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なぜアメリカの大学群が世界ランキングを独占するのか?

米大神経科学者の自由になる英語思考法

英会話力「ほぼゼロ」の状態から、英語を独自に猛勉強して単身渡米し、米名門大学院で神経科学の博士号を取得した、さかいとしゆきさん。自身の経験を基に、アメリカと日本の教育の違いや、英語を使って世界を広げるための方法を紹介します。第2回のテーマは「アメリカの大学教育」です。

世界ランキングを独占し続けるアメリカの大学群

世界大学ランキングでアメリカの大学がトップを独占するのを見るのがごく普通になりました。大学の順序は変われど、毎年アメリカの大学群がトップを独占することに変わりはなく、複数の世界ランキングで同様の傾向が見られます。

トップ10常連のイギリスの大学に加えて、アジアからは中国、シンガポールなどの大学が徐々に食い込んできていますが、やはり上位を独占するアメリカの大学群の多さには及びません。

では、アメリカの大学教育は何が違うのでしょうか?

世界ランキングでは、研究や指導など、様々な指標をもとに大学を評価するのが一般的です。ここで注目したいのは、アメリカの大学生のモチベーション、コミュニケーション能力、批判的考察能力、建設的に議論する能力、そして革新的でクリエイティブなアイデアを生む能力の高さです。

これらの能力を効果的に伸ばすのに理想的な環境を整えることで、アメリカの大学は非常に質の高い教育を維持しているのです。

アメリカの大学教育はここが違う

1. 「賢い」の定義が根本的に違う

アメリカの大学で勉強してみてすぐに気づいたのは、「賢い」という言葉の定義が根本的に違うということでした。

アメリカで、世界的に評価の高いさまざまな大学の学生と会ってきましたが、コミュニケーション能力に乏しい学生は非常に少なく、雄弁で論理的な議論ができる学生がとても多いです。ただ知識量が多いだけではなく、土台に自分の意見がしっかりあり、さまざまな視点から柔軟にものを考えています。

このような学生がアメリカの大学に多い理由の1つは、生徒の評価方法にあります。評価の高い大学に入るためには、標準試験で高得点を取るだけでは足りません。むしろ、標準試験の得点は数多くの評価対象の1つに過ぎません。

アメリカの高校生は、試験勉強のほかに、競うようにさまざまな課外活動、そして(病院、老人ホームなどでの)ボランティア活動に参加し、長期間専念します。いろいろな経験を積むことで社会に対する問題意識を磨き、同時に自分の意見を形成していくのです。

これらの活動を通して高いコミュニケーション能力を身に付けることもできます。多様な活動を通して得られるユニークな人生経験は、大学入学時に必要なエッセイで、「自分はほかの生徒と何が違うのか」を説明するのに非常に役立ちます。

ひとたび大学に入れば、クリティカルシンキング(批判的考察)の実践の仕方を徹底的に学びます。クリティカルシンキングは、大学において最も重要なスキルの1つだと考えられているからです。

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授業を選択してさまざまなテーマについて考察し、批判的に考え、建設的に議論する方法を実践を通して繰り返し学びます。

クリティカルシンキングは、後に取る上級クラスでも必要不可欠な能力となります。多くの授業でクリティカルシンキングを自在に使えることが前提の課題、エッセイ、そしてディスカッションがあり、批判的考察能力が試されるからです。

2. 「勉強する目的」が根本的に違う

アメリカには、いわゆる日本型の受験がありません。標準試験はありますが、日本のような難解な2次試験はなく、早い時期から塾や予備校に通うことは一般的ではありません。

そのため、大学入学に必要な試験勉強だけのために膨大な時間をかける必要はありません。大学入学までの勉強は受験のためというよりも、入学後の勉強の準備という要素がより強くなります。

結果、日本のように大学入学後に「燃え尽きる」ということは稀です。実際、大学入学後も高いモチベーションを維持する学生を見ることはごく普通です。大学入学というのは、大学に入るための「手続き」的な要素がより強い印象です。

