっちの方がスタンダードかもしれません。まるでカプチーノ!「バリスタかよっ!」と思わずツッコミたくなります。

それから左下のホタテの上にキャビアが乗っているのはいいにしても、ホタテがぐるっと巻かれていることに気付かれた方もいると思います。この巻いて盛りつけるっていうのもオーストラリアでは結構人気です。

この刺身桶でも中央の白身魚と右下のイカがそのパターンですね。「バラの花みたいできれい」という感覚なんだと思います。

それから左下のホタテにもご注目!真ん中に切れ目を入れてキュウリを挟んでいます。この手法も多く、レモンを挟んでいるのもよく見ます。あと、キュウリはいいにしてもレタスとか緑のものを入れて盛り付けるのと、大根ではなくニンジンが刺身のツマになるのもオーストラリア流です。

izakaya も広まってきたが・・・

さて、刺身と言えば居酒屋です。ようやく回の本題です。

オーストラリアで「Izakaya」という言葉をよく耳にするようになったのは、数年前、あるアマチュアシェフたちが何週間にもわたり腕を競い合う素人参加型料理番組で、日本滞在経験のある人が事あるごとに「日本の居酒屋はすごい」とか「優勝したらその賞金で居酒屋の店を持ちたい」と発言してからです。

さて、その居酒屋ですが、英語の辞書ではこんなふうに表現されています。Oxford Living Dictionariesでは・・・

A type of Japanese bar in which a variety of small, typically inexpensive, dishes and snacks are served to accompany the alcoholic drinks.
アルコール飲料に合う、たいていは安価な小皿料理や軽食が提供される、日本のバーの一種。

Collins Dictionaryでは・・・

A type of Japanese bar in which a variety of small - typically inexpensive dishes and snacks are served to accompany the alcoholic drinks.
アルコール飲料に合う、たいていは安価な小皿料理や軽食が提供される、日本のバーの一種。

※ Collins Dictionaryでは新語として提案されているものの、まだペンディングとなっています。

皆さん、お気付きになられましたでしょうか。はい、カンマやダーシの位置以外、まったく同じ。マナカナさん(双子の芸能人)レベルのそっくり具合です。

ちなみにCambridge Dictionaryでも検索してみたのですが、2019年5月現在では未掲載のようでした。

確かに居酒屋の魅力は、お手軽価格の料理がちょこちょこあれこれ食べられるところ。オーストラリアの「ステーキがどーん。その周りにフライトポテトかマッシュポテトに、ニンジンやグリーンピースなどの温野菜。すべてグレイビーなどのソースか、塩やこしょうで味付け」といった感じの、よく言えば迫力満点ですが、別の言い方をするとおおざっぱな料理と比べたらカルチャーショックでしょう。

ただ人気が出てくると、ちょっと不思議な亜流が出てくるのは「あるある」だと思います。オーストラリアの Izakayaで思わず脱帽したのが、「お酒を販売していない」のに「居酒屋」を名乗る店。ショッピングセンターなどでたまに見掛けます。すしや刺身、唐揚げやたこ焼き、そして枝豆など、メニューの「ちょこまか感」は確かに居酒屋風ですが・・・。

池野 茜
文・写真:海外書き人クラブ・柳沢有紀夫

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