ロマンチックな季節【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

そろそろバレンタインデーに心浮き立つ季節だろうか。

その昔、私が日本に住んでいた頃には、その日は「女性が好きな男性にチョコレートを贈って告白する日」だった。今の日本はどうなのかと調べてみたら、義理チョコのみならず、女性の間で贈る友チョコ、男性から女性への逆チョコ、自分で買って自分で食べる自己チョコなどにまで展開しているのですね。

アメリカでは、バレンタインデーは女性からと限ったものではなく、むしろ、すでに気持ちを確かめ合っているカップルがさらに愛を深める日である。ラブラブなカップルは最高に盛り上がるし、相手がいない人はかなり寂しい思いをする日だ。ちなみに告白については、バレンタインデーに振られるという最悪の事態を避けるために、わざわざその日には告白しないようである。

贈る物は、いろいろだ。「ロマンチック」がキーワードだから、男性から女性にセクシーな下着を贈ったりもする。無論、チョコレートも人気だ。男性から女性へのチョコレートには、赤いバラの花束が添えられることが多い。だから、バレンタインデー当日、バラの花束の値段は高騰する。結婚して何年もたち「ロマンチック」にうつつを抜かしてばかりもいられない妻たちは、「プレゼントは何でもうれしいけど、バラの花束だけはもったいないからやめて」と夫にリクエストしたりもする。

私がビックリしたのは、娘が小学校低学年だった頃、バレンタインデーのやりとりが学校で奨励されていたことだ。クラス全員にカードを書いてくる、というのが宿題に出されたのである。

Happy Valentine’s Day! というようなメッセージが印刷された既製品のカードを使うのはオーケーだったが、宛名は一つ一つ手書きしなければいけない。クラスメートへの気遣いとか仲間意識みたいなものを醸成する意図もあったのだろうが、字を書く練習という側面も大いにあったようである。てっきりバレンタインデーは子どもには関係ないと思っていたが、こんな利用法があるのかと感心した。高学年になると、バレンタインデーカードは宿題ではなくなり、やりたい人だけやっていいよ、ということになったが、「カードを渡すならクラス全員に」というただし書きが付いた。

娘が中学に入ってからは、クラスのある男の子が、好きな女の子のカビー(ドアのないロッカー)に大きなシロクマのぬいぐるみを入れたこともあった。あっけらかんとオープンな感じが、いかにもアメリカだなと感心したものである。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

あっけらかんといえば、バレンタインからは少し話がそれるかもしれないが、アメリカでは、公の場所でのプロポーズをたまに見掛けることがある。

例えば、空港の送迎ゲートで、風船や花束などと共に「Kate, will you marry me?」などと書かれた看板を掲げている人がいたりする。恋人が飛行機で到着するのを待っているのだろうが、なかなか大胆だ。すでに求婚されたのを「考えさせて」と返事を保留にしていたらしい女性がゲートで待っていて、「Randy, yes, I will marry you!」というのも見たことがある。

スタジアムでのスポーツ観戦中、ハーフタイムに、「結婚してください」と、連れの女性相手にいきなりひざまずく男性もいる。手にはもちろん婚約指輪。スタジアム側には連絡済みらしく、電光掲示板にその模様が大きく映し出される。女性の方は、派手に驚いて見せた後、「もちろん!」と快諾するのがお決まりのパターンである。ああいうのは、イエスと言ってもらえる自信があるからやるのか、それとも、衆人環視の中、恥をかかせてはかわいそうだからという配慮により、一応その場ではイエスと言ってもらえるものの、後からもう少し冷静な話し合いがあったりするのだろうか。私だったら、それまでどんなに好ましく思っていた相手でも、あれをやられた時点でアウトだな、と思いながら見ているのだが。

プロポーズといえば、友人のジョンが妻のカミラにしたというプロポーズの話が忘れられない。

付き合って数年、行きつけのチャイニーズレストランでいつものように食事をした2 人のテーブルに、食後、フォーチュンクッキーが置かれた。フォーチュンクッキーとは、立体的になった瓦せんべいみたいなクッキーで、割ると、中から運勢や示唆に富んだ言葉などが書かれた小さな紙片が出てくる。

カミラがクッキーを一つ手に取って割り、出てきた紙を読み上げた。

「あなたは目の前にいる人と結婚します、ですって、アハハ・・・」

でも、目の前の人って・・・。

となったところで、ジョンがすかさず、

「で、目の前の人と結婚する?」

と、真顔で聞いたのだそうだ。

ジョンは、自作の紙片入りのフォーチュンクッキーを前もって用意し、店の人にそれを出してもらうよう頼んでおいたというわけ。

ロマンチックな話ではないか。今年のバレンタインに求婚を計画している方、どうぞ参考にしてみてください。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2018年2月号に掲載された記事を再編集したものです。