「欺く」は英語でなんて言う?メッシ選手の移籍をめぐるサッカー界の大事件から学ぶ3つの英語表現

「欺く」は英語でなんて言う?メッシ選手の移籍をめぐるサッカー界の大事件から学ぶ3つの英語表現

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第10回はメッシ選手の移籍をめぐるサッカー界の大事件に学ぶ英語表現です。

メッシの芸術的なシュートTOP 10動画

リオネル・メッシといえば、サッカーファンは当然として、サッカーを見るのは4年に1度のワールドカップくらいという人にも結構知られている人気選手ですが、今そのメッシと所属先であるFCバルセロナとの関係が悪化し、サッカー界全体を巻き込んだ大事件になっています。メッシを知らない読者は、まずはファンが選んだメッシのTOP 10ゴールをご覧ください。特に6位の股抜き*1からのループシュート*2、2位の4人抜きは芸術的ですね。

※動画が見られない人はこちらから別のブラウザでご覧ください。

約束は破られた?どうなるメッシの移籍金

現代のプロスポーツでは短期で結果を残すことが厳しく求められるため、人材の流動性が高く、シーズンオフはもちろんシーズン中にもエース級の選手が移籍したり、監督が解雇されたりすることが珍しくありません。昔は一つのチームでキャリアを終えるのが一流の証しとみられていた時代がありましたが、今はとにかく目の前の結果がすべて。選手であれば高い年俸や出場機会、チームであれば優勝に必要な補強を求めて大金が動きます。すべては「今」勝つために。

そんな中、33歳の今も世界最高レベルの一人と評価されるリオネル・メッシは、ユース時代からずっとバルセロナ一筋。もう20年近く所属しています。稲妻のような高速ドリブルでの切り込み、天才的なひらめきから生まれるアシストやゴールを連発し、2005年頃からのバルセロナはスペインリーグやUEFAチャンピオンズリーグ(欧州最強のクラブチームを決める大会)を幾度となく制覇し、メッシ自身も欧州最優秀選手に贈られるバロンドール賞を歴代最多の6回受賞しています。間違いなくバルセロナの、そしてサッカー界の至宝なのです。

「メッシはバルセロナでキャリアを終えるだろう」と誰もが信じて疑わなかったのですが、8月下旬になって実はメッシがバルセロナのバルトメウ会長に退団の意思を伝えていたことが判明しました。それも1年以上も前に。

メッシ側は今夏になって契約解除条項に基づきクラブに退団の意思を伝える書面通知を出しましたが、クラブは「解除条項の期限は過ぎている」とこれを拒否。ゴタゴタの過程でスペインリーグ関係者が公にバルセロナ側を支持したり、ファンによる大規模デモが連日開催されたり(ファンはおおむねメッシ支持)、水面下でメッシ獲得を狙うクラブが怪しげな動きを見せたり・・・事は今まさにリアルタイムで動いています。

9月4日にはメッシがスポーツ雑誌『Goal』のインタビューを受け、率直な気持ちを語りました。2:10辺りからの英語字幕に注目してください。

※動画が見られない人はこちらから別のブラウザでご覧ください。

The president always said that at the end of the season I could decide if I wanted to go or if I wanted to stay … and in the end, he did not keep his word.

(バルセロナのバルトメウ)会長は、残留か移籍かの判断はシーズン終了時に僕が決めていいとずっと言っていた。結局その約束は破られたけどね。

メッシの契約には6月10日までに解除通知をすれば移籍金ゼロで移籍できる条項がありました。本来であれば5月中にはシーズンは終了していたでしょうから、これはまったく問題ありません。ただ今年はコロナでシーズンが一時中断。予定通り6月10日までに通知を行うとすぐニュースになり、チームメイトやファンとの間に溝が生まれ、残りのシーズンに大きな影響があるだろうからという判断の下、メッシは「シーズン終了後に自由に決めていい」という会長の言葉を信じて通知を行いませんでした。

