初めてのデート【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

この記事は娘の目に触れないようにしなければと思いながら書いているのだが・・・先日、娘が初めてデートに誘われた。

娘は、ただ今アメリカの学校で8年生。ミドルスクールの最終学年だ。日本なら中学3年生である。

お相手は、クリスというクラスメートのシャイな男の子だ。6年生の頃からずっとウチの娘のことが好きだった、というのはみんなが知っている。娘は初めの頃、「クリスって、私のことを遠くからじーっと見てて気持ち悪い」と言っていた。年に数回開かれる学校主催のダンスパーティーで、一緒に踊ろうと何回か誘われたが、そのたびに断っていた。

ところが、去年の秋に、学校のプロジェクトでペアになったのをきっかけに急接近。授業中に話すだけでなく、家に帰ってもチャットで盛り上がっていた。

で、ある日、

Would you like to go out with me?」

と聞かれ、今回は娘もイエスと答えたのだ。

アメリカの中学生のデートは、ほほ笑ましい。なぜかというと、彼らには「足」がないからだ。

日本でなら、学校から一緒に帰ったり、ファストフード店に寄り道したり、休みの日に駅前で待ち合わせたりできるが、車社会のアメリカでは、学校の帰りは親が車で迎えに行くかスクールバスかだし、休日に待ち合わせしようにも、公共交通機関が発達していないから、中学生が自力でどこかに行くのは簡単なことではない。

だから、アメリカの中学生のデートは親がかり。車で連れて行ってもらわなければならないのだ。

クリスと娘は、映画を見ることにした。『スター・ウォーズ』。娘はSFにまるで興味がないが、ノーと言えなかったようだ。

週末の午前中、11時40分からの回を見ることになった。

さんざん髪をいじくりまわしていた娘を鏡の前から引っぺがし、わが家から車で20分ほどの映画館へ。約束の時刻の15分前に到着。クリスの姿はない。

11時40分。彼は現れない。携帯電話をまだ持たないクリスとは、連絡の取りようがない。娘は不安げだ。

11時50分。クリスがお父さんと共に現れた。が、息せき切って走ってきた、というふうもなく、「遅くなってごめん!」でもない。

私が2人を急き立ててチケットを買いに行かせると、お調子者の娘が、「I got it!」と言って、2人分のチケットを買った。クリスは、チケットを買う娘の様子をただ突っ立って見ている。

どう見ても緊張気味のクリスと、ちょっと気負い過ぎという感じの娘は、無言で映画館に入っていった。「楽しんでね」と声を掛けると、どちらもこわばった顔で振り向いた。

それから2 時間後、私の携帯に娘からメッセージが来た。

「映画終わった。迎えに来て」

映画の後、アイスクリームでも一緒に食べなさいよ、と言っておいたのだが・・・。

行ってみると、映画館の外に、娘がぽつんと一人で立っていた。

「クリスとお父さんは?」

「犬を買いに行くから、って映画が終わってすぐに帰った」

え!? 聞けば、かねてからレトリバーを飼おうとしていた彼ら家族は、シェルターに、好みにぴったりの犬がいるという情報を得たそうだ。それで、ほかの人に取られる前に手を打ちたくて、映画が終わるや否や、娘を残して早々に向かったとか。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

「映画は面白かった?」

「全然」娘はぶすっとしている。

「クリスと何か話した?」

「予告編の間に少しね。それも私から話し掛けて」

「ポップコーン食べた?」

「私だけ。クリスは、『ランチ食べてきたばかりだからいらない』って。だから自分の分だけ買って食べた」

あり得ない、と私は思った。女の子に映画のチケット買わせたのなら、ポップコーンは僕が買うね、というのがフツーじゃないか? たとえおなかがいっぱいでも、そこは頑張ってポップコーンを買うのがボーイフレンドってもんだよ、クリス君!

「それに、犬買いに行くって・・・私のこと何だと思ってるのかなあ?」

初デートに気合が入っていた娘は、ひどくガッカリしたようだ。

その日、クリスからチャットのメッセージが幾つも来たが、娘は無視し続けた。翌日には、お父さんから私に「昨日はすぐに立ち去ってごめん」とメールが来たので、「いいんです。犬は大事ですから!」と、多少の皮肉も込めて返信しておいた。

そんな娘の初デートの様子を友人のセアに話したら、「私も7年生のときに男の子にデートに誘われたことがあった。何て断ったらいいかわからなくて、好きでもないのに一緒に映画を見に行ったんだけど、途中でキスしようとしてきたのよ! おえーって感じだった」と言っていた。

初デートのあのぎこちない感じが懐かしい。もうあのような思いをすることもないかと思うと寂しいような、でもホッとするような。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2018年4月号に掲載された記事を再編集したものです。