BLMがリーダー不在なのはなぜか?ジョージ・フロイド事件と新型コロナで活発化した運動を徹底解説

BLM

アメリカのジョージ・フロイド事件をきっかけに世界で盛り上がりを見せているBlack Lives Matter(黒人の命は重要だ、BLM)運動。運動の始まりや現状などを、アメリカ合衆国・カリブ海地域のラティーノ・黒人文化や移民を専門とする文化人類学者で多文化コンサルタントの三吉美加さんが解説します。今回は前編です。

「白人が変わる必要がある」という声

今年春、アメリカ社会の深刻な新型コロナウイルス感染状況下で、東アジア系に対する差別や嫌がらせがエスカレートしていた。また、白人と比べて、非白人のコロナ感染者や死亡者数が多いことが統計データで明らかになった。

その後、ジョージ・フロイドさんの事件をきっかけに、Black Lives Matter運動が活発化した。アメリカでは警察暴力に対するデモ抗議は連日続いており、州と連邦政府の対応の違いも目立ってきている。

今、アメリカ社会の人々の人種差別に関する問題意識は以前にまして高まっている。

特に白人たちの中から、“White people need to change!”という声が上がっている。多くの白人たちの個人レベルでの意識の変化は、今後の世界各地の人種や民族、不平等の問題にどう影響を及ぼしていくだろうか。

フロイドさんが白人警察官に殺害された後、逮捕の様子を捉えた動画が拡散され、すぐに抗議デモが始まった。

当初は一部の暴徒化した人たちの破壊活動が注目を浴びたが、次第にデモ活動の規模が大きくなり、全米および世界中でBlack Lives Matterというスローガンを掲げての、協調的で平和的な抗議活動が広がっていった。

ジョージ・フロイドさん殺害事件

2020年5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで、ジョージ・フロイドさんが警察官に殺された。

フロイドさんはたばこを購入する際、偽札を使用したと疑われ、店側が彼にたばこを返すように求める。この場面からフロイドさんが救急車に乗せられるまでのすべてが、居合わせた人によって撮影されている。

フロイドさんが殺害される様子は、SNSを通してすぐに拡散した。YouTubeにアップされているこの事件の動画の再生回数は1900万回を超えている。

動画から確認できる状況は次のとおりである。

車の座席にいるフロイドさんに話し掛ける警官。そのときすでに銃を手にしている警官もいる。パトカーが現場に次々と到着し、警官が集まってくる。

車を降りるように言われ、嫌がっている様子のフロイドさん。そこで、警官たちは彼を引っ張り始める。

しばらくして、地面に横たわるフロイドさんが見える。3人の警官が地面に無抵抗で伏せるフロイドさんを押さえ込んでいる。1人の警官は周囲を見張っており、時折、通行人に離れているように声を掛ける。

動画は、膝でフロイドさんの首を押さえ付けている1人の警官をよく捉えている。

うつぶせ状態のフロイドさんは、“I can’t breathe.”(息ができない)と何度も懇願するように声を出す。しかし、警官は応じない。“I can’t breathe ... Mama ... Mama.”と聞こえる。

そこに居合わせた通行人たちが叫ぶ。「その膝をどけて!」「息ができないって言っているじゃない!」と何人もの人が何度も叫んでいる。「なんで足をどけないんだ!」と怒鳴る声。悲鳴を上げる人。

あるときから、フロイドさんは地面に伏したまま、まったく動かない。

そしてようやく救急車が到着する。フロイドさんが膝で首を絞められた状態だったのは約9分間だった。

世界中の人が、動画サイトで簡単にこの動画にアクセスできる。そのとき視聴者は、警官による人殺しの目撃者になる。

アメリカ社会には、日常的に警察や制度によって不当に扱われている人がたくさんいる。彼らはこの映像をどう見ただろうか。こうした動画は、アメリカの歴史、人種問題、個人の身に起こった経験を思い出させるだろう。

アフリカ系アメリカ人は、アメリカの奴隷制度、南部再建以降に悪化した黒人に対するテロ、公民権運動とその後の反動など、制度的な進歩と退歩、期待と裏切りの繰り返しをずっと、身をもって経験してきた。日々の暮らしの中で差別を経験するたびに、これまでのアメリカ黒人の歴史を思い出し、同じ黒人たちとそのことについて話をする。それは極めて日常的なことである。いまだに頻発し続ける黒人に対する警察暴力は、黒人集団に対するリンチだと感じる人は多い。

フロイドさんの最後の言葉、“I can’t breathe.”や“Mama ... Mama.”を最後の言葉に、これまでになん人ものアフリカ系アメリカ人が殺されてきた。

