イギリスは4つの国から成るって知ってた?それぞれの特徴は?今さら聞けないイギリスの基本
Photo by Chris Boland

イギリスとイングランド、スコットランドの違いって実際には何?実はイギリスは、「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」の4国で構成される連合王国なんです。ラグビーワールドカップ2023には、そのうちの3国がの代表国として名を連ねています。本記事では、イギリスの正式名称や4国の特徴、話される英語の違いなど、多くの人が疑問に思うことを詳しく解説します。

イギリスの英語名や正式名称は?

イギリス名を英語でなんと言うか知っていますか?

England?

と思った人もいるのではないでしょうか。冒頭でお伝えしたように、イギリスは4つの国から成っており、イングランドはそのうちの一つなんです。イギリスと言えば、ロンドンやバーミンガム、リバプールといった都市を思い浮かべる人も多いと思いますが、それらはどれもイングランドの都市です。

イギリスを構成する4つの国は下の通りです。

England(イングランド)
Scotland(スコットランド)
Wales(ウェールズ)
Northern Ireland(北アイルランド)

そしてこれら4つの国から成るイギリスの正式名称はこちら。

United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)

省略してthe United KingdomやGreat Britain、Britainなどと呼ばれることもあります。「イギリス」という呼び方は日本だけなので、注意しましょう。

ここからは、ロンドン在住のライター冨久岡ナヲさんが、各国の特徴を詳しく紹介します。

イングランド~連合王国の中心

イングランド、ロンドン、ウェストミンスター宮殿

首都 ロンドン
人口 約5600万人
主要な都市 マンチェスター、バーミンガム、リバプール、リーズ
観光名所 ウエストミンスター宮殿のシンボル的存在「ビッグベン」、世界遺産の古代遺跡「ストーンヘンジ」、文豪シェイクスピアの故郷「ストラトフォード=アポン=エイヴォン」
出身の有名人/グループ ビートルズ、クイーン、デヴィッド・ベッカム(元サッカー選手)、J.K. ローリング(「ハリー・ポッター」シリーズ作家)、ベネディクト・カンバーバッチ(俳優)

イングランドはイギリス国土の3分の2を占め、全人口の8割が住む連合王国の中心的存在です。ロンドンは、「イングランド」と「イギリスという単一国家」の両方の首都役を担う国際都市。おなじみ「ビッグベン」近くのダウニング街10番地には、四つの「国」から権力の一部を預かり、全国をまとめるcabinet(内閣)が集う首相官邸があります。

バーミンガムなどの主要地方都市はどこも産業革命時に栄えた北部地方にありますが、重工業などの衰退によって昔の勢いは失われています。また、北に向かうほど言葉のなまりは強くなり、郷土愛が強過ぎる住民が増えていきます――例えばマンチェスターとリバプールが、音楽からサッカーまで「うちの街の方が上だ!」と互いをライバル視するように。南部は「イングランドの庭」と呼ばれるほど豊かな緑を誇り、温和でマイペースな住民が多いといわれます。

イングランドのお国自慢

ブリティッシュ・ポップのお膝元といえばイングランド!ビートルズ(リバプール)、オアシス(マンチェスター)、ローリングストーンズ(ロンドン)にクイーン(ロンドン)など、枚挙にいとまがありませんが、常に新しいサウンドが生まれていることも自慢です。

また、イングランドのカントリーサイドは広大な自然の中に優雅さを感じさせるのが特徴。なだらかな丘陵地帯が続くコッツウォルズ、幽玄な湖が連なる湖水地方、紺碧(こんぺき)の海が広がるコーンウォールなど、48カ所もの「Area of OutstandingNatural Beauty(特別自然美観地域)」があり、コロナ禍で海外ホリデーに行けない時期でも、「ステイケーション」を楽しんでいました。そしてさまざまな民族が住み、300もの言語が話されているロンドンはまさに「人種のるつぼ」。本格的なエスニック料理の食べ歩きもおすすめです。

意外と知らないイングランド事情

イングランドの国花はバラ。では「国獣」は?――答えは、イングランドの王旗にある「バーバリライオン」。クリケットのイングランドチームの旗にも付いています。既に絶滅した種ですが、古くから勇敢さの象徴とされ、幾つもの戦いに果敢に挑んだリチャード1世王は「ライオンハート」と呼ばれていました。中世には、北アフリカから連れてきたバーバリライオンを常にロンドン塔で飼っていたそうです。

イングランドで話される英語は、北部および中部と南部ではかなり異なります。北部では日本の東北弁を思わせる「上り調子」と「母音のaの音がuまたはoの音になる」点が特徴。butは「バット」でなく「ブット」または「ボット」のように聞こえます。ロンドンの下町言葉として有名なコックニーなまりは中・高校生同士の会話で聞かれることも多く、I don’t want it.は「アイドンワネー」、photoはフォトでなく「フォオー」となります。

