米国音楽療法士の佐藤由美子さんに聞く!英語と音楽で人を支える仕事とは?

佐藤由美子の「音楽療法英語」

アメリカのホスピスで約10年間、終末医療の現場に携わった音楽療法士の佐藤由美子さんのインタビュー、佐藤由美子の「音楽療法英語」。3回にわたって、音楽療法士のお仕事についてや、佐藤さんが体験してきたエピソードなどを伺います。

音楽の力で、心と体を支える仕事とは?

初めまして。音楽療法士の佐藤由美子です。

音楽療法(ミュージックセラピー)というのは、音楽の力を使って人々のニーズに対応するセラピーです。病院やホスピス、あるいは高齢者施設などで、患者さんやお年寄りが音楽療法士と一緒に歌ったり、楽器を弾いたりする様子を、あなたも目にしたことがあるかもしれません。

アメリカの場合、音楽療法士の活動の場はさらに広く、障害者施設から一般の学校や刑務所まで、要望があれば私たちはあらゆる場所へと出向きます。人生のスパンで言うなら、生まれる前の胎児から、息を引き取るそのときまで、あらゆる段階で人々に寄り添いサポートするのが仕事です。

「療法」といっても、私たちは音楽で病気を治すわけではありません。音楽療法に関わらず、セラピーにおいて最も重要なことはセラピストとクライエント(対象者)との関係性です。音楽療法士はその関係性を通じて、クライエントのニーズに対応します。

音楽療法によって、うつ状態が軽減する、精神的な苦痛や身体的な苦痛が緩和される、といった効果が期待できます。 臨床的で、なおかつエビデンスに基づく音楽の使用により、対象者の健康の向上や、回復を助けるのが音楽療法です。

音楽に大きな力があるという考え方は古くからありましたが、現代の音楽療法の起源は、第2次世界大戦の頃の欧米です。トラウマを抱えて戦地から戻る、傷ついた兵士たちをケアするために、音楽家が病院を訪ねて音楽を演奏したのです。

そうする中で、音楽に大きな力があることが、はっきりしてきました。その音楽の力を最大限に引き出すために、音楽療法の専門家を育てる必要性も見えてきました。こうして大学で音楽療法が教えられるようになったのです。

懐かしのフォークソングがお年寄りを変えた

私自身はホスピスでの音楽療法を専門にしています。ホスピスというと、末期の患者さんに終末ケアを行う施設の総称として知られていますが、ホスピスは単なる場所や建物ではありません

患者さんが安らかに、尊厳を持って最期を過ごせるよう、医療と共に心のケアを提供するプログラムや、その概念自体がホスピスケアです。アメリカの場合、在宅医療もホスピスケアに含まれるので、高齢者施設や患者さんの個人宅に伺うこともありますし、ご家族のグリーフケアにも対応することになります。

私が音楽療法と出合ったのは、大学生の時でした。

音楽に関しては、子どもの頃にピアノを習っていましたが、それも15歳まで。留学したアメリカの大学では心理学を専攻し、音楽を勉強することなど考えてもいませんでした。

そんなあるとき、ソーシャルワークのクラスで、デイサービスセンターでのボランティアに参加することになりました。アメリカのデイサービスも日本とほぼ同じで、日中、高齢者を集めて、ゲームなどをして過ごしてもらうのです。

当時私が住んでいたのは、合衆国南東部に位置するノースカロライナ州でした。地元の人が話す英語は南部訛(なま)りで、ただでさえ聞き取りづらい上、デイサービスを利用するお年寄りには、認知症を抱える人も多くて、なかなか話が通じません。

しかも私はまだ英語がそれほどできませんでしたから、コミュニケーションの取りようが、ほとんどない状態でした。

そのとき、たまたまそこにあったピアノが目に入ったのです。ピアノとはずっと離れていたので、うまく弾ける自信はありませんでしたが、思い切って「Beautiful Dreamer(夢見る人)」を弾き始めました。

「おおスザンナ」などの作曲者として有名な、フォスターの作品で、アメリカ人なら誰でも知っている、懐かしいフォークソングです。

ピアノからメロディーが流れ始めると、部屋の空気がガラリと変わりました。話し掛けてもまったく反応しなかった人や、つまらなそうにビンゴゲームをやっていた人が、みんな顔を輝かせて聞いています。

うれしそうに手拍子を取る人、ピアノに合わせてダンスをする人まで出てきて、音楽が終わると“Play more! Play more!”と、お年寄りの間から声が上がりました。

それは驚くべき経験でした。言葉が通じないのに、音楽によって私たちは確かに通じ合えたのです。「何だかよくわからないけれど、とにかく音楽にはすごい力がある!」と思いました。

死と直面するホスピスでの仕事を選択

私はピアノを再開し、専攻も音楽に変えました。そして偶然にも大学院に音楽療法の学科があることを知って、本格的に音楽療法を学び始めたのです。

アメリカの認定音楽療法士(Board Certified Music Therapist)の資格は、米国音楽療法学会の承認を受けた大学で、所定のカリキュラムを修了することで授与されます。

