コロナ後、ボリス・ジョンソン英首相が語った感謝の言葉

ヨーロッパの今

新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなって世界中で猛威を振るっています。その感染者の一人となったイギリスのボリス・ジョンソン首相が、1週間の生死をさまよう治療を経て退院した際の、感謝の念にあふれるスピーチで伝えたこととは?

ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)
1964年6月19日、ニューヨーク生まれのイギリス人。保守党の政治家。イギリス下院(庶民院)議員、ロンドン市長を経て、メイ内閣で外務・英連邦大臣を務める。2019年6月に首相を務めていた保守党のメイ党首が辞任表明したことを受けて党首選に立候補し、7月に新党首ひいてはイギリス首相となる。メイ政権中に実現できなかったEU離脱を、2020年1月に実行した。

コロナ後に問われるリーダーとしての手腕

ボリス・ジョンソンは、優秀さの前に立つあくの強さで話題に上る人物だ。イギリスではそのキャラクターからファーストネームの呼び名が定着している。

イートン校(1440年創設の男子全寮制パブリックスクール)、オックスフォード大学と名門校を経て、ボリスは高級紙『タイムズ』でジャーナリストの職を得るも、記事中の捏ねつ造ぞうが明るみに出て程なく解雇される。籍を移した『デイリー・テレグラフ』紙では、反EU色が強い記事を書き名物記者となった。同紙副編集長時代にテレビに出演、不遜な態度といじられキャラが受け評判となり、以降いくつもの番組に出演、ボリスは広く知られる存在となる。

それ以前の挑戦では落選していた彼であったが、2001年の国会議員選で知名度が功を奏し当選、ジャーナリスト兼政治家に。任期中は、人々を侮辱する記事を書き謝罪、要職に就くも不倫を暴かれ解任されるなど、お騒がせ議員のイメージが定着した。その後のロンドン市長時代は滞りなく任務を遂行し、その信頼から2015年に国会議員に返り咲く。翌年のEU離脱の是非を問う国民投票に際し、ボリスは反EUキャンペーンに参加、離脱しなければトルコ人がイギリスに押し寄せるような言い方をするなど、国民の不安をあおる文言を吹聴しメディアのやり玉に挙げられた。EU離脱決定後はテリーザ・メイ内閣で外相を務めるも、失言により他国の気分を害したエピソードは1つや2つではない。

しかしながら2019年、EU離脱交渉を難航させたメイ首相の退任に当たり、合意なき離脱も辞さないとする強い態度のボリスに支持が集まり、保守党首に選出され、続く総選挙でも党を大勝利に導き、その後は順調に首相としての任務をこなしていた。そんな折に突如見舞われた新型コロナウイルスの大流行に、リーダーとしての手腕が問われている。

外国人労働者に謝辞を贈ったイギリス首相

Britain's Prime Minister Boris Johnson speaks during a daily briefing to update on the coronavirus disease (COVID-19) outbreak, at 10 Downing Street in London, Britain, June 23, 2020. Andrew Parsons/10 Downing Street/Handout via REUTERS

写真:Andrew Parsons/10 Downing Street/Handout via REUTERS

年末、中国で存在が確認され、瞬く間に世界中に感染が拡大した新型コロナウイルス。イギリスでは今年3月に入り雪だるま式に感染者が増え出し、生活必需品などの買いだめが横行するなど、国内は半ばパニック状態になった。

欧州の多くの国がロックダウンを実施する中、イギリスは、健康な人たちの多数がまず感染することで集団免疫を獲得し、重症者数の爆発的増加を防ぐ方策を表明。ボリス・ジョンソン首相はNHS(National Health Service、国民保健サービス)が新型コロナウイルスに十分に対応できているとし、感染者を含む多くの人たちと握手をして「手さえ洗えば大丈夫なのだ」と豪語した。しかしその後、インペリアル・カレッジ・ロンドン(公立の研究大学)による、現行の方策では25万人の死者を出す恐れがあるとの試算を受け、他国同様の厳しいロックダウン式の対策に方向転換する。

そんな中、新型コロナウイルス感染症のため首相が自主隔離に入ると発表された。当初は軽症と伝えられたものの、その後入院、そして集中治療室へ送られるまでに悪化した。安否が気遣われたものの無事回復することができた首相は退院後の4月12日、国民に向けたビデオメッセージでNHSの人たちへの謝辞を述べ、集中治療室で担当だったニュージーランドとポルトガル出身の看護師の名を挙げた。反EUを掲げ、外国人労働者に対し厳しい政策を進める首相にとっては皮肉めいた巡り合わせだったと言えよう。

首相の罹患(りかん)体験が、新型コロナウイルス対策だけでなく、政権の移民政策にどのような影響を与えるか、想像を巡らされるスピーチであった。

スピーチの内容は「ヨーロッパの今 3」でお届けします。

ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部

文:パーソン珠美(通訳・ライター、海外書き人クラブ)

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年8号に掲載した記事を再編集したものです。

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