See you again!【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

夫の海外赴任でアメリカに移り住んだのは、1993年の夏だ。ふと気が付けば、アメリカ暮らしは27年近くになる。最初の10年間は東海岸のニュージャージー州に住み、2003年から西海岸のオレゴン州ポートランドに移った。

思えば、この27年の間にいろいろなことが起こった。住み始めた年の12月に起きた、ニューヨークのロングアイランド鉄道での銃乱射事件は衝撃的だった。夕方の通勤電車での発砲事件などというとんでもないことが、すぐ隣の州で起こったのだから。

1994年のO. J. シンプソンの事件は、裁判の成り行きを毎日のようにテレビで見守ったものだ。1998年から翌年にかけてのクリントン大統領のスキャンダルも仰天モノで、この時もテレビにくぎ付けであった。まだインターネットが一般的ではなかった時代である。1999年にはコロラド州のコロンバイン高校で2人の生徒が銃を乱射し、13人が犠牲になった。同じ年に世間をにぎわせたのは、2000年になるとコンピューターが誤作動を起こすという、いわゆるY2K問題。「Y2Kでアメリカは大混乱に陥る」と言ってウォールストリートでの仕事を辞め、どこかの山奥に家族でこもって食料や水をせっせと備蓄していた人をテレビで見たが、その後、どうしているだろうか。

2001年には9.11の事件が起こった。雲一つない真っ青な空の、気持ちのいい日であった。ニュージャージーでも高台に上ると、ワールドトレードセンターから立ち上る黒煙が見えた。炭疽菌(たんそきん)入りの郵便が世間を騒がせたのはそれからすぐのことで、これ以降、terrorismという言葉が日常的に使われるようになる。

2003年にフセイン大統領がイラクで捕らえられ、2005年にはハリケーン・カトリーナがルイジアナ州辺りで猛威を振るった。

2009年にバラク・オバマが黒人として初の大統領となり、同年にマイケル・ジャクソンが亡くなり、9.11事件の首謀者と言われるウサマ・ビンラディンが2011年にパキスタンでアメリカ海軍によって殺害された。

2017年には、まさかのトランプ氏が第45代大統領に就任した。驚くべきことに、再選もあり得るかもという状況になってきている。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

shooting と呼ばれる銃乱射事件はアメリカの各地で起こり続け、もはやその一つ一つには強い衝撃を受けなくなってしまった。温暖化のせいか、大型のハリケーンが毎年のようにアメリカのどこかにやってくるようになる一方で、西海岸地域は山火事の対応に追われるようになった。有名人によるセクシャルハラスメントが大きく取り上げられる中、性別の垣根が取れて、代名詞のhe にもshe にも当てはまらないという人々が市民権を獲得した。

私にとってのアメリカでの27年間はこんな感じである。思えば遠くへ来たものだとしみじみ思うが、振り返ると、ある一つの光景がいつも頭の中に浮かんでくる。

それは、アメリカに住み始めてすぐ、運転免許証を取りに行った免許センターでのこと。穴あきTシャツに細身のパンツ、髪はつんつん立てて、いかにも世の中を斜に見ているようなパンクっぽい感じの若い白人の男の子が、自分の順番が来るのを待つ間に、そばにいた同じく順番待ちをしていたらしいおばあさんと、何やら話し始めた。会話の内容は知らないけれど、ミスマッチなように見えた2人は、結構長いこと話していた。一方的に話すおしゃべりなおばあさんに若者が仕方なく応じている、というのでもなく、双方とも会話を楽しんでいるような様子で。

日本ではあまり見掛けない光景だったので、強く印象に残った。

その後、暮らしていく中で、それはアメリカではそんなに珍しいことではないのだと知った。アメリカ人は、知らない者同士でも実に気軽に話をする。つい先日、私も、スーパーマーケットの駐車場で前から歩いてきた若い男性からいきなり話し掛けられた。

「あなたもテネシー出身なんですか?」

「は?」

私が驚いて二の句が継げずにいると、その人は、

「その服」

と言って、私が着ていたフード付きパーカーを指さした。プロバスケットボールチームのマスコットの絵が胸に付いている。

「あ、これ? 去年だかおととしだかメンフィスに行ったときに、このクマがかわいいなと思って買っただけ」

「ああ、そうなんだ。同じとこ出身かと思ってうれしくなったんだけど」

バスケットボールにはあまり詳しくないが、メンフィスのチームが強いと聞いたことはない。彼は、ポートランドなどという遠く離れたところで、マイナーな自分の地元チームのパーカーを着ている私を見て、つい声を掛けたというわけだ。

もちろん、彼とはそれだけ。ニッコリし合った後、バイバイ、と別れた。

アメリカ人の好きなところは、こんなところである。飾らずにフレンドリーなのだ。世の中はだいぶ様変わりしたけれども、アメリカ人のこの部分は27年前も今も変わらない。

さて、2011年から続いたこの連載は今回が最後。ご愛読ありがとうございました。アメリカという国のリアルな姿を少しでもお見せできていたなら幸いです。またどこかでお会いしましょう。See you!

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年3月号に掲載された記事を再編集したものです。