ピアノ、ギター、打楽器、歌唱などの実技以外に、音楽理論、音楽史、心理学、解剖学といった学科を学び、カリキュラムには6カ月間のインターンシップも含まれます。こうした過程を経て、私は正式な米国認定音楽療法士として、オハイオ州のホスピスで働くようになりました。

ホスピスで働こうと決めたのは、そこに大きな学びがあると思ったからです。人間の生死に直面する中で、自分の内にある「死」への恐怖が和らぎ、「死」の受け止め方が変わるのではないか、それによって成長できるのではないかという期待がありました。

ところが音楽療法士のインターンシップの面接で、初めてホスピスを訪れたとき、私は想像もしていなかった自分自身の反応に、思わずたじろぐことになりました。

インタビューのため、チャプレン(宗教に関係なく心のケアを行う聖職者)と一緒に、順番に患者さんの部屋を訪ねるのですが、「この人はもうじき亡くなるのだな」と本能的にわかるのです。

それだけで恐ろしく、私は激しく動揺しました。身近な人の死に直面したことも、まだなかったので、自分も家族も避けられない「死」を目の前に突き付けられ、ひたすら怖かったのです。

ある部屋では、ベッドで眠る50代くらいの男性患者さんに、奥さんが付き添っていました。ホスピスケアのスーパーバイザーが奥さんと話しているのですが、彼女の悲しみはこちらにも痛いほど伝わってきます。

こういう場面に日々立ち会うことが、果たして自分にできるだろうか。こんなに動揺してしまうのに、仕事などできるのだろうか。そのときはそう不安に思ったことを覚えています。

その時はそう感じましたが、インターンシップを通じて、自分の気持ちにいかに気づくことができるかどうか、そしてその気持ちをどうセラピーに利用するかということが大事だ、ということを学びました。

横須賀の老人ホーム(2016年)死期が近づいている女性に唄っている写真

横須賀の高齢者施設で(2016年)死期が近づいている女性に歌っている様子

音楽療法士のいちばん大切な道具。それは「自分自身」

音楽療法は、あくまでもクライアント中心のアプローチです。ホスピスの患者さんのニーズも、心的、身体的、社会的サポートと、それぞれに違います。痛みがひどくて音楽に安らぎを求める人もいれば、死の恐怖と向き合う心の支えを必要としている人もいます。

自閉症のお子さんなどでは、コミュニケーションのサポートが、音楽療法に求められることもあります。さらに、上でお話しした患者さんの奥さんのように、かけがえのない人を送るご家族へのケアも欠かせません。

だからこそ音楽療法士の仕事は、一人一人の状況を知り、どのようなケアが必要かを判断するアセスメントから始まるのです。

For music therapists, music is a tool in the toolbox.

音楽療法士にとって、音楽は道具箱の道具なんだよ。

インターンシップ時代のある日、教官が言いました。その上で、でも本当に大切な道具は音楽ではないと、彼は言葉を続けました。

The most important asset for a music therapist is yourself. No matter how well you can sing or play music, if you're not the kind of person your patients can trust, you won't be a good therapist.

われわれ音楽療法士にとって、いちばん大切な道具は自分自身だ。どんなに上手に歌ったり演奏したりできても、患者さんに信頼されない人間に、よいセラピーはできないよ。

私たちのセラピーは、患者さんやご家族との信頼関係があってこそ成立する。そう教えてくれた、今でも忘れられない言葉です。

次回はホスピスでの出会いと、音楽をめぐるそこでのエピソードをご紹介したいと思います。

佐藤さんたちが認知症の音楽療法を行っている様子

佐藤由美子さんの本

▼音楽療法士の佐藤さんが語る、感動のノンフィクション『ラスト・ソング』(ポプラ社)

ラスト・ソング (一般書)

ラスト・ソング (一般書)

▼穏やかな「見送り」の在り方を提案する希望の書『死に逝く人は何を想うのか~遺される家族にできること』(ポプラ社)

▼アメリカ人の語る戦争体験『戦争の歌がきこえる』(柏書房)

戦争の歌がきこえる

戦争の歌がきこえる

  • 作者:佐藤 由美子
  • 発売日: 2020/07/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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佐藤由美子さん

佐藤由美子

ホスピス緩和ケアの音楽療法を専門とする、米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州のホスピスで10年間、音楽療法を実践。キャンサーサバイバー(がんと共に生きる人)や障がい児との音楽療法、遺族を対象としたグリーフワークも行ってきた。2013年に帰国し、国内の緩和ケア病棟や在宅医療の現場で音楽療法を実践し、テレビ朝日「テレメンタリー」や、朝日新聞「ひと」欄でも紹介される。2017年に再渡米。著書に『ラスト・ソング~人生の最期に聴く音楽』『死に逝く人は何を想うのか~遺される家族にできること』(ともにポプラ社)、最新刊として『戦争の歌がきこえる』(柏書房)。
ブログ:佐藤由美子の音楽療法日記 | 人生の最期に聴く音楽

取材・文:田中洋子