大学に入ることよりも、次の4年間で何を成し遂げるかのほうがはるかに重要視されます。アメリカの大学が(一部を除いて)盛大な入学式をしないことも、入学はそれほど重要でないという考えを表しています。

大学に入れば、ここぞとばかりに勉強に励む学生がたくさんいます。それは、彼らの多くが大学院、もしくはプロフェッショナルスクール(メディカルスクールやロースクール)を目指すため、専攻の勉強に加えて関連分野の研究や課外活動に力を入れなければならなくなるからです。

大学の4年間もまた次のステップへの準備に過ぎないという認識がとても強いです。これらすべてをこなすために、寝る間も惜しんで勉強する学生がたくさんいます。

3. 「授業を受ける」の意味が根本的に違う

学生の多くが大学卒業後のキャリアを積むことを目的にしているため、大学の授業も当然真剣に受けます。勉強するのは自分の将来のためという意識が強く、1つ1つの授業から最大限に学びたいというモチベーションが高いのが特徴です。

そのため授業中に積極的に質問するのはごく普通のことですし、クラスメートとのディスカッションにも熱が入ります。勉強するのはいい成績を取るためだけではなく、卒業後の人生に役立つ知識をできるだけ身に付けておくためでもあるのです。自分の人生に役立てるための勉強ですから、学びへのモチベーションは自然と高まります。

さらに重要なのは、アメリカの大学の教室では、周りの空気を読んだ、ありきたりな意見やアイデアは評価されません。ほかの人が考えつかないような革新的なクリエイティブな思考こそが高く評価されます。その結果、学生たちは自由にのびのびと自分なりの考え方を探求するようになり、新しいアイデアを考える習慣が身に付きます。

4. 「先生」の意味が根本的に違う

もう1つアメリカの大学で気づいたのは、「先生」の役割が根本的に違うということです。アメリカの大学で学ぶ際に強く感じたのは、先生は「権威」ではなく、学ぶ上での「ガイド」という雰囲気が強いということです。

権威ではないので、生徒はガンガン質問しますし、反対意見を述べることにも物おじしません。結果、より自由な議論をすることができるようになります。もちろん先生の方が経験は豊富ですが、先生の意見は決して「絶対」ではないという認識が自然と共有されています。

受け身で話を聞くのではなく、常に批判的に考えるため、議論が深まっていきます。積極的に議論に参加することで、実践を通して必要な知識を身に付けることができるのです。                  

5. チャンスがいくらでも回ってくるフェアな環境

アメリカの学生が高いモチベーションを維持し続けられる理由がもう1つあります。

それは、「たとえ希望の学校に入れなかったとしても、努力を続ければまたいくらでもチャンスが回ってくる」というフェアなシステムであることです。

アメリカ人の多くは大学院に進みますが、ほとんどの大学院は同じ大学の生徒を(一部を除いて)採用しません。大学でどれだけ勉強したか、何を成し遂げたかを基に全米各地から生徒を採用します。

ですから、どんな大学に入ったとしても、そこで成果を上げさえすれば、評価の高い大学院に入る確率が上がるわけです。それは大学院卒業後も同じです。大学院でどれだけ勉強したかによって、次のステップが決まります。勉強すればするほど次につながるシステムのため、高いモチベーションが生まれやすくなります。 

このように、世界で評価の高いアメリカの大学では、革新的でクリエイティブな思考を伸ばすための最適の環境が整っており、高い教育の質を維持することを可能にしています。高いモチベーションを持って勉学に励むことをうまくサポートするアメリカのシステムからは、学ぶべきことがたくさんあると思います。

さかいとしゆき神経科学者(Ph.D.)。英会話力ほぼゼロから一念発起して英語を勉強し直し渡米。カリフォルニア大学バークレー校を卒業後アメリカの大学院で神経科学の博士号を取る。日米両方で学んだ経験から教育、社会などさまざまなテーマを独自の視点から考察。
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