コロナ禍において人とつながるには?多文化共生のニューノーマル

「アフターコロナ」の時代に、オンラインや対面で新たに人と出会い、交流を深めていくにはどうしたらいいでしょうか?その際の障壁や解決策は?「多文化共生社会」を実践するためのヒントを、日本にやって来た難民の若者たちと未来を作る活動を続けるNPO法人WELgee(ウェルジー)で理事を務める安齋耀太さんが語ります。

ウイルスに阻まれる多文化共生

多文化共生とは、自分とは異なる「他者」と関係性を築いていくやりとりの連続である。

世界には、さまざまな文化が存在し、その文化の中で育ったさまざまな人たちがいる。彼らと同じ空間にいるだけでは、共に生きているとは言えない。出会い、向き合い、理解し合おうとする、こうした双方向の実践の積み重ねこそが、共に生きるということである。

新型コロナウイルス感染症の 拡大 は、このような多文化共生の実践に少なからず 影響 を及ぼした。

まず、知らない人と出会うということが、感染のリスクとして捉えられるようになった。自分が誰から感染(うつ)されるかも、誰に感染(うつ)すかも、まったくわからないからだ。

加えて、たとえオンラインで出会うことができたとしても、オンラインで対面と同じように関係性を築けるのか不安を持つ人は多いだろう。それは一つには、オンラインでは対面と比べて表情や身振りなどの情報が少なくなるからだ。さらに、これと相まって、オンラインという不慣れな場に自分をさらけ出すために必要な心理的安全性をいまだ見いだせていないという、心理的な要因もあるだろう。

こうした変化は、「他者」と出会い、継続的なコミュニケーションを通して関係性を築く、多文化共生の営みを大幅に制限した。

コロナ禍において難民の人とつながる難しさ

私たちWELgeeという団体は、日本に難民として逃れてきた人たちとまずは私たちが出会い、関係性を構築し、さらにはその機会を日本社会に開かれたものにしていく活動を行っている。いうなればこれも多文化共生の実践の一つだ。

そのため、上に述べたような新型コロナウイルス感染症の 影響 は、当然この活動にも表れている。 そもそも 出会う以前の段階で、海外で生命を脅かされている人たちが渡航制限によって日本にたどり着けなくなっているのだ。それに、たとえ日本に来ることができたとしても、彼らと出会える場が著しく減っている。

これまで、私たちが彼らと初めて出会う主な場所は、別の団体が主催している難民(正確にはアサイラム・シーカー=asylum seeker )向けの日本語教室だった。しかし、これも新型コロナウイルス感染症の 拡大 を受けて中止になった。さらには、私たちが月例で開催していた「WELgeeサロン」という交流イベントも何度か中止した。

その背景には、私たちが「インターナショナルズ」と呼んでいる、日本に難民として逃れてきた人たちが、十全なインターネット環境を備えていないという事情や、オンラインでイベントを 実施する 際に彼らのプライバシーへの配慮をいかに行うかの検討が必要だったという事情もある。

しかし、それ以上に、今まで「対面」という形式で作ってきた「心理的に安全な場」「コミュニケーションによって育まれる人間的な関係性」を、オンラインで作ることができるのかという不安があることは間違いない。

不安を肯定しながら自己を他者に開く

とはいえ、この「アフターコロナ」という時代には、そんなことは言っていられない。

「自分が感染していないとは言いきれない」「人の多いところに行きたくない」「もし知らない間に感染を広めていたらどうしよう」といった不安を肯定しながら、自己を他者に開いていくにはどうすればよいのか。その方法を探していかなければならない。

この感覚は徐々に日本社会に浸透してきたように思われる。実際、対面とは異なるオンラインの場でいかに人はつながれるか、どのような条件であれば感染のリスクや不安を踏まえながら対面で知らない人が出会い向き合う場を作れるか、このような挑戦が徐々に増えてきている。

新しい感染症と共に暮らしながら、他者と出会い、向き合い、関係性を築いていく、そんな「ニューノーマル」な力がこれからの多文化共生には必要なのだろう。

2020年7月公開の前編記事はこちら

ej.alc.co.jp

安齋耀太(あんざい・ようた)
NPO法人WELgee 理事・戦略室長。当団体の法人化に携わったのち、組織全体のマネジメントを担う。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍中(研究テーマは「国家と難民」「ドイツの庇護(ひご)権」、学問領域は社会学)、神奈川社会福祉専門学校・非常勤講師(担当科目「社会理論と社会システム」)。1990年東京都葛飾区生まれ、千葉県我孫子市育ち。

編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部

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