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『これからの英単語』の刊行記念トークショー【スティーヴ・マックルーア×ピーター・バラカン】

これからの英単語

スティーヴ・マックルーア氏とピーター・バラカン氏の『これからの英単語』刊行記念トークのハイライト版をお送りします。激動の時代を英単語から読み解く2人のトークをお楽しみください!

『これからの英単語』の刊行記念イベント!

皆さんは、「doomscroll」という英単語を目にしたことはありますか?SNSが普及した時代特有の言葉です。

doom」は「(避けがたい)運命」を意味する単語で、「scroll」は「(スマホなどの電子機器を)スクロールする」という意味。そしてこの2語をかけ合わせた造語である「doomscroll」は、「オンラインで悪い情報ばかりを探して読む」という意味の単語になります。

例えば、陰謀論を信じてしまった人などは、自らの思い込みを補強してくれるような(誤った)情報を、信憑性に欠けるWEBサイトなどを通じて積極的に探してしまう傾向にあると指摘されます。このような一種のインターネット中毒状態を指して、現代では「doomscroll」という言葉が使用されるのですね。

ところで、「doomscroll」のような新しい言葉やスラングは、ほとんど辞書には載っていませんし、仮に載っていたとしても、辞書の意味とは異なるニュアンスで使われる単語も少なくありません。

『これからの英単語』の著者スティーヴ・マックルーア氏は、オンライン上ではもちろんのこと、近年では新聞や雑誌など、旧メディアでも新しい英単語が登場する機会が多くなっている印象があると述べます。

今回は、「パンデミック」「SDGs」「気候変動」「AI」「投資」「ジェンダー」などのカテゴリーから、激動の時代を読み解く最新キーワードを集めた『これからの英単語』刊行記念イベントの模様をレポートしてお届けします。著者のスティーヴ・マックルーア氏とブロードキャスターやラジオDJとして著名なピーター・バラカン氏のトークショーの内容をぜひお楽しみください。

※ハイライト版です。トークショ―の全文は以下で読めます。

「elephant in the room」ってどんな意味?

イベントの冒頭、スティーヴ氏が『これからの英単語』のキーワードの中から、現代を特によく反映している言葉として、まずピックアップしたのは「infodemic」。

例えば「Suffering from an infodemic」のように使われるこの単語は、英語の新聞やニュースサイトをチェックする人にとっては、よく見かける言葉の一つになっていると思います。

広範囲でまん延する深刻な感染病の大流行を意味する「pandemic」のように、無数の「情報=infomation」が伝染病のように広がり、社会の混乱を招いている状況を指す言葉です。

メリアム=ウェブスター辞典によれば、「infodemic」は2003年にワシントンポスト紙で初めて使用された造語だそうですが、スティーヴ氏はこの言葉について以下のようにコメントしています。

「例えば、毎日のようにワクチンが良いとか悪いとか、マスコミはCovid-19に関連するさまざまな情報を流しますが、私のように古い頭を持つ人間にとっては混乱してしまいますね。英語が使える人は知っている表現かと思いますが、TMI(Too Much Information)という言い回しがあって、まさにこれが現代社会の状況なのだと思います」

最近では、Covid-19のパンデミックの影響で、聞く機会が増えた言葉です。日本においても、SNS上でTVなどのマスメディアで流される情報とは、全く逆の意見が拡散されているのを目にすることも珍しくなくなりました。「infodemic」は、そんなソーシャルメディア時代の情報の混乱をよく表している単語ですね。

一方、ピーター氏が最初にピックアップしたフレーズは「elephant in the room」。こちらは昔からある表現ですが、最近になって使われることが増えたそうです。

「部屋の中にいる象のように大きな動物を見過ごすはずはないのに、それでも部屋にいる人々は象などいないかのようにあえて振る舞う」状況をイメージしてみてください。

「elephant in the room」は、そんな「否認」を表現するフレーズで、意味をわかりやすく直すと「誰もが気づいているが誰も話題にしたがらない大きな問題」といった意味です。「部屋の中に象がいる」というちょっとシュールなイメージが印象的で、わかりやすくていいですね。

ネイティブも頭を悩ませる現代の新しい英単語

インターネットの爆発的な普及によって、近年はオンライン上で使用される新しい語彙が増加傾向にある指摘する両氏。「最近は、ネイティブスピーカーの私ですら意味がわからない新しい英単語が出てきていますから・・・」と漏らすスティーヴ氏を見ていると、英単語学習への悩みはネイティブであっても抱くものなのだなということが伝わってきます。

ピーター氏も『これからの英単語』を初めて読んだとき、半分ぐらいの単語に「あれ?知らねーよ、こんなの」と思ったそうです。

そんなネイティブも頭を悩ませる現代の新しい英単語のなかでも、SNS由来の頭文字語(複数の単語の頭文字をつなげた造語)はその筆頭。皆さんは「FOMO」という言葉の意味が分かりますか?

