外資系企業が求めているのはどんな人材なのでしょう。GE、モルガン・スタンレーなどの外資系企業に人事部長として25年在籍し、1万人以上を面接した経験をもつ鈴木美加子さんが、部署ごとに変わってくる、外資系企業で求められる英語力を教えます。
「英語ペラペラ」は必須という都市伝説
外資系企業にまつわる都市伝説の一つに、「英語がペラペラでないと入社できない」というものがあります。現実は、高い英語力が求められる部署や職種もあれば、最初はあまり必要とされないケースも存在します。本日は、外資系で求められる英語力の目安をテーマにします。
15年前くらいまでは、外資系企業で求められる英語力を説明するのは簡単でした。ほとんどの場合が、役職の上下で決まっていたからです。昔は上級職になると海外本社や外国人と接する機会が増えるので、おのずと高い英語力が必要でした。
時は流れ、現代は状況がもっと複雑になった時代です。どの程度の英語力が必要かについては、実際に職場で外国人と接する かどうか 、グローバルに仕事をしている かどうか が鍵になります。
例えば、法務部の No .2である法務部長であっても、仕事で英語を使うことはほとんどないということはあります。一方、技術部の若手エンジニアであっても、人手が足りず海外と連携して進めるプロジェクトのメンバーに任命されれば、頻繁に英語に触れることになります。役職はスタッフであっても、日々のE-mailのやり取り、毎週の定例ビデオ会議などで、英語は必須です。
面接はクリアしたものの・・・
実際に職場で英語を使うかの かどうか 、どのくらい外国人と一緒に仕事をするのかは、面接の過程でぜひ確認しておきたい項目です。
これは面接の際に、日々の仕事でどのくらい英語を使うのかを質問せずに、外資系企業に入社してしまったある女性の話です。この方はTOEIC 850点の高得点ですが、ずっと日本で英語を勉強してきたので、会話力は点数ほど高くありません。この時は、なぜだか英語面接ではなかったので、すんなりと入社できてしまいましたが、その後に大変なことになりました。
週1でアジア地域を中心とした海外との英語での会議があり、彼女は発言しないことも可能なのですが、議事録を書く仕事を任されてしまったのです。
アジア各国からの参加者の英語の訛りに慣れていないこともあり、また英語力が少し足りないこともあって、議事録を取らないといけないのに、会議の内容が聞き取れないという事態に陥りました。
毎週のことなので負担は大きいですし、会議が終わった後で参加者に聞いて回り情報収集をするにしても、 同僚 の時間を無駄にしていることを情けなく感じていました。彼女は結局、半年後に転職することになりました。理由は「自分の英語ではついていけない」です。
実際に職場でどのくらい英語を使うのかを、前もって面接で確認しておくことが非常に大切だということがわかります。それではここからは、各部署・役職で必要とされている英語力の目安について解説していきます。
部署ごとに要求される英語力をチェック
日本のビジネス界ではTOEICが主流なので、そのスコアを使って説明します。
Staff | Manager | Director | |
---|---|---|---|
a)マーケティング、人事 | 750 - 800 | 800 - 850 | 900 |
b)その他の多くの部署 | 600 | 800 | 900 |
c)営業、技術、社内IT | 500 | 650 - 700 | 800 |
d)工場・物流の現場 | 不要 | ※ *1 |
1.マーケティング、人事
マーケティング、人事の2部署は、社内で求められる英語力が最も高い部署です。スタッフでTOEIC 750-800点、マネジャーでTOEIC 800-850点、本部長でTOEIC 900点くらいは必要でしょう。
まずマーケティングですが、数字で測れる売り上げに貢献している部署ですが、 同時に 広告など感性に関する会話が多い部署でもあります。「キービジュアルが何となくピンと来ない」など、ゼロイチで割り切れないことを言葉で表現する必要があります。またロゴやフォントなどは、本社からのグローバルな制約が 厳しい 部署でもあり、本社に掛け合って交渉することもあります。英語力はかなり必要です。
次に人事。こちらは「人」を扱っているので、「精神的にダウンしたマネジャーについて本社に報告しておこう」「ある社員が結構な時間をネットサーフィンに費やしていると垂れ込みがあったが、どう調査するか」など、複雑な状況を英語で説明することが多いので、英語力はかなり必要です。
この仕事に高い英語力は必要なのだろうかと迷ったら、「ゼロイチで割り切れるか」「数字でだいたい説明がつくか」と考るのがわかりやすいです。答えが NO で、いろいろ「言葉」で説明しないと成り立たない仕事なのであれば、高い英語力が求められます。
2. その他の多くの部署