スコットランド~独立の機運が高まる国

スコットランド、ハイランド、グレンフィナン高架橋

首都 エディンバラ
人口 約545万人
主要な都市 グラスゴー、ダンフリーズ
観光名所 本場のスコッチウイスキーを体験できる「ウイスキー蒸留所」、ネッシーの目撃情報が日本でも話題になった「ネス湖」
出身の有名人/グループ アダム・スミス(経済学者、『国富論』著者)、コナン・ドイル(「シャーロック・ホームズ」シリーズ作家)、ショーン・コネリー(俳優)

イングランドとは地続きでありながら、昔から仲が良かったためしがないスコットランド。1707年から同一の王(現在はチャールズ3世)を君主とする連合王国になったものの、「イングランドに乗っ取られた」という不満は消えていません。首都エディンバラにはスコットランド議会があり、自治政府首相もいます。通貨はポンドでも、お札やコインは独自のデザインです。

2013年の住民投票では僅差で独立に至りませんでしたが、その後のEU離脱に住民の6割が反対だったことから再び連合を離れようという機運が高まっています。自分たちは「British」であるよりも「European」だと感じるスコットランド人が多いようです。

「ベン・ネビス」など比較的高い山並みと荒々しい景観を誇り、妖精や怪獣が登場する古民話が年代を問わず愛されている国です。

スコットランドのお国自慢

極上のスコッチウイスキーを飲んだら、もう他のお酒は飲めないはず!ハイランド地方のスモーキーなウイスキーから、南のおいしい水を使ったマイルドなタイプまでたくさんの銘酒があり、中には200万ドル(約2億2000万円)で落札されたビンテージもあります。

毎年エディンバラで開かれる国際フェスティバルは、文化の祭典。メイン会場だけで十数カ所もあり、音楽、ダンス、演劇などが繰り広げられます。同時に行われる「フリンジ」と呼ばれる小劇場や屋外でのパフォーマンスからは、新しいバンドやコメディアンがブレークします。コメディードラマ「Mr. ビーン」(1990-95)で知られるローワン・アトキンソン、「ハリー・ポッター」シリーズ(2001-11)でスネイプ先生役を演じたアラン・リックマンも、フリンジから飛び立った俳優です。

また、産業革命を可能にした蒸気機関、電話、TV放送、ペニシリン、ATMなど、世界を変えた発明が生まれた地でもあります。現代の便利な生活は、スコットランド人なしには存在しなかったかも?

意外と知らないスコットランド事情

18世紀のイングランドでは、親の承諾なしに21歳以下の結婚が許されなかった時期がありました。そこで若いカップルが手を取り合って駆け込んだのが、国境を越えたスコットランド南西部の小さな町、グレトナ・グリーン。こちら側では男性は14歳、女性は12歳になれば自由意志で結婚でき、教会での宣誓も必要なく、駆け込み婚に立ち会ったのは町の鍛冶屋さんでした。今では結婚式博物館を備えた観光地となり、年間1000組が式を挙げる「愛の聖地」となっています。

グラスゴー・セントラル駅で切符を買おうとしたが、駅員の英語が一言も分からず参った、という話はよく聞きます。北のハイランド地方に行くと比較的ゆっくり話してくれてホッとするものの、古い公用語であるゲール語の影響もあり、Jが「チ」、can notが「キャネェ」のように聞こえるなど、やはり何を言っているのか分からない・・・となることも。スコットランドに行くにはそれなりの覚悟が必要かもしれません。

ウェールズ~人よりヒツジが多く暮らす国

ウェールズ、ニューサウスウェールズ州、タラス埠頭

首都 カーディフ
人口 約314万人
主要な都市 スウォンジ、レクサム、ニューポート
観光名所 中世の雰囲気そのままの世界遺産「コンウィ城」、リゾート地として人気の岬「グレートオーム」
出身の有名人/グループ アンソニー・ホプキンス(俳優)、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ(俳優)

グレートブリテン島本土の西側に位置し、イングランドと隣接するウェールズ。日本の四国と同じくらいの面積で、300万人余りが住んでいます。人よりもずっと多いのがヒツジ!推定1000万頭が飼育され、なだらかに続く田園でのんびりと草を食べています。人口の3分の2が首都カーディフのある南ウェールズ地方に住み、北は自然が多く、スノードン山などの国立公園が広がります。

人気のスポーツは、サッカーでもクリケットでもなくラグビー。屈強なプレーヤーを抱えるウェールズのチームは欧州で1、2を争う強豪です。

ウェールズのお国自慢

ウェールズには世界で一番長い名を持つ村があります。その名も、Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch(ランヴァイル・プルグウィンギル・ゴゲリフウィルンドロブル・ランティシリオゴゴゴホ)。村の教会名と所在地の説明を並べた文のような地名ですが、実はビクトリア時代にここを観光名所にしようと考え出されたそうです。llは「シュ」と「グ」の間、gの発音は「グフ」に近く、駅名のアナウンスではせきこんで話しているように聞こえます。

ウェールズ人は歌うことが大好きです。パブでほろ酔い客が何か歌い出したらすぐにみんなが参加し、合唱を始めます。太く豊かな声を張り上げることをbelting(ベルティング)といい、ウェールズ出身のスター歌手トム・ジョーンズやシャーリー・バッシーなどは「典型的ベルター」と呼ばれています。

