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Thanksのsってなんだ?映画のセリフで読み解く、気持ちを「花束」にして贈る表現

Thanksのsってなんだ?映画のセリフで読み解く、気持ちを「花束」にして贈る表現

教科書では目にしない「ちょっと奇妙な英語」にこそ、言語や文化をより深く学ぶためのヒントが隠れています。さまざまな映画やドラマ作品のセリフを通して、英語のからくりや背景にある文化を探っていきましょう。

英語の「ありがとう」

英語で感謝を表すにはThank you.やThanks.がよく使われます。ところで、thanksの「s」は、いったい何かご存じでしょうか?今回はこの「s」の正体をひも解きながら、気持ちを伝える英語表現や、時代と共に変化する英語の一面をご紹介します。

「s」は気持ちの「多さ」

辞書でthankを調べれば、動詞としての「~に感謝する」という意味と、名詞としての「感謝の言葉/気持ち」という意味が載っています。このうち、Thank you.では動詞が、Thanks.では名詞が使われています。つまり、Thanks.の「s」は抽象名詞thankを複数形にすることで、花束を贈るかのごとく、たくさんの「ありがとう」の言葉や気持ちを伝えているのです。そのため、Thanks.をさらに強調する際には、Many/A thousand thanks.やThanks  a lot/a million.など、数の多さを表す表現が添えられます。

「おめでとう」の気持ちも花束で

Congratulations.(おめでとう)も、「s」が祝福の気持ちの多さを伝えます。日本のクイズ番組などでは単数形の「コングラチュレイション!」を耳にしますが、正確にはきちんと「s」まで言うようにしましょう。複数形の重要性は、短縮形のCongrats.でも「s」が現れる点からも分かります。

Karofsky : Congrats on the MVP.

カロフスキー:MVPおめでとう。

Finn : Oh, thanks. It was a team effort.

フィン:ありがとう。チームのおかげさ。(「glee/グリー」シーズン2第11話より)*1

「型」を覚えて気持ちを伝えよう  

複数形で気持ちの「多さ」を示す表現には、apologies「謝罪」、condolences「お悔やみ」、greetings「あいさつ」、sympathies「同情」、regards「よろしく」、wishes「祈り」などもあります。ではここで、これらの気持ちを伝える便利な表現パターンをご紹介しましょう。

まず最も簡単なのは、シンプルに上記の単語のみを告げる、または、2語で「my/our【気持ち】」の型にする方法です。名詞だけでも、さまざまな気持ちを相手に伝えることができるのです。

Congratulations, Your Majesty, and my deepest condolences.

おめでとうございます、陛下、そして心からお悔やみを。(『ジュピター』より)*2

Greetings. I am Buzz Lightyear.

ごきげんよう。俺はバズ・ライトイヤーだ。(『トイ・ストーリー』より)*3

My apologies, Governor Swann.

申し訳ない、スワン総督。(『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』より)*4

また、「A owe B【気持ち】」や「B have A’s【気持ち】」の形にすれば、仮に気持ちを伝える相手のBさんが目の前にいなくても、その人への思いを表すことが可能です。

I do owe you thanks, Jack.

君に感謝する、ジャック。(『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』より)*5

They have my sympathies.

彼らに私は同情します。(『エリン・ブロコビッチ』より)*6

さらに、第3者が気持ちの中継役に入る場合は、giveやsendpass alongなど「渡す」系の動詞を置くことが多いです。

Give my regards to Dr. Mann.

マン博士によろしく。(『インターステラー』より)*7

Please pass along our best wishes.

くれぐれもお大事にと伝えて。(「ブレイキング・バッド」シーズン2第2話より)*8

Mr. O’Neill sends his regrets.

オニールが残念だと言ってます。(「倒壊する巨塔」第2話より)*9

最後に、フォーマルで丁寧な言い方には、acceptofferを使う形があります。

Please accept my sincerest apologies.

心からお詫びします。(「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン2第2話より)*10

May I offer my deepest sympathies.

心からお悔やみを申し上げます。(『300スリーハンドレッド 帝国の進撃』より)*11

迷走するthanks:複数か単数か 

thanksは名詞の複数形だと述べてきました。しかし、昔からthanksは(英語の非母語話者も含め)非常に多くの人が日常的に使う表現なので、徐々に元の姿が意識されなくなり、奇妙な使用例も現れています。次の例をご覧ください。

(1) I believe thanks are in order.