多くの部署で、スタッフの場合TOEIC 600点、マネジャーでTOEIC 800点、本部長でTOEIC 900点くらいの英語力が必要とされます。
日本人のTOEIC平均点は2019年のデータで、523点です。しばらく英語に触れていないと、最初TOEICのスコアは伸びないかもしれませんが、中学英語を学んでいれば、TOEIC 600点をとるのはそれほど難しくありません。忘れていた英語を思い出せば良いからです。TOEIC 800点をとるには、読む・書く・話す・聞くの4要素の実力を少しつけることになりますが、目標を立てて努力すれば実現可能です。
私はTOEICを受けた時点では、帰国子女でも海外駐在組でもありませんでしたが、960点は取れました。もちろんこれは自慢ではなくて、日本にいてもTOEIC 900点超えは可能だということをお伝えしたいのです。
同じような背景でTOEIC 900点を超えている人はいるかと聞かれれば、10人くらいは簡単に 同僚 や部下などの知り合いを思い浮かべることができます。
3.営業・技術・社内IT
営業・技術・社内ITの3部署の場合、スタッフでTOEIC 500点、マネジャーでTOEIC 650-700点、本部長でTOEIC 800点くらいが求められます。
まず営業ですが、上記のスコアは顧客が日本人であることを想定しています。外国人向けのセールス、国外営業は上記のスコアでは勿論足りません。お客様が日本人の時、会話は日本語で行われるので、そこまで高い英語力は必要ありません。とはいえ、社内で回ってくる英語のE-mailを読む機会もあるので、全く英語ができないとなると採用されません。
役職があがると、他部署にいる外国人の管理職と仕事で関わることも出てくるので、少しづつ高い英語力が必要になります。本部長でもTOEIC 800点でよいのは、営業のトップに就く方は「コミュニケーション力」がもともと高い人材が多く、度胸で乗り切ったり、愛嬌で何とかしたりできるからです。
技術部門、SEやプログラマーは本来ゼロイチの世界で生きており、フィーリングが大事な語学を苦手とする場合も多いです。私はIT企業の人事部門に2回在籍したことがありますが、英語ができる日本人エンジニアを探せなくて苦労した経験があります。裏を返せば、英語ができる日本人エンジニアは、年収を劇的に上げることができる職種 No .1です。
例えば、日本法人とシリコンバレーの本社とのあいだで密な連絡が必要になったため、日本人エンジニアで英語ができる人材が欲しいという採用リクエストが出ました。顧客は国内の日本企業なので、日本語が母国語の人が望ましいけれど、アメリカ本社の直轄なので、頻繁にE-mailを書いたり、ビデオ会議に出ることになり、英語も必須というわけです。
技術スキル的に問題がない日本人エンジニアはいましたが、分野がニッチだったこともあり、その上で英語ができる人材は皆無。最終的に、日本語でのコミュニケーションは周囲の日本人がカバーすることになり、国籍は問わないので英語ができるエンジニアに採用リクエストが変わり、モロッコ人を採用することになりました。
4. 工場・物流の現場
工場が国内にある場合、ラインの組み立てスタッフには英語力は必要ありませんが、それでもリーダーになった途端、使っている機器のマニュアルを読んでスタッフに説明する場面が出てきます。
AI翻訳の進化で、リーダーでも英語が必要のない時代が来るかもしれませんが、現時点ではマニュアルが100%日本語になっていることはないので、リーダーになったらTOEIC 500点くらいはないと務まらないと考えて良いでしょう。
今回は部署ごと、役職ごとに必要な英語力の目安について解説しました。あくまで目安なので、TOEIC 800点と書いてあっても、760点の方にもチャンスは当然あります。ペーパー上の点数より、実際に何とかできる英語での「コミュニケーション力」を企業は求めています。いつもポジティブで人の懐に入るのが得意で、人と話すことが好きなタイプなら、点数以上のコミュニケーション力を発揮できます。表の中の「目安」にとらわれすぎず、外資系にぜひ挑戦して欲しいです。
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グローバル人材に関する連載も今日が最終回。皆さんこれまでお読みくださり、ありがとうございました。外資系企業への理解が深まり、チャレンジしてみたい方の背中を少しでも押させていただいたのであれば幸いです。それぞれのキャリアが拓けて行くことを心から願っています。
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鈴木美加子 (株)AT Globe代表取締役。 GE、モルガン・スタンレーなど外資出身の元・人事部長。外資への転職エキスパート。 TOEIC 960点・英検1級。
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