進化する銀行【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

もう25年以上前にアメリカに住み始めたときに、日本とは勝手が違って戸惑ったのは、銀行のシステムだった。銀行に口座を開いたら、横長の長方形のチェックブックを渡されたのだ。小切手帳である。通し番号が付いていて、自分の名前や住所、口座番号などが印刷されている。小切手などというものは企業の商取引に使うだけとばかり思っていたので、自分が日常的に使うことになるとは夢にも思わなかった。

毎月の公共料金などの支払いには、この小切手を使った。「Pay to the order of」という欄に宛先を、「$」の欄には金額を数字で書く。その金額を英語で書く欄もある。$25.98 ならtwenty-five and 98/100というように。そして右下には自分のサインをする。

サインといえば私の名前は Yoko Oishi だが、母音は o と i だけで見た目的に変化が乏しく、しかも筆記体にすると Y だけが下に出っ張るような形になってしまう。格好が取りにくいというか、どう頑張っても間抜けになるのが不満である。途中に f や g などが入っていたらドラマチックだし、名字の終わりが a だったらシュッと流せてカッコいいのに、といまだに思う。

話を戻そう。小切手は2枚目がカーボンコピーになっているから、書いたら1枚目だけをピリッとミシン目で切り離し、公共料金なら所定の封筒に入れて郵送する。小切手帳の最後の方には、deposit ticket というのが数枚ある。預け入れのための用紙だ。金額を記入して現金や小切手と共に銀行のカウンターの人に渡すと、口座に入金してくれる。

小切手帳には出納帳も一緒に付いてきた。そこに自分が切った小切手の記録だのATMから下ろした金額だのを書き入れて、口座の残高を把握するのだ。いちいち手書きというのが面倒くさかったし、しかもズボラな私はすぐに何かを付け忘れては実際の残高と合わなくなるので、よくキーッとなった。日本では、公共料金といえば自動引き落とし、記録はATMで記帳するだけだったから、アメリカって意外に遅れてる、と思ったものである。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

・・・という一連のことを過去形で書いているのはなぜかというと、最近のアメリカでは、日常生活にあまり小切手というものを使わなくなったからだ。日本でも同様かと思うが、今やオンライン(インターネット)バンキングの時代である。

書くのが面倒くさい小切手は、受け渡しが簡単な点がいい。遠方にいる人にお金を払いたいときに、普通郵便で送ることができる。また、発行する側も受け取って換金する側も、手数料を払う必要がない。そんな小切手が、最近はオンラインで発行できるようになった。相手の名前と住所さえわかれば、自分のオンライン口座から小切手を送れるのである。手数料はナシ。相手の名前と住所だけでいいというのが拍子抜けする。

銀行のアプリを利用した送金もある。相手の名前と、メールアドレスか携帯電話の番号がわかっていれば、送金できるのだ。もっといろいろと送金先の情報は要らないのだろうかと不安になるほど簡単だ。

最近もっとビックリしたのは、自分宛てにもらった小切手を携帯電話のカメラ機能を使って自分の銀行口座に入れられることである。

今までは、小切手を受け取ると裏側にサインをして銀行に持って行き、現金で受け取るか、あるいは口座に入れるかであった。数年前から、窓口に行かなくとも、ATMで小切手を自分の口座に入れられるようになったのはかなり画期的だと思ったが、今ではATMに足を運ぶ必要さえない。銀行のアプリを通じて小切手の表裏の写真をスマホで撮ると、数字が自動的に読み取られ、その金額が口座に入金される。入金処理が終わるまでには1、2日かかるし、念のために原本の小切手をしばらく保管しておく必要があるけれども、口座に入れるのに銀行までいちいち行かなくてもいいのは本当に便利だ。

アメリカの銀行もやるなあ、進化してるなあ、と感心するが、しかし、ここまで思い切ったサービスを提供するのは、きっとPayPal などの新手のオンライン決済サービスに対抗してのことなのであろう。お客を取られまいと必死なのだと見た。

日本の銀行はどうなのだろう。もう口座を持たなくなって何年にもなるので、その進化ぶりは私にはわからない。が、日本に行くたびに、母が時間外や週末の引き出しに取られる手数料にカリカリしているのを見て、アメリカとは違うなあと思う。

アメリカでは、自分の銀行ATMからお金を引き出すのに手数料を取られることはない。よその銀行のATMからだと手数料がかかるが、自分の銀行からなら、夜中だって早朝だって無料だ。

自分の口座から自分のお金を出すのに、なぜ手数料を取られるのか。営業時間とそれ以外の時間との「手数」に何の違いがあるのだろうか。実はATMの中には人が入っていて残業している、とかいうならわかるが、そんなことはなさそうだ。アメリカではできて、なぜ日本ではできないのか。そんなあこぎなことをしてると、PayPal みたいな新手のサービスにお客を取られちゃうよ、と思うのであった。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2019年5月号に掲載された記事を再編集したものです。