古くは「スシ」「ゲイシャ」「ニンジャ」。最近では「スードク」。海を渡って世界で使われていると言われる日本語がありますが、最近ではどの国でどんな単語が用いられているのでしょうか。世界80カ国以上の現地在住日本人ライターやカメラマンの集団「海外書き人クラブ」がリレー形式で担当する連載「世界のニホンゴ調査団」。第10回は、アメリカ在住の前田えりかがレポートします。
スーパーに並ぶpanko、その正体は……
アメリカに来たばかりの頃、スーパーでの買い物は苦しい戦いでした。広大な売り場に所狭しと並ぶよくわからない商品、そのパッケージにびっしりと書かれたよくわからない説明……。私にはもう何もわからない、尻尾を丸めて家に帰りたい。そんな中、時折見かける日本の食材に、思わず心の中で語りかけたものです。
「tofu 先輩、さすがの存在感ですね」
「edamame さん、海外進出のお噂は聞いてました。これからお世話になります」
そして、
「えっ、panko ちゃん?アメリカに来てたの?」
そう、意外なことに、pankoこと「日本式パン粉」はアメリカの普通のスーパーで広く売られる人気商品だったのです。
アメリカの伝統的なパン粉と並び、充実した品揃えの panko
日本式パン粉はいかにして人気を得たか
古くからある欧米式のパン粉に比べ、日本式のパン粉は粒が大きく密度が低いのが特徴です。このため、panko を使った料理はカラリと軽く、サクサクに仕上がります。この食感がアメリカ人を魅了しました。
日本式パン粉(左)と欧米の一般的なパン粉(右)
日本から来た料理人の手で持ち込まれ、日本食レストランで使われたのが panko のアメリカデビューのきっかけです。1980年代末にはアメリカでの生産が始まりました。
1998年の「The New York Times」の記事によれば、当時 panko は注目を集め始めていたものの、知名度や販路はまだ限定的だったようです。
Buying panko, which costs about $2 for 12 ounces, still takes an excursion to a Japanese or Asian market.(日本式パン粉は12オンスで2ドルほどだが、今でも、購入するには日本食スーパーかアジアンマーケットに行く必要がある)From Japan, the Secret of Crunchy Coating - The New York Times
それから時は流れて2013年。「THE WALL STREET JOURNAL」の panko についての記事を見てみましょう。
About 17% of Americans regularly have panko in their kitchen, according to a 2012 pantry study from Kraft Foods Group Inc., compared with 5% in 2008.(クラフト・フーズ・グループ社の2012年の調査によれば、およそ17%のアメリカ人がキッチンに panko を常備している。2008年には5%だった)Panko Tries to Find a Place in Every Pantry - WSJ
大躍進ですね。レストランで使われることが増えたのに加えて、テレビのさまざまな料理番組で人気シェフが推薦したことも影響しているようです。この間、panko を使ったメニューの代表格である tonkatsu もすっかり市民権を得ました。
pankoを使ったメニューいろいろ
「panko を使えば何でもおいしくなる」とは、料理番組「アイアン・シェフ」の司会者アルトン・ブラウンのコメントです。その言葉通り、panko はいろいろな料理に使われています。
まずは、揚げ物の衣として、ハンバーグなどのつなぎとして、あるいはグラタンなどのトッピングに。これらは日本でもおなじみの使い方ですね。
「アーティチョークのパン粉詰め」のように、野菜や肉、魚料理のスタッフィング(詰め物)として使われるケースもあります。
また、panko をまぶしたチキンをオーブンで焼くというレシピも大人気です。油を使わずに揚げ物のような食感を出せるのがうれしいところ。中でも、チキンと panko、パルメザンチーズというイタリアン風の組み合わせは定番です。
たとえば、チキンウィングの店「Hot Sauce and Panko」では、その名も「panko」というメニューを提供しています。
カジュアルな人気店「Hot Sauce and Panko」
panko とパルメザンチーズ、ハーブをまぶした「panko」。からあげのような食感で美味
アメリカでパン粉は進化する
Panko を使ったイタリアンメニューの人気は、Italian-style panko(イタリア風日本式パン粉)という新商品を生み出しました。これは panko にニンニクやバジルを混ぜ込んだものです。
各社から出ている Italian-style panko
また2018年には、なんと、「PORK PANKO」という商品が登場しました。
豚なの? パン粉なの? と迷わせられる商品名
「豚パン粉」と言われると混乱しますが、豚の皮をサクッと揚げて細かく砕いたものなのだとか。アメリカで高まるグルテンフリー熱に対応する、パン粉の代替商品です。われらが panko は、異国の地でのびのびと独自の進化を遂げているようです。
まとめ
かつてポルトガルから伝わったパンと、フランスから伝わったカツレツが日本でパン粉を生み出し、今度は世界へと旅立っていく……。地味な存在ながらワールドワイドなドラマを秘めた panko から、今後も目が離せません。