コロンビア大学大学院で英語教授法を学んだサラさんが、すぐに実践できる発音のコツを教えてくれる連載、「コロンビア大学TESOLサラの英語発音ジム」。今回は、アメリカ英語とイギリス英語の発音の違いについて解説してくれました。
こんにちは、英語ジム らいおんとひよこ®代表のサラです。前回は、Have a nice day!のniceとdayはどちらをより強く読むか、2語以上の語(gas station、language school、climate changeなど)はどこを最も目立たせて読むかなどのアクセントの位置の基本ルールについてお話ししました。
今回取り上げるのは「アメリカ英語とイギリス英語の発音の違い」です。突然ですが、「あの人はアメリカンアクセントだね」というコメントを聞いたことはありますか?またはハリウッド映画で、「あの女優はアメリカ英語発音だ」「イギリス人だけどアメリカ英語を話す役を演じている」などというコメントも耳にしたことがあるかもしれません。
一般的に、日本の英語教育で育った場合、多くの人にとってアメリカ英語に触れる機会が圧倒的に多いと言えます。市販の英語関連書籍もアメリカ英語をベースとしているものが多く、この記事を読んでいる人も基本的にアメリカ英語で学ばれている方が多いかもしれません。*
さて、ここで質問ですが「何をもってアメリカ英語に聞こえるか」ということに関して深く考えたことはありますか?「アメリカ英語の特徴は?」と聞かれると、「rを発音するとき、舌を巻いて発音する(正確にはアメリカ英語のrの音はr-colored vowel(rの音色を帯びた母音)と呼ばれます。/ɚ/という発音記号を用いて表されます。発音の仕方は後述しますが、巻き舌とは別の方法で発音されることもあります。))のがアメリカ英語の特徴だ」と答える学習者も多いでしょう。
もちろんrの音も重要ですが、アメリカ英語に聞こえるための条件やイギリス英語との違いはほかにもたくさんあります。今回は英語学習者ならぜひ知っておきたいアメリカ英語とイギリス英語の違いを概観し、アメリカ英語の特徴をご紹介します。
アメリカ英語発音の3つのポイント
まずは、アメリカ英語を話すときに大切な3つのポイントを紹介します。
- 発音の練習
- アメリカ英語の特徴についての知識
- 一貫性
アメリカ英語の発音を目指す場合、当然「発音の練習」が最重要です。しかし、それと同じくらい重要なのが、アメリカ英語の特徴やイギリス英語との違いについての「知識」を増やすことと、アメリカ英語発音の特徴を貫き通す「一貫性」です。
発音が全体的にきれいな人でも「アメリカ英語っぽさ」がない場合、ポイントの2か3が欠けている場合も多いです。今回はこの3つのポイントについても詳しくお話しします。
あなたのアメリカ英語度をチェック
まずはウォームアップです。以下の16語はどれもよく見る単語ですが、声に出して発音してみてください。これら単語はすべてアメリカ英語とイギリス英語で違いがあるもの、または違いが生まれる可能性があるものです。
- pot
- half
- so
- bird
- ability
- YouTube
- twenty
- gulf
- rotate
- garage
- dictionary
- laboratory
- missile
- clerk
- tomato
- talk
発音してみていかがですか?アメリカ英語での発音とイギリス英語での発音の差を思い浮かべることができたでしょうか?「え?これってアメリカ英語とイギリス英語で違う発音なの?」という語もあったかもしれませんね。さっそく違いを整理していきましょう!