礼を言うのが筋だろうな。(『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』より)

(2) We owe you guys a huge thanks.

皆さんに本当に感謝します。(『カリフォルニア・ダウン』より)*12

(1)のthanksは、areが後続する点からも複数扱いだとわかりますが、(2)のthanksには冠詞のaが付いており、少なくともこの話者は単数扱いをしています。thanksの成り立ちからすれば単数扱いはおかしいのですが、もはやThanks.は(名詞の複数形というよりも)独立した表現と思われ始めたのか、単数・複数の扱いにしばしばブレが見られます。

迷走するthanks:名詞か動詞か 

次の例でも奇妙な現象が見られます。本来は名詞を修飾しない副詞的要素のawfullyやvery muchがThanks.に付いており、特に(2)ではThanks very much.とThanks a bunch.が同一人物から発せられています。

(1) Hastings : I can bring the rest.

ヘイスティングス:残りは私が運ぼう。

Bill : Oh, thanks awfully. 

ビル:ありがとうございます。(「名探偵ポワロ」シーズン13第5話より)*13

(2) Landlady : I rent that place as a guest house. Anas has been staying there awhile.

大家:あの部屋を貸してるの。アナスは長期滞在よ。

Chief Inspector : Thanks very much. 

主任警部:ありがとう。

Anas : Come in. You are welcome. 

アナス:どうぞ、入って。

Chief Inspector : Oh, thanks a bunch. Don’t mind if I do.

主任警部:ありがとう。お邪魔するよ。(「倒壊する巨塔」第3話より)

今では辞書にも載っているThanks very much/awfully.ですが、なぜ名詞への副詞の修飾が許されるのでしょうか。この理由には、動詞用法のThank you.と名詞用法のThanks.が混同されたことが考えられます。つまり、Thank you very much.はそもそも文法的に問題がないため、それが徐々に波及してThanks.でもvery muchが使われ始め、時が経ち、今では自然な表現として定着したということです。

ですので、一見不自然に思える表現ですが、ここでは文法などの理屈は抜きで、ひとつの慣用的表現として捉えたほうがよさそうです。

まとめ

今回は映画のセリフを使って、気持ちの多さを伝える英語表現をご紹介しました。また、Thanks.という非常に身近な表現からも、時代と共に新しい使用法を生み出すコトバの柔軟さにも触れました。常に変化し続けるのは日本語も同じです。何気なく使っている表現も、その由来を調べてみると思わぬ新発見があるかもしれませんよ。

*1:アメリカの人気テレビドラマシリーズで、高校の合唱部を中心に描かれるミュージックコメディ。

*2:ラナ&アンディ・ウォシャウスキーが監督と脚本を務めた、2015年のSFアクション映画。

*3:ピクサー・アニメーション・スタジオによる、1995年公開のフルCGアニメーション作品。

*4:世界各国のディズニーパークにある人気アトラクションのひとつ「カリブの海賊」をモチーフにした映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの第1作目。

*5:前述『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの第2作目。

*6:2000年製作のアメリカ映画。ジュリア・ロバーツは本作で第73回アカデミー賞主演女優賞を受賞した。

*7:クリストファー・ノーラン監督による2014年のSF映画

*8:2014年度エミー賞作品賞ほか数々のアワードを受賞したアメリカのテレビドラマシリーズ。

*9:ローレンス・ライトによる小説「倒壊する巨塔」に基づいたテレビドラマシリーズ。

*10:ファンタジー小説シリーズ「氷と炎の歌」を原作としたテレビドラマシリーズ。

*11:ノーム・ムーロ監督による2014年のファンタジーアクション映画。2007年の映画「300 〈スリーハンドレッド〉」の続編にあたる。

*12:2015年公開、カリフォルニアを突如襲う大地震を描くパニック映画。

*13:アガサ・クリスティーの名作ミステリーをドラマ化した人気テレビドラマシリーズ。

飯田泰弘

飯田泰弘(いいだやすひろ)岐阜大学教育学部助教。趣味である映画鑑賞と、中学校から大学までの教員経験を活かし、映像メディアを活用した英語学習や英語教育を考え、発信している。とりわけ、一般の英語学習書には出てこない実例採取が大好き。言語文化学博士(大阪大学)。専門は英語学(統語論)。