秋は繁忙期【通訳の現場から】

秋は繁忙期【通訳の現場から】

イラスト:Alessandro Bioletti

プロ通訳者の関根マイクさんが現場で出くわした、さまざまな「事件」を基に、通訳という仕事や通訳者の頭の中について語ります。もちろん、英語学習に役立つ通訳の技もご紹介。通訳ブースの中のあれやらこれやら、てんやわんや、ここまで言っちゃいます!

通訳者の書き入れ時といえば、9月から11 月までの3 カ月でしょう。秋は通常の案件に加えて、通訳者が一度に100 人近く動員される大型のIR(investor relations。投資家向けの広報活動)イベントや国内外の国際会議が複数開催されるので、とても忙しくなるのです。今回は参考までに、私のスケジュールから10 日間を切り出して紹介します。

1 日目

都内で翌日の国際会議の打ち合わせ。大型の国際会議の場合は、開催前日や、もっと前に打ち合わせが入る場合があります。打ち合わせなので通訳はしませんが、日本人発表者のスライドの英語チェックを手伝ったりします。「通訳以外の仕事はすべきではない」と考えるプロもいますが、私は、通訳はサービス業だと考えているので、合理的な範囲でお手伝いをするようにしています。帰宅後は法律事務所の依頼で1 時間の電話会議に参加。日本と海外の拠点をつなぐ会議の場合、通常はどうしても日本時間の早朝か夜遅くになってしまうことが多いです。電話会議は音質の低さに悩まされることもあるのですが、自宅で仕事をするときは服装も自由ですし(普通にTシャツと短パン)、PC が手元にあるので、わからない用語が出てきた場合はすぐに検索できるという利点もあります。

2日目

横浜のホテルで国際会議の本番。主題は今話題の電子タバコと規制について。タバコ嫌いの私は最近までタバコ関連の仕事はすべて断っていたのですが(喉を痛めるのでタバコ案件を避ける通訳者は多い印象)、TV 番組『アメトーーク!』のIQOS 芸人特集を観てから興味が湧いて、受けるようになりました。健康被害が大幅に減るらしいのです。今は「IQOS」に加えて「グロー」、「プルーム・テック」など大手の加熱式タバコ製品が出そろったので、今後のさらなる発展に期待です。夕食後、翌日の会議の資料を読み込み。

3 日目

都内ホテルでエネルギー源の多様化に関する国際会議。太陽光や風力など、再生可能エネルギーの活用が各方面で盛り上がっていますが、いまだに日本経済を支えているのは石炭など大昔からあるリソースです。害が多いと思われがちですが、最近は石炭をクリーンにする技術も発達したようで、個人的に学ぶことが多かったです。「通訳はおカネをもらって学ばせてもらう仕事」と言った通訳者がいましたが、確かに一理ありますね。会議終了後、家には戻らずに東京駅から新潟へ。

4日目

朝から某電力会社の施設で講習の通訳。逐次通訳は同時通訳以上の正確性を求められるので、技術的な内容は丁寧に訳すように心掛けています。ただし、資料を読んでもさっぱりわからない部分はごまかさず、担当者に助けを求めます。資料を読み込んでいればこのような状況が発生することはあまりないのですが、発生したときに自分の変なプライドにこだわるよりは、当事者/参加者に聞いた方が会議がスムーズに進む場合が多い、と経験上わかっているのです。夜の新幹線で帰京、食事は駅ナカで済ませ、帰宅は23時近く。

5日目

親しい通訳者仲間に誘われた案件で某上場企業へ。最近はさまざまな業界で海外M&A が増えてきていて、それに伴って通訳のニーズも増えている印象です。買収した会社の企業文化と日本側の文化とのすり合わせはもちろん、営業戦略など具体的な部分においても相談が必要ですし、本当の意味でグローバルな展開を目指している会社は、通訳や翻訳の費用をケチりません。コミュニケーションの重要性をきちんと理解している会社の仕事はとても楽しいですし、環境も良いので楽です。

6 ~ 7 日目

繁忙期は入れようと思えば毎日でも仕事を入れられるのですが、働き過ぎるとパフォーマンスが著しく低下するのは痛いほどわかっているので、近年は繁忙期でも週末はしっかり休みます。通常は読書したり、映画を見たり、覚えたてのマジックの練習をしたりしていますが、この週末はドラクエざんまいでした。はい、大人になってもゲームは大好きです!(ゲームの仕事も大好きです!)7 日目の最終便で沖縄へ。

8日目

朝から某ホテルで安全保障関連の国際会議。最近、日本のメディアは北朝鮮の話題ばかりですが、尖閣諸島の問題が消えてなくなったわけではありません。日本は中国・韓国との外交関係が盤石ではない上に、トランプ大統領の行動が予測しにくいので、在沖米軍の位置付けはもちろん、沖縄の安全保障の確保という意味で、関係者全員が今まで以上に難しいかじ取りを強いられています。私は沖縄サミットの年、2000 年から2013 年夏まで沖縄に在住していて、事情に通じていると評価されているのか、東京に移住した今でも一定規模の国際会議に呼ばれます。ありがたいことです。終了後、那覇空港へ。自宅へ戻らず、夜のうちに新幹線で仙台に到着。

9日目

東北楽天ゴールデンイーグルスが本拠地とするKobo パーク宮城に隣接する小型ドームは会議室としての一般利用が可能です。 今回は某コンサル会社の依頼でビジネス会議の同時通訳。震災からまだ完全復活とはいえない東北地方ですが、政府の財政補助もあり、地域を盛り上げようとさまざまなスタートアップが集まってきています。私は震災の年からたびたび仕事で東北を訪れていますが、多くを失った現地住民の有機的な取り組みに依存していては復興に時間がかかりすぎるという印象を持っています。外部リソースを投入し、復興を加速する取り組みを私も仕事を通じて応援しています。やはり「がんばろう、東北」ではなく、「がんばろう、日本」なのですよね。夜の新幹線で帰京。

10日目

朝から六本木で複数のユーチューバーさんたちと仕事。動画では奇抜な言動を繰り返している方々なのですが、一定の成功を収めているのにはちゃんと理由があります。マネジメント会社と契約していますし、「動画を使ってどう儲けるか」を戦略的に考えて動いています。どんなコンテンツが人気なのかを当然把握していますし、データを集めて分析した上で、効果を最大化するために動画をリリースする曜日や具体的な時間まで計算している人もいます。やはり成功は偶然ではなく、裏には緻密な計算があるのだなと納得しました。夜の便で成田からロンドンへ出発。

いかがでしたでしょうか。一定のキャリアを積んだプロなら、繁忙期はだいたいこのような感じです。仕事が頂けるのはありがたいこと。移動中も資料を読み込んで、日々全力で頑張っています!

関根マイクさんの本

同時通訳者のここだけの話

同時通訳者のここだけの話

  • 作者:関根 マイク
  • 出版社/メーカー: アルク
  • 発売日: 2019/02/18
  • メディア: 単行本
 
通訳というおしごと

通訳というおしごと

 

文:関根マイク( せきねまいく)

フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」(http://blogger.mikesekine.com/

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2017年12月号に掲載された記事を再編集したもので す。