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英語への憎しみを超えるために言語を学び旅に出て人と出会う【牧村朝子さんインタビュー】

EJ新書刊行記念インタビュー『旅する文筆家!まきむぅと巡る世界の英語』

EJ新書『旅する文筆家!まきむぅと巡る世界の英語』刊行を記念して、著者の牧村朝子さんのインタビューをお届けします。この新刊は、言語をテーマにした紀行エッセイで、牧村さんが撮影した写真も多く掲載。世界中の言葉や人々と出会いに行きたくなる本です。

英語に囲まれていたけど英語が嫌だった

過去のこととして、正直に言います。英語、嫌いでした。「試験や仕事のために強制されるもの」でしかなかった。

私は神奈川の米軍基地の街に育ちました。公園で遊んでいると基地の子がいて、当たり前のように英語で話し掛けてきます。答えられないとバカにしたような顔をする子もいました。それを見て、日本の大人たちはがっかりする。「英語教育をしないと」って。ということで日本の子は英語をやらされたけど、アメリカの基地の子は日本語を話そうとしてはくれなかった

校庭の空には、朝礼が中断になるほどの轟音(ごうおん)で米軍機が飛んでいました。英語は私にとって、「押し付けられたもの」でしかなかったのです。

ギリシャ語を学んで気付いたこと

怒った私は「基地の人が話せない難しい外国語をやってやろう」と思って、中学校のときにお年玉で現代ギリシャ語の入門書を買いました。それで勉強して、在日ギリシャ人の集まりに行ったら、みんな、すごく温かく迎えてくれた。「あれも食べな、これも飲みな」って。ギリシャ語の歌を教えてくれて、一緒に歌って。

帰り道に涙が出ました。あれだけ憎いと思っていた基地の人たちと、私の目には同じに見える、「金髪に青い目の日本語を話さない人たち」と、心から笑い合えたのは初めてのことだったからです。やっと気が付きました。私、本当は仲良くなりたかったんだ、って・・・。

人間、わかり合うことなんてできないのかもしれない。それでも、少しでも、わかりたい。その気持ちを持って言葉を勉強すれば、私は、私の中の憎しみを克服できるんだ。そう思って、言葉の勉強を続けています。嫌いだった英語や、母語である日本語も含めて。

この「自分の中の憎しみに克(か)つ」という旅の過程を書いているのが、連載「Englishes!多様な英語でした。電子書籍版では、アメリカ取材を経て、横須賀とニューオーリンズがジャズという音楽を通してリンクするエピソードを書き下ろしています。

英語は今でも習得し切ったとは思っていませんが、どの言語をやるに当たっても、トロイア遺跡を発掘したシュリーマンの『古代への情熱』という本に出てくる学習法で臨んでいます。要するに「言いたいことを作文して、先生に直してもらって、毎日1時間は唱え続けて体で覚える」というもの。この本は言語学習のみならず、「この世界を知ること」への情熱をかき立ててくれるので、大好きです。まあ、シュリーマンおじさん、だいぶ話を盛っているらしいですけどね。

牧村朝子さん旅行写真

牧村朝子さん旅行写真

フランス語ができないまま渡仏

好きになった人がフランスの人で、2012年に渡仏しました。その時点で話せたフランス語は、「ボンジュール」と「メルシー」と「クロワッサン」くらい。買い出しに行っても、量り売り機の使い方が理解できず、りんご一つ自力で買えない。悔しくてたまりませんでした。

そんな私に、フランスの人たちは根気よく付き合ってくれました。義理の母はベトナムで生まれ、戦争で難民としてフランスに逃れてきた人ですが、「自分もフランス語ができなくて孤独だったんだ」とか「パパのジョークはフランス人でもよくわからないから放っておきな」とか話してくれました(笑)。村の自治会に出たときも、会議の内容がわからなくて辞書を引いていると、「待って!アサコが辞書引いてる」って話を止めて待ってくれたりとか。

たまに差別する人もいましたが、それでも、優しい人たちが差し向けてくれた愛をパスしていけるようになりたいと思いました。「外国人が日本語で話そうとしているときに遮らないで待つ」とか、「見た目で外国人だと決めつけていきなり英語を話したりしない」とかね。

牧村朝子さん旅行写真

牧村朝子さん旅行写真

創作するという夢をかなえた

書いて作って生きていくのは、子どもの頃から夢でした。

紙芝居、詩、童話、日記、ゲームシナリオ、歌詞、楽曲・・・いろいろなものを書いて作ってきましたが、頑張ってやっていたバンドを19歳で空中分解させてしまって。

その後は、楽器店でバイトをしながら正社員の道を考えたのですが、「高卒が正社員になった前例はない」と言われ、小説の新人賞も落ちまくり、月収は10万前後のギリギリ生活。夢追いフリーターとして、「遠くの星は見えるけど一寸先が見えていない」みたいな日々でした。

