TOEICや英検などのテストでも、実際にネイティブ・スピーカーと会話するときでも、重要なのがリスニングです。リスニング力を上げるには、どんな方法があるのでしょうか。同時通訳者の横山カズさんに聞きました。
リスニングの鍵は「発音」にあり!
私が本格的に英語のトレーニングを始めたのは、20代半ばをすぎてからのことです。しかも独学でした。
当然、いろいろと試行錯誤することになりましたが、中でも最もつらい思いをしたのがリスニングです。今だから分かるのですが、 リスニングの鍵を握っているのは「発音」です。発音の練習を適切に行えば、リスニング力もよくなる のです。
今回は、発音の練習を通してリスニング力をアップさせる方法についてお話しましょう。
発音も「知識」のひとつ
でも、「発音は子どものころに身に付けないとダメ」という話をよく聞きますね。では、リスニングも大人になってからでは身に付かないのでしょうか?そんなことはありません。
発音も、身体的な一種の「知識」です。まずルールを知り、音読を繰り返してそのルールを体に覚えさせれば、身に付けることができます 。そして、正しい発音が身につけば、リスニング力も上がります。
また、私自身の経験と、数千人以上(中学・高校生から、楽天、JALグループなどの企業で働く社会人、高齢者まで)に教えた経験から、 この練習方法は、年齢を問わずリスニング力を上げてくれるはず です。ぜひやってみてください!
実践!「聞こえる耳」を作る発音練習
リスニングのテストの後などに、「今日はスピーカーの音質が悪くて聞き取りにくかったよね」なんて言っている人はいませんか。
確かに、スピーカーや音源に問題があって英語が聞き取りにくい場合もありますが、そんなときでも日本語のアナウンスは、ちゃんと聞き取れているでしょう。英語だって聞き取りのコツをマスターすれば、同じように聞き取れるのです。
まず、この記事での「英語の読み方」について説明しておきます。
・単語のスペリングにこだわらず、カタカナの通りに読んでみてください。口がうまく動かないときの助けになります。太字の部分は強く読みます。
・アルファベットは母音を入れずに読んでください。 at that time (ゥ ゼーッ・ター イmァザッターイm)の語尾は、「イム」ではなく、「イm」です。
①第1アクセントを常に強く
ネイティブ・スピーカーが英語を発音すると、音が崩れてあいまいになることがあります。でも、 単語の中で一番強く発音される部分は、常に同じところ です。そして、一つだけなのです。
ですから、辞書などで単語を検索するときは、意味を調べるだけでなく、必ず第1アクセントのある母音をチェックしてください。
そして、 第1アクセントが付いている音は、「強く、他の2倍の長さで、大げさに」 口に出してみましょう。
例えば、problemという単語は次のように変化していきます。下へ行くほど速く発音され、音が崩れていきますが、 強調されるのは常にROの部分 なのです。
p、b、m の後には母音を入れないように注意して、音読してみてください。
p RO blemp ラー bレm
p RO bmp ラー bm
p RO m第1アクセントが強調されると、その前後の音は自然と弱くなってゆきます。p も m もかなり弱く発音されることに気が付きましたか?p ラー m
problem が速く発音されると、p RO bmにも、p RO mにもなります。このことを、繰り返し音読して体に覚え込ませておくと、今度はリスニングのときにもすっと聞き取ることができるんです。
また、発音の練習をするときは、おでこから出るような細くて高い声ではなく、 太くて低い声で読むと効果的 です。喉の下のほうで、びりびりと共鳴するような感じです。
鎖骨と鎖骨の間の柔らかい部分に軽く指先で触れて、喉が震えていることを感じながらやってみましょう。
②前置詞、冠詞はとにかく「弱く」発音される
簡単な単語ほど、リスニングにとっては難敵。中学1年で学ぶような、基本的な単語ほど頻出度が高いのです。
to 、 for 、 in、 on 、 at、 with などの前置詞や、a、theなどの冠詞はある意味「究極の頻出単語」。よく使われ、誰もが知っていて当然の単語なので、ネイティブは丁寧に発音しなくなるんですね。
そして、実は これらの単語がリスニングでは一番聞き落としやすい のです。その上、 これらの単語を聞き逃すと文の構造を 把握 できなくなる から厄介です。例えば、 on the wallとin the wallでは、全く違う話になってしまいますよね。
とにかく、前置詞や冠詞は、どの単語も「とても弱く発音される」と覚えておいてください。一つひとつ見ていきましょう。
前置詞
to "> to
例: to YOU (トゥ ユー )
「トゥー」ではなく、トゥと短く発音します。
for "> for
例: for YOU (ファ ユー )
rは発音さえしないほど短くなるなります。foだけ発音するつもりで。
in
例: I n it( エ ネッ)
イン・イットではなく、エネッ。音がつながり、it の t は消えてしまいます。
at
例①:at the(アッザ)
at の t は消えます。2語ですが1語のように一息で言いましょう。
例②:at THAT ti me(ゥ ゼーッ ・ ター イm)
アット・ザット・タイム、ではありません。「ゥ ゼーッ ・ ター イm」と言うつもりで一息で。
with "> with
例: with the (ウィッザ)
with の th が消え、小さいッのようになります。th を言う直前に寸止めする感じで。
冠詞
a、an、the は「名詞にくっついている飾り」と考え、早く弱く発音しましょう。
a
例:a PE n (ゥ ペー n)
ア・ペンと分けずに、一息で言い切ります。
an
例①:a N A pple(ゥ ネァ ポー)
アン・アップル、ではなく、an の nと apple の a をつなげ、ゥ ネァ ポーのように発音します。apple の第1アクセントは最初の a で、これは前に冠詞がついても変わりません。そのため、an apple は、「a NA pple」と一語のように発音されます。
例②:an im PO rtant FA ctor (ゥネン ポー トゥンt・ フェー kター)
important の ta の t が脱落することに注意してください。
the
例①:the BOO k (ザ ブー k)
少し口を尖らす感じで、「ブー」 の部分の長さを変えて遊んでおくとよいでしょう。日本語の「ッ」だけだと長さの調整ができません。
例②:the SE rious p RO blem(ザ スィー リゥs p ラー bm)
problem は、「①第1アクセントを常に強く」のところで出てきた3つのパターンを、すべて口に出して練習しておきましょう。各段に聞き取れるようになります。
このように、 冠詞は限りなく小さく、名詞とセットで発音 されます。これを覚えておくと、聞き取りが楽になりますよ。
「単語は分かるけど、聞き取れない」の正体は?