2013年7月に始まったBLM運動

Black Lives Matterの運動はフロイドさんの事件以前から存在している。始まりの経緯は次のとおりだ。

2012年にフロリダ州サンフォードで10代のアフリカ系アメリカ人の少年、トレイボン・マーティンさんを、自警団の白人、ジョージ・ジマーマンが射殺した事件で、逮捕されたジマーマンに無罪釈放の評決が下された。

これをきっかけに、コミュニティーオーガナイザーである3人の黒人女性、アリシア・ガルザさん、パトリシア・カラーズさん、オパル・トメティさんがBlack Lives Matterの活動を開始した。現在、Black Livers Matter財団となったこの組織は、主にアメリカ、カナダ、イギリスで活動している。

同財団は、白人至上主義を根絶することと、政府や自警団による黒人コミュニティーに対する暴力を仲裁するための、ローカルな場に根差した権限のある組織の設置を目指している。

この運動の特徴である、目立ったリーダーを作らないという戦略が今、注目されている。これまでの黒人リーダーたちが命を狙われ、キング牧師やマルコムXなどが暗殺されてきた過去に学んだということのようだ。*1*2

BLMのスローガンがアメリカで全国的に知られるようになったのは、2014年、ミズーリ州ファーガソンで18歳のアフリカ系アメリカ人、マイケル・ブラウンさんが白人警官によって射殺された事件と、ニューヨーク市でエリック・ガーナーさんが白人警官に絞殺された事件の後に起こった警察暴力への抗議運動がきっかけだった。

SNSで#BlackLivesMatterというハッシュタグが付けられて知名度を上げてきた。

「アフリカ系」か「黒人」か?

通常、アメリカ合衆国で生まれた黒人に対しては、African Americanと呼ぶのが政治的に最も妥当な名称だ。しかし日常生活では、ブラック(Black/black)という呼び方が広く使われている。

ただ、人の集団を表す呼称は、誰がどのような立場で誰に対して使うか、という状況を考慮しなくてはならない。発言者のポジションなどによって言葉の定義や意味合いが異なるので、自分が発言する際には注意が必要だ。

例えば、オバマ前大統領は在職時に“Blacks are ...”とよく発言していたが、そのことに対する批判は聞いたことがない。一方で、トランプ現大統領が“Blacks ...”と連呼しているのを好ましく思っていない人々がいる。

改まった場で、その相手に敬意を払うなら、(その人がアメリカ合衆国で生まれた人であれば)African Americanと呼ぶのが好ましいだろう。

覚えておきたいのは、アメリカ社会でBlackと自認する人の中には、カリブ系やラティーノの人も含まれるので、状況的な判断が大切ということだ。

BLM運動では、すべてのマイノリティーを包括するような言葉としてBlackという語が使われることもある。活動の幅や支援者が世界に広がっているため、その語の範囲はますます拡大していきそうだ。

社会活動やそれに伴う人の意識の変化を通して、言語の意味範囲も変わっていくことに、今、私たちは改めて気付かされている。

▼ラティーノに関する詳細記事↓

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データに見る人種的不平等

フロイドさんの死から2日後には、大規模なBLM運動が始まった。

今回の運動では、前例のない規模で多くの白人、アジア系、アラブ系、ラティーノたちが参加していたことが注目されている。中でも10代の若い人たちがこれほど多く抗議デモに参加したことは歴史を見てもないと言われている。

そして当然、黒人の中には、アフリカ系アメリカ人だけではなくカリブ系やラティーノが大勢含まれている。

APM Research Labのアメリカにおける集団別のコロナウイルス感染者の死亡率に関するデータ*3によると、黒人の死亡率は白人と比べて3.8倍多い。ちなみに、アメリカ先住民は3.2倍、ラティーノは2.5倍、アジア系は1.5倍となっている。

また、ワシントンポスト紙の警察暴力に関するデータ*4によると、アメリカでは年間約1000人が警察暴力によって死亡し、その死亡者数は、アフリカ系アメリカ人が人口の約13%なのにもかかわらず白人と比べて2倍以上、ラティーノも2倍近くになっている。

後編はこちら↓

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三吉美加

文:三吉美加(みよし みか)

多文化コンサルタント。文化人類学の視点から、さまざまな顧客に対する配慮やサービスの仕方、具体的なプランを提案している。ライフコーチングおよびタロットリーダーとしても活動。東京大学講師。学術博士(文化人類学)。専門はアメリカ合衆国・カリブ海地域のラティーノ・黒人文化、移民。著書に『米国のラティーノ』。「1000時間ヒアリングマラソン」の「カルチャー再発見」コーナー担当コーチ。

https://www.instagram.com/miyoshi.mika/

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編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部