※以下解説では便宜上発音記号も使用します。発音記号になじみのない方でもある程度理解できるように工夫していますが、発音記号を知っていると発音がぐっと楽しくなります。この機会にぜひ知らない記号は覚えてみましょう!
hotの「長めのアー音」/ɑː/
まずは、アメリカ英語で最も重要な音の1つである「長めのアー音」/ɑː/についてです。この記事を読んでいる人なら、アメリカ英語のhotの発音解説で、hot/hɑːt/は「ホーt」でなく「ハーt」なので、「長めのアー」で発音する、ということを一度は聞いたこともあると思います。
hotの/ɑː/はfather/ˈfɑːðɚ/と同じ/ɑː/の母音が使われており、「オー」でなく「アー」と発音することがわかります。
/ɑː/の音の最大のポイントはアゴをしっかり落として発音することです。アゴを落とす=口を開ける=舌の位置が下がるのですが、/ɑː/の母音は英語のすべての母音の中で最も舌の位置が低い語です。歯医者さんに口を大きく空けて見せるような感じで、またはリンゴを口で挟むようなイメージでアゴを落としましょう。
/ɑː/を発音する練習として、以下の語を発音してみてください。
単語 | 発音記号 |
---|---|
model | /ˈmɑːdl/ |
pot | /pɑːt/ |
robot | /ˈroʊbɑːt/ |
opportunity | /ˌɑːpɚˈtuːnəti/ |
competition | /ˌkɑːmpəˈtɪʃn/ |
これらの語すべてで/ɑː/の音を一貫して発音できましたか?hotは/ɑː/を正しく発音して「ハー」と言っているのに、model/ˈmɑːdl/を「モー」のようにオ寄りで発音している人は非常にアンバランスに聞こえます。言い換えると、hotでせっかくアメリカ英語発音が実践できているのに、modelを/ɑː/でなく「モー」とオ寄りで言ってしまったその瞬間に「アメリカ英語っぽさ」が弱まります。model/ˈmɑːdl/は聞こえ方としては「マードl」のような感じで発音します。
また、「鍋」という意味のpot/pɑːt/を「ポーt」と発音している人も多いですが、「オ」でなく「ア」の音で、長めに「パーt」と発音してみましょう。同様に、「ロボット」という意味のrobot/ˈroʊbɑːt/も-bot/bɑːt/の部分は「ボット」でなく「バーt」のように発音します。
アメリカ英語発音を目指している方は、このことを徹底的に行いましょう。どんなに難しい単語でも、/ɑː/が含まれている語は必ず長めのアー音/ɑː/で発音するのがポイントです。
halfの発音はアメリカ英語とイギリス英語で異なる
次に、イギリス英語では「長めのアー音」/ɑː/の発音になるが、アメリカ英語ではアとエが混ざった/æ/の発音になる語を見ていきましょう。
単語 | アメリカ英語発音 | イギリス英語発音 |
---|---|---|
can’t | /kænt/ | /kɑːnt/ |
sample | /ˈsæmpl/ | /ˈsɑːmpl/ |
ask | /æsk/ | /ɑːsk/ |
half | /hæf/ | /hɑːf/ |
after | /ˈæftɚ/ | /ˈɑːftə/ |
path | /pæθ/ | /pɑːθ/ |
まず/æ/の発音のポイントですが、「ア」というよりも「エ」に近い音というイメージを持ちましょう。/æ/は音を長めに発音することもポイント(/æ/の音が特に/n//m/や/ŋ/などの前にあるときは特に「エ」っぽさが強まることも多いです。man/mæn/の出だしの/mæ/は「マ」というより「メァ」のように聞こることも多いです。「マン」というより「メァンヌ」のような感じに聞こえます。)です。
/æ/の発音が苦手な人は「ア」でなく「エァ」くらいのつもりで発音してみるのもおすすめです。例えば、askなら「エァsk」のイメージです。
さて、can’tはアメリカ英語式の/kænt/「キャーンt」や「ケァーンt」のように/æ/で発音しているのに、halfやpathなどはイギリス英語式の/ɑː/音で発音している学習者もよく見かけます。これだとバランスが悪く聞こえるので、アメリカ英語発音を目指している方は、アメリカ英語発音に統一して/æ/で発音してみましょう。
二重母音の発音はどう違う?
