還暦パーティーは無事に開催されるのか!?映画『グリード ファストファッション帝国の真実』

FILMOSCOPE【2021年6月号】

気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。

今月の1本

『グリード ファストファッション帝国の真実』(原題:Greed)をご紹介します。

※動画が見られない場合はYouTubeのページでご覧ください。

ファストファッション・ブランド「MONDA」で成功を収めた大富豪リチャード・マクリディ(スティーヴ・クーガン)は、60歳の誕生日を祝うパーティーの準備を進めていた。ところが、映画『グラディエーター』を再現した闘技場の建築は外国人労働者とこじれて作業が遅れ、場を盛り上げるためのライオンはネコのようにおとなしいなど、トラブルが続出。会場には大勢のゲストや関係者だけでなく、リチャードに複雑な思いを抱く伝記作家、リチャードの下で働き恨みを持つ女性スタッフ、中東からの難民たちなどが集い、悪趣味なまでに贅を尽くした祝宴は、果たして無事に開催されるのか―。

ファストファッション業界の裏側を暴く、ブラック・エンターテインメント

ファストファッション・ブランド「MONDA」で巨万の富を築いたリチャード・マクリディは、成功を誇示するために壮大なイベントを開くことにした。エーゲ海に浮かぶミコノス島に、映画『グラディエーター』(2000)そっくりの闘技場を作って自らの60歳の誕生日を祝おうというのだ。大勢のスタッフが雇われて急ピッチで設営が進む会場。しかし彼をひそかに軽蔑する伝記作家や、「MONDA」に恨みを抱く女性スタッフ、そしてミコノス島にやって来ていた中東からの難民たちが、パーティーを予想外の方向へと導いていく……。

マイケル・ウィンターボトム監督とスティーヴ・クーガンが7度目のタッグを組んだ『グリード ファストファッション帝国の真実』は、「Greed(強欲)」という原題に明らかなとおり、金の亡者を描いたブラック・コメディーである。主人公リチャードはファッション業界に身を置きながら、コストを抑えて大量の商品を売ることにしか興味を持っていない男。そんな人物が、美を扱う世界で成功などできるのだろうか?―答えはイエス。なぜならリチャードは、実在の人気ブランド「TOPSHOP」のオーナーだったフィリップ・グリーンがモデルだからだ。

「TOPSHOP」は昨年に経営破綻しているのだが、主な原因は新型コロナウイルスであって、彼の姿勢が問題視されたからではない。それを証明するかのように、劇中で脱税を疑われて司法の場に呼ばれたリチャードは「なぜほかのブランドも非難しないのか」と開き直ってみせる。「MONDA」の工場が置かれたスリランカの労働条件は過酷ではあるものの、ほかのブランドが主要工場を置くバングラデシュやミャンマーよりはマシだからだ。リチャードは目立ちたがり屋であるが故にたたかれたにすぎず、より狡猾な企業は目立たぬようにもっとスケールが大きい悪事を働いているというわけだ。しかもそれは現在進行形の出来事なのである。笑いながらも背筋がひやっとさせられるコメディー映画だ。

『グリード ファストファッション帝国の真実』(原題:Greed

『グリード ファストファッション帝国の真実』

(C)2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
Cast & Staff

監督・脚本:マイケル・ウィンターボトム/出演:スティーヴ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソンほか/6月18日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー/配給:ツイン

greed-japan.com

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年6月号に掲載した記事を再編集したものです。

長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう)ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。