メッシ側の主張によると、結局その約束は破られたわけですね。さあ訴訟かと思いきや、メッシはサッカー人生のすべてをささげたバルセロナ相手に裁判はできないとインタビューで答え、9月4日にバルセロナ残留を表明しました。

しかし本質的な問題が解決したわけではありません。クラブ側は功労者であるメッシに一切妥協の姿勢を見せず、むしろ必要あらば全面対決すら辞さない構えを見せているようで、メディアの中にはこうしたクラブ側の「内なる声」を代弁する人間もいます。4:55辺りからどうぞ。

※動画が見られない人はこちらから別のブラウザでご覧ください。

as far as Barcelona was concerned, he was trying to pull a fast one on them.

バルセロナ側からみたら、メッシはクラブをだまして逃げようとしたのです。

メッシ側にそのような意図があったのかは誰にもわかりませんが、もう残留宣言をした今、注目は今後です。バルセロナとしてはこのまま何もしなければ1年後にメッシの契約は満了し、この場合は移籍金を獲得できません。メッシは契約が終わるまではベストを尽くすと言っていますが、チームに対して明らかに不満を持っている選手は監督としても扱いにくいでしょう。

メッシほどの価値を持つ選手であれば、移籍金をたっぷりもらって今後の補強に役立てたいところですが、現実的に考えて彼の高額な移籍金(約880億円)を払えるクラブはおそらくないので、どこかで金額的に妥協する必要があります。

メディアが有力な移籍先として挙げているのが英プレミアリーグのマンチェスター・シティFC。現監督のジョゼップ・グアルディオラは過去にバルセロナの監督を務め、メッシらを率いてバルセロナの黄金期を築いた実績があり、メッシを含む選手からの信頼も厚いからです。8:15辺りからどうぞ。

※動画が見られない人はこちらから別のブラウザでご覧ください。

Manchester City looks like they’re in pole position if Messi was to leave

メッシが退団すれば、移籍先の最有力候補はマンチェスター・シティのようです・・・

キャリア晩年に差し掛かっているメッシですが、ゴールに対する嗅覚はいまだ衰えを知りません。「走らない」「守らない」と批判されることもありますが、今もただ前線に立つだけで相手を威圧できる数少ない選手です。ファンに愛される伝説的選手だからこそ、ファンが納得するようなキャリアの幕引きを誰もが期待していることでしょう。

バルセロナとメッシの移籍問題から学ぶ3つの英語表現

keep [one’s] word

「約束を守る」という意味です。自分が約束したことがwordなのですね。これとは別にstay true to [one’s] word という表現もあります。自分が発したwordに対して誠実(true)であり続けること、つまり約束を守るとか、「信念を貫く」という意味ですね。

pull a fast one

「だます」や「欺く」という意味で、もともとはマジシャンが素早い(fast)手の動きで観客をだますところから生まれた表現のようです。トイレで用を足すと見せ掛けてささっとたばこを吸ったり酒を飲んだりする行為を指すことも。

in pole position

もともとは競馬用語らしいのですが、今ではモータースポーツのレースにおけるスタート位置の先頭を指します。モータースポーツ以外の文脈で使われる場合は、「最有力」という意味になります。

We are in pole position to supply them from Japan.だったら、日本からの供給元としては最も有利だということです。ただ、あくまでもスタート時点で先頭に立っているだけで、実際に勝てるかどうかはわかりません。

関根さんの本

同時通訳者のここだけの話

同時通訳者のここだけの話

 
通訳というおしごと

通訳というおしごと

 

*1:相手の股にボールを通し、相手がボールの方向に振り返る前に、ボールに追いつき、抜き去る

*2:比較的遠い距離から、キッカーが弧を描くような高いボールの軌道でゴールキーパーの頭上を抜くように決めるシュート

関根マイク

関根マイクフリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。FIFA(国際サッカー連盟)公式通訳者。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/