soやnoなどの二重母音もアメリカとイギリスで発音の仕方が異なります。二重母音とは2つの母音を一息で言う音です。アメリカ英語では/oʊ/でイギリス英語では/əʊ/と表記されます。
単語 | アメリカ英語発音 | イギリス英語発音 |
---|---|---|
so | /soʊ/ | /səʊ/ |
no | /noʊ/ | /nəʊ/ |
soのアメリカ英語発音/oʊ/の1つ目の母音/o/は、日本語のオとほぼ同じ音で発音してOKです。すべての二重母音は1つ目の母音が2つ目の母音よりも強く長めに発音され、2つ目の母音は添えるように発音されます。よって、/oʊ/は第1要素/o/を強く長くすることを意識して「オ-ゥ」のイメージで発音しましょう。
イギリス英語では1つ目の母音は/ə/で発音されるため、アメリカ英語とかなり音色が異なります(本記事では/ə/の発音ポイントは割愛します)。
苦手意識がある人が多い?r音
次は、なじみ深い人も多いであろうrの音、/ɚ/です。/ɚ/はアメリカ英語特有の音で、舌の左右のへりを上の奥歯に当てて舌全体を後ろに引きながら、「アー」と「ウー」が混ざったようなこもる音を発音しましょう。口をあまり開かず半開きにし、舌先は口腔内のどこにも接触しません。(ただし、この音は習得が難しいのですぐにできなくても自信を無くす必要はありません!)
/ɚ/が含まれている以下の語を発音してみてください。
opportunity/ˌɑːpɚˈtuːnəti/
forget/fɚˈɡɑːt/
opportunityの第2音節-por-/pɚ/はどのように発音しましたか?
/pɚ/を「ポ」のように発音するのでなくこもったrの音でしっかり発音できましたか?この第2音節は最も目立って読まれる音節ではありませんが、意識してこもったr音が入れるとぐっとアメリカ英語らしくなります。
forgetの第1音節for-も「フォ」でなく/fɚ/です。「毛皮」のfurを短く素早く発音するイメージです。アメリカ英語発音にするためには、このように細部まで一貫してr音を入れることが重要です。
tは速いdの音で発音?!
アメリカ英語とイギリス英語では、tの発音が大きく異なります。さまざまな違いがありますが、最も大きな違いの1つを見てみましょう。
イギリス英語では基本的にabilityやbetterなどのtをはっきりと発音しますが、アメリカ英語では、
ability → abilidy
better → bedder
のように、tが「速いdの音」になります。このような音はflap tと呼ばれています。flapは「はたく」という意味がありますが、flap tは舌を弾いて発音します。普通のdというより速いdで発音します。flap tが現れる条件は実は少し複雑なのですが、まずは慣れるまでは以下の2つ条件を覚えておきましょう。
・強く発音する母音と弱く発音する母音の間にtがあるとき(butter, cityなど)。
・tで終わる後に母音で始まる語が続くとき(get out, put inなど)。
city → cidy
get out → ge doubt
put in → pu din
練習を重ねると、どんなときflap tになるのかがだんだんわかってくるはずです。話者の話すスピードなどによりflap tにならない場合もありますが、普通のスピードで発音するときは、どんどんflap tで発音してみましょう。ぐっとアメリカ英語らしくなります。
newは「ヌー」?!
newやYouTubeの発音がアメリカ英語とイギリス英語で異なることが多いのをご存知でしょうか?
単語 | アメリカ英語発音 | イギリス英語発音 |
---|---|---|
new | /nuː/ | /njuː/ |
YouTube | /ˈjuːtuːb/ | /ˈjuːtjuːb/ |
newはイギリス英語では/njuː/「ニュー」と発音されますが、アメリカ英語では/nuː/「ヌー」のように発音される傾向があります。
また、アメリカ英語ではYouTubeのTubeの母音/tuː/は、「チュー」でなく数字の2のtwo/tuː/と同じ発音です。よって、you+two+bと発音するとアメリカ英語らしくなります。
ya・yi・yu・ye・yoのyの音(発音記号は/j/)がイギリス英語では発音されるが、アメリカ英語では脱落する(ルールは覚えなくて大丈夫ですが、/n, t, d, s, z, l/などの歯茎音(上歯の上方の歯茎で発音される音)や/θ/の後などでy音の脱落が起こります。特に/n, t, d/の後で顕著です。)という傾向があるのです。ただし、yの音は理解するのが少し難しいのでまずはnewやYouTubeの発音がアメリカとイギリスで異なるということだけ覚えておけば十分です!
