英語学習者なら誰でも、効果の高い学習法を知りたいですよね。11人もの専門家の意見を凝縮した1冊を紹介します。日ごろの疑問の答えが見つかるかも!
効果的な英語学習法が分かる「SLA」とは?
その昔、とある英語学習法の本を読んだら、「細かい間違いは気にせず、ネイティブの友だち相手にどんどん話し、誤りを指摘してもらいましょう」という内容でぎゃふんと思ったことがあります。
そもそもネイティブの友だちがいないのだが・・・。
いたとしても、会うたびに「英語を教えて」と頼んでいたら、だんだん会ってくれなくなる気がします。
このように、ある人にとっては効果のある学習法が、自分にとってもそうであり、かつ実践できるとは限りません。英語力も、英語学習に掛けられるお金や時間も、人それぞれ。自分に合う学習法はどうやって見つけたらいいんだろう・・・と思っていたら、ありがたいもので、専門家がしっかり研究してくれていました。
その名も「第二言語習得研究」(second language acquisition research)。「SLA研究」とも呼ばれ、「『外国語はどのようなメカニズムで学習されるのか』という理論的な問いや、『外国語はどのように指導・学習したら良いのか』という実践的な問いを探求する学問」です。
今回紹介する書籍『英語学習の科学』は、SLA研究に基づく効果的な英語学習法を紹介する本。しかも11人もの研究者が著者として関わっているので、信頼性は抜群です。
単語、文法、リスニング、リーディングといったスキルごとのおすすめ学習法から、英語学習における個人差や動機づけまで、英語学習に関する問題を幅広く取り上げています。
内容は次の通り。
第1章 SLA 研究から考える英語学習の大原則
第2章 単語の学習
第3章 文法の学習
第4章 発音の学習
第5章 リスニングの学習
第6章 リーディングの学習
第7章 スピーキングの学習
第8章 ライティングの学習
第9章 英語学習と個人差
第10章 動機づけ・学習スタイル・学習ストラテジー
第11章 子どもの英語学習
第12章 留学による英語学習
終わりに―SLA研究の活用法と注意点
「子どもの英語学習」や「留学による英語学習」と題した章もあるので、自分だけでなくお子さんの英語学習について考えたい人にも参考になりそう。
気になる「あのこと」をチェック
カラーのページは全くなく、細かい文字がびっしり。章末には参考文献がずらりと並び、いかにも専門書という感じの本書ですが、Q&A形式になっているため、内容的には割ととっつきやすくスラスラ読めます。
まず、「第1章 SLA研究から考える英語学習の大原則」は読んだ方がよさそうですが、あとは自分が気になるところをチェックしてみましょう。
私が特に気になったのはこちら。「第7章 スピーキングの学習」の2つ目の質問です。
「インプットだけで話せるようになる」というのは本当ですか?
某プロゴルファーの方がCMに出ていた、あの英語教材が浮かんだ方も多いのでは?確かに、聞き流すだけでペラペラ英語が話せるようになれば最高なんですが・・・。
本書では、次のようにバッサリ。
インプット(input;聞いたり読んだりすること)だけでは不十分です。英語が話せるようになるには、アウトプット(output;話したり書いたりすること)が欠かせません。
言語習得にもさまざまな理論がありますが、インプットが不要だという説はひとつもないそう。ただ、やはりアウトプットなしでは話せるようにはならないそうです。
一例として取り上げられているのが、カナダでのフランス語によるイマージョン教育。
イマージョン教育とは、「外国語で歴史や理科などの教科を学ぶプログラム」のことです。
長年に渡りフランス語でイマージョン教育を受けてきた生徒を対象に、フランス語のスキルを調査したところ、リスニングやリーディングは母語話者並みでしたが、スピーキングやライティングのスキルはかなり劣っていたとのこと。
もしも、インプットだけで話せるようになるのであれば、イマージョン教育でフランス語が話せるようになるはずですが、そうはいかなかったのです。
「まあそうだよね」と納得する一方、ちょっと残念な気もしますが、「ではどうすれば話せるようになるのか」を教えてくれるのが本書のいいところ。
チャンクという「短い表現のまとまり」をたくさん身に付けるのが有効なこと、また、そのためにはどんなトレーニングをすればいいかが分かります。
さらに、「音読はスピーキング学習に効果的ですか?」「会話練習は、英語の母語話者とのみ行ったほうが良いですか?」といった気になる質問も。
スピーキング力を磨きたい人なら、ぜひチェックしておきたい情報がいっぱいです。
もうひとつ気になったのがこちら。「第6章 リーディングの学習」の2つ目の質問。
1文ずつ訳してしまうような読み方はダメでしょうか?
私の場合、TOEICの長文問題がこんな感じです。つい一文ずつ頭の中で訳してしまうため読むのに時間がかかり、全文を読み終わったときには「で、なんでしたっけ?」という状態に・・・。
これについて本書では、「何をどこまで理解するかはリーディングの目的によって変わる」としながらも、最終的に次のようにまとめています。
単語の意味や構文解釈といった枝葉末節にとらわれすぎると、全体像を見逃してしまう可能性が高まります。同様に、内容理解問題(特に、テキストの詳細情報に関するもの)に答えるという目的で読むことも、一貫した理解を妨げるようです。
私の場合はまさにこれ。一文一文を追うことで、全体像が掴みにくくなっています。
単語の意味や構文解釈という目的以外では、やみくもに訳すのは避けたほうが良いでしょう。内容理解が目的であれば、書き手が伝えたいメッセージに関心を向け、その話を誰かに伝えられるようなわかりやすい訳を心がけましょう。
TOEICの場合は、英文を和訳するわけではありませんが、「書き手が伝えたいメッセージに関心を向ける」というのは大切なポイントですね。
ビジネス文書でも、「会員期限が切れるから更新してほしい」とか「経験豊富でやる気のある人材を採用したい」とか、何かしら書き手のメッセージがあるはず。
その全体像を把握していれば、「英文のどのあたりに何が書いてあるか」というのもおのずと分かってくるはずです。
その点を意識しながらリーディング練習をすると、TOEICのスコアも上がりそう。やってみます!
まとめ
SLAに基づき、英語学習に関する最新情報を網羅している本書。英語学習に関する最新の情報が分かるだけではなく、学習におすすめの書籍やアプリ、Webサイトも紹介されているので実践的です。
また、巻末では11人の著者のプロフィールが、お気に入りの英語学習法とともに公開されていました。
シャドーイングや音読、多聴・多読などオーソドックスなものから、「海外の有名人ツイートを読むこと」まで、人それぞれ。
中には、「山中湖での英語合宿」という方もいました。この場合、やはり山中湖がポイントなんでしょうかね?
ともあれ、専門家と呼ばれる人たちも、それぞれやり方を模索しながら、日々勉強して英語を身に付けてきたんだなあと思うと、自分も頑張らねばと思いました。
自分の目的に適った英語学習法を探している人はもちろん、英語を教える人、お子さんに英語を学ばせたい保護者にも、ぜひ手に取ってほしい1冊です。
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