そんな中、住んでいたシェアハウスで、同居人だった小池みきさん(フリーライター・漫画家)が「新人賞に応募しよう」って言ってくれて。それが星海社の「ジセダイエディターズ新人賞」の受賞作品となり、2013年、26歳のときに『百合のリアル』というタイトルで星海社新書から刊行されました。

そこからその本が大学入試に採用、台湾版刊行、小学館から増補版刊行と、どんどん広く読んでいただけるようになりまして。あの頃、生活のために売り払ってしまった楽器も、原稿料で買い戻せるようになりました。だから、もっと作っていきたいです。

牧村朝子さん旅行写真

旅に出ないわけにはいかない

いつか誰かに愛してもらえるのを待っていられるほど気長ではありません。だから、会いに行きます。そりゃ、お布団に引きこもって「誰もかも何もかも憎い!」ってなってるモードの日もあります。けど、世界を知りもせずに憎んだまま死ぬより、愛しに出かけて行きたいので。

私にとっての愛ってやつは、分けずに、知ろうとし続けることです。自分のモノだと決めた場所だけじゃなくって、世界中で「ただいま」「おかえり」が言える人になることです。

『旅する文筆家!まきむぅと巡る世界の英語』の読みどころ

きっと、「ネイティブの話す英語に、非ネイティブの自分が頑張って近づかなきゃ!」みたいな、低いところから高いところを目指す焦りが抜ける本に仕上がっていると思います。世界は、高地と低地だけじゃないよね。って、読者さんと一文字一文字歩いていけるような。

この本に登場するのは、英語だけではありません。ギリシャ語、オランダ語、ドイツ語、横浜ピジン、マオリ英語、シンガポール英語、メキシコスペイン語、フランス語、ナヴァホ語、スコットランド語、ニュージーランドで人間と暮らす鳥のおしゃべりなど、本当にいろいろな言語と「出会う」感覚を味わっていただけるように作っています。

電子版刊行にあたり、外国語部分に振り仮名形式で日本語訳を付けることも考えたのですが、編集さんと相談して、おせっかいはやめました。だけど、言葉の意味するところはきっとわかりますよ。実際に言葉と出会っていく感覚を味わっていただけたらうれしいです。

牧村朝子さん旅行写真

たくさん旅行してジャズバーを開きたい

今後したいことや行きたいところ、夢はいっぱいあります。

・世界中のレズビアンバーを巡って紀行を書きたい。

・ベナン共和国で、ダホメ王国時代に存在した男装兵団Minoの歴史を追う旅がしたい。

・ラジオトーク番組「Radiotalk」に世界中からゲストをお呼びして、各地の方言や言語、それぞれの人生の物語に耳を傾けたい。そうした対談記事を配信する専門のウェブメディアを運営したい。

・自分一人でプレジャーボートを運転して船上生活を送りながら、瀬戸内海、地中海、環太平洋諸島などの島々を巡る旅行記を書きたい。

海辺の街をたくさん巡りたいです。イギリスのAlnmouthの静かな美しさ、スペイン・カナリア諸島のTenerife島の黒砂ビーチ、広島三原から島々に向かう船、長崎の島々とキリシタンの歴史。体が動く限りは世界中の海辺を巡り続けたい。世界が水でつながっていることを自分の体で感じたい。

年を取ってあまり動けなくなったら、自分が生まれた神奈川の、軍港の町・横須賀に帰ってきて、言葉の通じない同士でも音楽とお酒とおいしいご飯で一緒に過ごせる、世界中の人を迎えられるジャズバーをやりたいです。

そのお店で、どんな楽器ででもジャムセッションに入れるように、どこからお客さんが来ても対応できるように、今はドラム、ギター、ベース、中国語、台湾語、フランス語を勉強しています。アラビア語、スワヒリ語、ドイツ語、フルートもやりたい気持ちでいっぱいです。あとは、「アタシの店でケンカするたぁいい度胸だね!」って言える気合の入ったおばあさんになりたいので、体も鍛えています。

横須賀は悲しい歴史を持った軍港だからこそ、文化でつながり合える場所を作りたいです。人類が二度と戦争しなくていいように。わかり合えなくても、共にいられるように。

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牧村朝子

牧村朝子(まきむら あさこ)文筆家。著書『百合のリアル』(星海社新書、小学館より増補版、時報出版より台湾版刊行)、出演『ハートネットTV』(NHK-Eテレ)ほか。2012年渡仏、フランスやアメリカで取材を重ねる。2017年独立、現在は日本を拠点とし、執筆、メディア出演、講演を続けている。夢は「幸せそうな女の子カップルに『レズビアンって何?』って言われること」。
Twitter:@makimuuuuuu(まきむぅ)