ちなみに、ロングマン発音辞典がアメリカ人に行った発音好み調査では、newの発音についてアメリカ人の8割以上が「ニュー」でなく「ヌー」の発音を好んだそうです。この傾向は年齢が若くなるほど顕著です。
アメリカ英語の特徴が満載の1語!opportunity
最後に、ここまで学んだ知識をopportunityという語で確認してみましょう。opportunity/ˌɑːpɚˈtuːnəti/は、かなりアメリカ英語らしさが出せる語です。
まず語頭に注目してください。「オー」でなく「長めのアー音」/ɑː/ですね。唇を丸めずにしっかりとアゴを落とし口を開けて発音します。
次に、前述したとおり第2音節の-por-/pɚ/は、percent/pɚˈsent/の第1音節per-/pɚ/の様にこもったr音/ɚ/で発音されます。ここまででアメリカ英語の特徴が2つ出てきました。
さらに、次の第3音節-tu-の部分は「チュー」でなく/tuː/であることにお気付きでしょうか?つまり数字の2のtwoと同じ発音です。これは先ほどお話ししたnewやYouTubeと同じ現象で、イギリス英語では発音されるy音が落ちていますね。アメリカ英語でもyありの発音を聞くこともありますが、yあり発音はイギリス英語でより好まれます。
そして、opportunityの-nity/nəti/の部分ですが、これはアメリカ英語ではflap tで発音されることがほとんどです。よって、
nity → nidy
のように速いd音になります。つまり、opportunityという単語には今回紹介したアメリカ英語発音の特徴が4つも入っている語*なのです。
この4つのポイントを意識して、opportunityは
アー+/pɚ/+two+nidy
と発音してみましょう。ぐっとアメリカ英語らしくなります。
この知識は何も自分が発音するときだけでなく、リスニングでアメリカ英語かイギリス英語かを聞き分けるのにも使えます。極端な話ですが、opportunityという語を1語聞けば、アメリカ英語かイギリス英語かはほぼ言い当てることができるのです。
ウォームアップ問題の答え合わせ
アメリカ英語発音のポイント
pot/pɑːt/:長めのアー音/ɑː/で
half/hæf/:アとエが混ざった/æ/で
so/soʊ/:/oʊ/は「オ-ゥ」
bird/bɚ:d/:こもったrの音を意識
ability/əˈbɪlət̬i/:速いd音のflap t
YouTube/ˈjuːtuːb/:「チューブ」ではなくtwo+bで
※後半の単語(7~16)は次回詳しく解説します!
まとめ
アメリカ英語とイギリス英語のさまざまな違いを見てきましたがいかがだったでしょうか?現在、テクノロジーの発達やグローバル化によって、世界を見ればWorld Englishesと呼ばれるさまざまな英語を聞くようになりました。よって、自分の英語をアメリカ英語やイギリス英語に必ずしも寄せなければならない、ということはありません。
ただ、もしあなたがアメリカンアクセントを目指すなら、今回紹介した
- 発音の練習
- アメリカ英語の特徴についての知識
- 一貫性
が重要です。今回で紹介した6つのポイントをまずは練習し、一貫性を持ってアメリカ英語式で発音してみましょう。
次回は、今回紹介し切れなかったアメリカ英語とイギリス英語の違い(アクセント位置の差や発音が異なる語、語彙、冠詞の差)や、少し応用の知識についてもお話します。お楽しみに!
サラさんの英語学習に関するSNS投稿も要チェック!
この連載の著者、サラさんはオンライン英語スクール「英語ジム らいおんとひよこ®」の代表を務めています。また、YouTube・note・英語ウェブメディアなどのSNSで英語学習全般についての情報を毎日発信しているのでぜひこちらもご覧ください!
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