意外と知らないウェールズ事情

ウェールズには600もの古城がひしめいています。国土面積から計算すると35平方キロメートルごとに1城建っていることになり、密度としては世界一。多くが中世イングランドによってウェールズ平定のために建てられ、軍事的な意味合いが強いものです。グレートブリテン作『天空の城ラピュタ』(1986)のモデルといわれているカナーヴォン城や、巨大な要塞(ようさい)コンウィ城(共に世界遺産)、ピサの斜塔よりも傾いた塔が残るケルフィリー城などが有名。

ところで、イギリスの国ユニオンジャックには、ウェールズの国章である「火を吹くドラゴン」が描かれていません。これは連合王国ができたときには、ウェールズがイングランドの属国だったことによるものです。

ウェールズ語はケルト語をルーツに持ち、英語よりずっと歴史が古いものです。長い間公用語から外され話す人が減ってしまっていますが、ウェールズ自治政府の努力もあって今では義務教育の科目となり、街の標識などは英語との併記が標準です。

ウェールズの英語からは、同じケルト語に影響されたスコットランドやアイルランドほどの強い巻き舌は感じられないでしょう。しかし、eが「ウィー」になるなど母音の響きは違うように聞こえ、girlが「ガァーール」と間延びするなど、イングランドでよく聞く英語と違うことはすぐ分かります。北から南までさまざまななまりがあり、「車で30分行くとアクセントが変わる」と言われます。

北アイルランド~激動の歴史を持つ国

北アイルランド、ブッシュミルズ、ジャイアンツ・コーズウェイ

首都 ベルファスト
人口 約189万人
主要な都市 ロンドンデリー、ニューリー、アーマー
観光名所 沈没したタイタニック号の建設場跡「タイタニック博物館」、六角形のような奇岩でできた海岸「ジャイアンツ・コーズウェイ」
出身の有名人/グループ ケネス・ブラナー(俳優)、リーアム・ニーソン(俳優)

アイルランド島の北東部を占め、連合王国の中で最も面積が小さい国です。島の南部はアイルランド共和国で、イギリスとは別の独立国でありEU加盟国。昔からこの島では、北のキリスト教プロテスタント派と南のカトリック派との間で紛争が絶えず、1921年に南北アイルランドが二つの国に分かれた後も暴力的な衝突が続いています。さらにイギリスのEU離脱後は、グレートブリテン島とアイルランド島の間にあるアイリッシュ海がEUとイギリスとの国境のようになってしまい、物品の行き来がスムーズでなくなることもあります。

激動の歴史に翻弄(ほんろう)されながらも、人々はとてもフレンドリーで親切。旅行者が街角でガイドブックを見ていると、たちまち数人が寄ってきて「名所ならあっちだよ」と声を掛けてくれます。

北アイルランドのお国自慢

イングランド人よりもたくさん紅茶を飲むといわれている、北アイルランド人。平均して1日6杯だそう!おすすめは、「アイリッシュ・ブレックファスト・ティー」と呼ばれるアッサムとケニア産茶葉のブレンドで、濃く入れて砂糖とミルクをたっぷり入れていただきます。銘柄は「トンプソンズ」が人気です。

スコットランド出身者がウイスキー造りを伝え、いつしか3回蒸留するのが特徴のアイリッシュ・ウイスキーが生まれました。スムーズな口当たりで飲みやすいのでウイスキー初心者にもおすすめ。代表銘柄は「ブッシュミル」で、蒸留所周辺は美しい自然に囲まれた観光名所でもあります。

ガーデニングの人気は、本家を自認するイングランドに負けず劣らず高いのですが、グレートブリテン島と違うのは庭の土を荒らすモグラが一匹もいないこと。氷河時代に絶滅したという説があります。庭自慢な家が多いのは、モグラに邪魔されずに美しい花々を育てられるからかもしれません。

意外と知らない北アイルランド事情

ベルファスト、ニューリー、リスバーンはイギリスで最も雨の多い地域トップ20の常連。1年の半分は雨降りです。でも地元の人はなぜか傘を差さないし、雨靴も履きません。日本のように一日中降り続くことはあまりないし、2日に1度は雨降りなので、誰もが「そのうちやむさ」とあまり気にしなくなってしまったようです。北アイルランドを訪れるなら、傘を差さずにフード付きのレインコートを着る方が街になじみそうです。

北アイルランドの人に、「アメリカ英語のような響きですね」と言ってはなりません。「われらの祖先こそがアメリカに渡りアイルランドなまりを広めたのであって、逆ではない」と怒られてしまうかも。北アイルランド南部にはスコットランドとイングランドからの移住者の子孫が多く、北部よりも多彩な発音が混じっています。gardenが「ギャルデン」、cakeが「ケイク」ではなく「ケァーク」に聞こえたりします。

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年12月号に掲載した記事を再編集したものです。

冨久岡ナヲ(ふくおか・なを)
冨久岡ナヲ(ふくおか・なを)

イギリス、ロンドン在住のジャーナリスト、コーディネーター、食イベントプロデューサー。在英約20年。日本にイギリスの情報を伝える傍ら、二つの国の絆を深めたいと輸出入の促進協力活動なども行っている。共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社)など。

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