リスニングで「単語の意味は分かるけれど、文全体の意味がわからない=聞き取れない」という感覚に陥ることがよくあると思います。その正体はこれ。前置詞や冠詞などの機能語が聞き取れず、そのため文の構造が理解できなかったのです。
次のような例文を繰り返し音読することで、発音のルールを体で覚えることができます。赤字の部分は発音しないつもりでやってみてください。
It's no t difficult for you to break into fluency.ェツ ナーッ・ ディ フィカォッ・ファ ユー ・トゥb レイ ケントゥ f ルー エンスィ発音のルールが身につけば、こういった英文はしっかり聞き取れるようになります。(流ちょうになるのは難しいことではありません。)
③難しい単語は聞き取りやすい
例えば、paticularly(特に)や preliminary (予備的な)、といった 抽象性が高く難しい単語ほどスペルが長い ものです。
スペルが長くて、意味が難しいのですから、それだけ、長く、強く発音されることになります。次のような単語も難しく感じますが、単語の意味さえ分かっていれば、意外と楽に聞き取れます。
- xenophobia 外国人嫌い
- prejudice 偏見
- theoretical 理論的な
- empirical 実証的
- applicable 適用できる
Xenophobia and prejudice are closely related and一つひとつの単語を発音するのに 時間がかかる 感覚がつかめたでしょうか。英文だけにするとこうなります。ゼーヌ フォ ウビァエン p レー ジュディサr k ロウ sリィ リ レー イティdエン
the theoretical
ズィ (舌を挟んで) スィ(舌を歯に挟んで)ゥ レー トゥコゥ
and empirical explanations of prejudice
エン エm ピー ルコゥ エkspラ ネー イシュnザv p レー ジュディサr
are also applicable to xenophobia.
ア ォソゥ エー p リクボゥ トゥ ゼーヌ フォ ウビァ
(外国人嫌悪と偏見は密接に関連しており、理論的、経験的な偏見の説明もまた外国人嫌悪に当てはまる。)
Xenophobia and prejudice are closely related and the theoretical and empirical explanations of prejudice are also applicable to xenophobia.これも何度も音読してみてください。
まとめ
今回は次の3つについてお話ししました。
・前置詞、冠詞は弱く発音される。音読して体で覚えておけば、文の構造がはっきり捉えられ、リスニングも楽になる。
・難しい単語はスペルが長く、比較的はっきり発音されるので、リスニングでは意外と怖くはない。
また、せっかく練習した英語を話しても、相手の言うことが聞き取れないばかりに会話についていけず何度も傷ついたものです。
でも前述したとおり、練習すれば発音は必ずよくなります。そして、「キレイでカッコいい発音」ができるようになるだけでなく、リスニングも楽になるのです。さらに、リスニングができるようになれば、英会話も楽しめるようになります。
スマホなどで自分の発音を録音して、ひそかに「ビフォー&アフター」を楽しむのも、励みになると思います。ぜひ実践してください!
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文:横山カズ @KAZ_TheNatural
関西外国語大学・外国語学部スペイン語学科卒。発音検定EPT最高ランク(指導者レベル)、ICEE(国際英語コミュニケーション検定)2012年優勝、英検1級。同時通訳者(JAL)、翻訳家、英語講師。高田学苑英語科特別顧問。エスコラピオス学園 海星中・高等学校英語科特別顧問。学びエイド、リクルート・スタディサプリENGLISH講師。英語を日本国内で独学し、航空・IT・医療・環境・機械・国際関係・文学など多分野で同時通訳者として活躍中。JAL(日本航空)グループ、楽天株式会社では英語力向上と社内公用語化に貢献。「英語4技能」・英語スピーキングのエキスパートとして日本全国で授業と講演を行っている。著書多数。ジパングマネジメント株式会社・文化人枠 所属 。
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