Foyles、Daunt Books、Round Table Books・・・落ち着いたら行きたい!ロンドンの本屋さん巡り

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

映画『チャーリング・クロス街84番地』の舞台

ロンドン中心部、ソーホー地区にある道「チャーリング・クロス・ロード」は古くから書店街として知られている。ロンドンに来たばかりの頃、中心部をふらふらと探索しているときに偶然この道にたどり着いた。

そして街の様相から「ここって、映画『チャーリング・クロス街84番地』(1987)の舞台になった道!?」と気付いて感激したのをよく覚えている。映画は1949年から約20年間、この地にある古書店員とNY在住の作家との古書を巡る文通を描いたものだが、映画とそう変わらぬ街のたたずまいが2000年代初頭にも残っていたのだ。

小さな間口の古書店が軒を連ね、その間に大きめの新刊書店がどしりと鎮座する。東京、神保町の書店街と比較すると規模はずっと小さいが、古書店に入ってドアを開けるとふわりと香る古い紙の匂いは、日本のそれと同じだった。

何げなく入った大きな新刊書店「Foyles」は すぐに お気に入りの場所となった。まだ当時珍しかったカフェ併設の書店であり、いかにも本好きがたむろする雰囲気がいい。以来その場所で何度待ち合わせをしただろうか?

ロンドン、ブリクストンにある「Round Table Books」はBAME(黒人・アジア系・少数民族)の児童書に特化した書店。

子どもの頃から「本好き」のイギリス人

イギリスに住んでいると「書籍文化が生きている」と感じることが多いが、私が最もそのことを実感するのは電車の中だ。現在はスマホ族の方が多いものの、紙の本を読んでいる人もまだまだ多いのだ。

本一冊だけを手に持ち、あとは手ぶらで乗車してくる人も多い。座席に深々と座ると「至福の時間の始まり」とばかりに本を広げる。電子書籍リーダーも日本よりイギリスの方が早く普及した。車内でスマホやタブレットを眺めている人のうち、実は書籍アプリで読書中の人もたくさんいるはずだ。

何げない会話でも本の話題は多く、友人宅に行くと床が抜けそうなぐらいぎっしり詰まった本棚もよく見掛ける。「このイギリス人の本好き気質はどこから来るのだろう?」と思っていたが、小さな子どもを持つ友人から「イギリスの小学校では、徹底的に本を読ませる教育をしている」と聞いて納得した。

「学校によって違いはあるけど、うちの子の学校では週に1冊レベルで読書課題が出るの。だからもうドンドコ読まなきゃならない。あれだけ読ませれば本好きにもなるわよ。毎晩『早く本閉じて寝なさい!』って言うのに苦労している」と笑いながら語っていた。

確かに、書店に行くと児童書コーナーにぺたりと座り込み、本に没頭している子どもたちをよく見掛ける。こうやって次世代の「本の虫」が育っていくのだろう。いつ見ても愛らしく、そしてうれしい光景だ。

相次ぐ小規模書店の閉店

こんなふうに読書文化は健在なのだが、実店舗を持つ書店は長年苦戦を強いられている。90年代後半から大型チェーン系書店の台頭により、小規模書店の閉店が相次いだ。

そしてこの10年は電子書籍も含めたオンラインでの書籍購入の定着により、チェーン系も店舗数を減らしていった。それに加え、再販制度がないことも小規模書店を苦しめている。イギリスでは、新刊本の販売価格を各店舗が決めてよいのだ。となると、小さな書店は大量に仕入れる大型店にかなわなくなってしまう。

例えば「ハリー・ポッター」のような大ヒット確実の新刊本は大手スーパーでも販売する。ハリポタ目的でスーパーにやって来た人は、必ずほかの物も購入する。これを見越して、「客寄せパンダ」としてスーパーでは限界額、時には仕入れ値以下で書籍を販売することもある。いくらの値段で買っても装丁・中身は同じ本。これでは小規模書店に分が悪過ぎる。こうした状況が続き、街の本屋さんがどんどん減っていった。

「Daunt Books」ロンドン、メリルボーン店は古い図書館のような雰囲気で「世界で最も美しい書店」にも選出。

ところがここに来て状況が少し変化している。1995年にはイギリスとアイルランドを合計して1894店舗あった独立系書店はその後減少の一途をたどり、2017年には868店舗にまで落ち込んだ。しかし2018年から少しずつ増加しているのだ。

コロナ禍の2020年にも開店が続き、なんと967店舗にまで回復している(Booksellers Association 調べ)。これは専門性を強く打ち出した特徴のある書店が増えていること、そしてコロナ禍以降、小規模書店でもオンライン販売できるプラットホームが整ったことが挙げられる。

また、政府の休職補償があったため、コロナ閉店が加速しなかった。過去に潮が引くように書店が消えていった時期を経験しただけに、人々は「近所に本屋さんがあることのよさ」を二度と手放さないで済むよう、「本はできるだけ地域の書店で買う」という購買意識も根付きつつある。

一冊の本との出会いを大切に

コロナ禍で人々はこれまで以上に本を読み、2020年、書籍市場は前年比で5.5%の増収となった(The Bookseller/Nielsen BookScan 調べ)。この原稿を書いている5月初旬現在、イギリスはロックダウンの緩和が段階的に進んでおり、書店の営業も4月12日から再開した。

書店は表紙を眺め、ページをめくりながら「自分のための一冊」に出会う場所。オンラインの時代だからこそ、ネット検索では出会えないユニークな作品が充実した小規模書店が再び元気になる かもしれない 。やっと戻ってきた「本屋で過ごす時間」がいつまでも守られることを願い、次の一冊も近所の本屋で買うとしよう。

イギリスのロンドンってどんなところ?

イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。

写真:宮田華子(上)、Alexandra Kir(下)

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年8月号に掲載した記事を再編集したものです。

宮田華子(みやた はなこ) ライター/エッセイスト。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

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