Fear of missing out」の略語で、「取り残されることへの不安」を意味するこの言葉は、作家のパトリック・J・マクギニスが造語し2004年に広まった言葉だといわれています。SNSなどで友人たちの楽しそうな投稿を見ているうちに、自身が取り残されているような不安や焦りに陥る感覚のことを指す言葉です。スティーヴ氏は、急増するSNS由来の単語について、次のように指摘しています。

「『FOMO』のような頭文字語は、最近特にオンライン上で増加しています。ただ、普通の会話ではあまり使わないですね。〔……〕こういう言葉は、アンダーグラウンド、サブカルチャー、オンライン、SNSで使われ始めて、その後、ニューヨークタイムズなどのメインストリームのメディアでも使われる表現になる場合が多いです」

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ソフトウェアの「予測変換機能」の進化が生んだ新語

スティーヴ氏の指摘のように、新しい英単語はサブカルチャーやSNSに由来し、その後に一般へと広まっていくのが通常ですが、もっと意外な理由で生まれた言葉もあります。

ソフトウェアの「予測変換機能」の進化がきっかけとなり生まれた言葉が「autofail」。スペルミスをした際、オートコレクト(自動校正)機能で自動修正が行われたのはいいものの、意図した単語とスペルの似た別の(ばかげた、あるいは不快な)単語に修正してしまう現象を指す言葉です。「autofill(自動入力)」との掛け言葉になっていることに気がつきましたか?

例えば、「chi」まで入力するとコンピューターが自動的に「children」と補完してくれることがありますが、それが間違っていることに気づかずに、Enterを押して誤変換となってしまうのが「autofail」です。

「『chicken』と書こうとして、候補に出た『children』を選択してしまう。そうすると『I want to eat chicken tonight.』が『I want to eat children tonight.』になる」

ほのぼのとした日常の1シーンが、まるでゴヤの名画『我が子を食らうサトゥルヌス』のようなグロテスクなイメージに一変してしまいましたね。こんな笑える「autofail」なら良いですが、大事な取引先とのメールでの「autofail」なら致命傷。テクノロジーを信頼しすぎずに、メールを送信する前にきちんと読み直すことが肝心だということを思い出させてくれる言葉です。

和製英語にご注意を!

ここまでは英語圏で近年登場してきた言葉を見てきたわけですが、言葉が移り変わっていく現象はどの言語でも共通。日本語でも「バズる」「リムる」「ぴえん」などなど、SNS由来の若者言葉はどんどん一般的になってきています。しかし、気をつけないといけないのは、一見すると、英語由来のように見える言葉も、じつは和製英語だったりすることが少なくないことです。

SNS上での「友達解除」を意味する「リムる」という言葉は、英語では「remove」ではなく「unfriended」ですし、「バズる」も日本語に近い意味で翻訳するなら「go viral」と言います。

「当たり前だけど、和製英語は英語ではありません。私の故郷のバンクーバーに料理が上手な友達がいますが、ある時、日本人の友達が彼に『You’re almighty of cooking』と言って『どういう意味だ?』となりました。『almighty』をそういうふうに使うのは和製英語ですね。だいたい意味はわかるけど、英語では使いませんので、和製英語には気をつけてください」

しかし、英語学習者に向けたメッセージとしてスティーヴ氏は次のように続けています。

「でも、みなさんに1つ大事なアドバイスをしたいと思います。『mistakes are your best teachers』、失敗こそ最良の教師です。自信を持って、間違いを恐れなければ、力がつきますよ。会話は試験じゃない。会話は心と心のコミュニケーションです。これが一番大事なことです」

新しい英単語が次々と生まれてきている現代の英語環境に追い付くことは簡単なことではないですが、スティーヴ氏が言うように「失敗こそ最良の教師」。「これからの英単語」を積極的に身に付けて、同時代の英語文化を楽しんでいきましょう。

イベントに登場した「これからの英単語」をフレーズで覚えよう!

・doomscroll

I’m worried about Valerie. When she went into lockdown because of the pandemic, she spent all her time doomscrolling, and now she believes the most extreme, craziest conspiracy theories about how the world is going to end soon.

ヴァレリーのことが心配なの。パンデミックでロックダウンになった時、 彼女ドゥームスクロールしっぱなしで、今じゃ世界の終わりが近づいてるっていうすごく極端で常軌を逸した陰謀論を信じきってる。

・infodemic

As people around the globe struggle with the impacts of the COVID-19 pandemic, we are also coping with a parallel infodemic.” (TechStream at brookings.edu)

世界中の人々がCOVID-19 大流行の衝撃に立ち向かう中、私たちは同時にインフォデミックにも対処しているのだ。

・elephant in the room

No one wanted to mention the elephant in the room: Nancy’s very obvious pregnant state.

誰もその不問の大問題に触れたがらなかった。つまりナンシーが明らかに妊娠しているということに。

・FOMO

I want to stay home and go to bed early, but I also have serious FOMO.

家にいて早く寝たいけど、深刻な取り残されることへの不安もある。

・autofail

“‘Happy birthday to my beautiful great-granddaughter,’ the message read. ‘See you soon. Love, Great Grandmaster Flash.’ Great Grandmaster Flash?! It was the PG version of what’s come to be known as the autofail.” (New York Times)

「かわいいひ孫娘へ。お誕生日おめでとう。またね。愛を込めて。Great Grandmaster Flash」とメッセージに書かれてたの。グレート・グランドマスター・フラッシュ(有名なラッパーの名前)だって!?それは、いわゆるオートフェイルのPG(保護者の指導が必要)版ってやつだったわけ。

ニュースや会話で使用頻度が激増中の「これからの英単語」を学ぶなら!

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ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部

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