洋書好きの英語学習者にとって気になる存在、オーディオブック。文字で読む本や、無料で聞けるPodcastとは異なる、その独自の魅力とは?また、どのように英語力アップにつながるのでしょうか?オーディオブックに最近出合って魅了されているという通訳者の川合亮平さんが、おすすめの3冊とともに、それらの点を語ります。「耳から学ぶ英語」、深めてみませんか?
オーディオブック超初心者の通訳者がその魅力を語る
こんにちは、洋書読書大好きっ子ちゃんの川合亮平です。
僕は特にここ1年ほど、「洋書読書、楽しいなー、面白いなー、最高だなー」という状態で、「趣味:洋書読書」と言っていいくらいの域に達したかな、と思っています。
そんな僕が今とっても気になっている存在が、洋書オーディオブック。
今回の特別寄稿では、洋書オーディオブック超初心者の僕が、初心者なりのオーディオブック体験と、初心者ならではの視点でその魅力を、語らせていただきます。
あなたがオーディオブックという新しい世界に一歩足を踏み入れる機会になれば、幸いです。
オーディオブックの世界に足を踏み入れたきっかけ
新作のアメリカドラマ『リトル・ファイアー~彼女たちの秘密(原題:Little Fires Everywhere)』が日本でも放送されるということで、先日、出演者へのオンライン・インタビューのお仕事の話が僕の元にやって来ました。
数年前にアメリカで大ベストセラーになった(今もなっている?)同名の小説(Celeste Ng著)のドラマ化、ということで、しっかりしたインタビューをするには、その本を読むことが前提になってきます。
インタビュー予定日まで残り約1週間。
読書スピードが決して早いとは言えない僕には、1週間で1冊読了するのはなかなかチャレンジングに感じられました。
負担を最小限にして、限られた1週間で本を網羅(読了)する方法は?
その問いの答えが、「オーディオブック」だったのです。
早速、Amazonのオーディオブック機関であるAudible(オーディブル)に入会登録して、サイトから『Little Fires Everywhere』をダウンロード。
iPhoneから聞くことになるので、アプリでもAudibleをダウンロードしました。
(ちなみに、Audibleに会員登録すると、毎月定額で1500円を支払う義務があります。でも、会員は毎月、「コイン」という、どの本でも無料でダウンロードできる権利が与えられるので、毎月1500円以上のオーディオブックを、コインを使ってダウンロードすれば、元は取ったということになるのかな、と思いますが、いかがでしょうか?)
『Little Fires Everywhere』の朗読時間は11時間27分。タイムリミットの6日間ですべて聞き終えるには、1日120分弱聞けばいい、という計算になります。
「1日2時間か・・・、よし、それなら大丈夫だ」というある種の安心感を得て、僕のオーディオブック生活は順調にスタートを切ったのです。
結果的に、聞き始めてから6日後、すべて聞き終える直前だったか直後だったかに、取材は実現せず、という結果になったんですけどね。
でも僕としては、以前から気になってはいたけどなかなか踏み出せずにいたオーディオブックの世界に、これをきっかけに入れたことをとても喜ばしく思っています。
ある種の強制力、不可抗力は、人生の新たな局面を見いだせる、よき機会になり得るものですね。
洋書オーディオブックの7つの魅力とは?
では以下、オーディオブックの世界に(ついに)足を踏み入れた、オーディオブック初心者の僕が考える、オーディオブックの魅力を箇条書きしてみます。
- 家事など、何か別の作業をしながら、本を進められる。
- 本を読むのと比べると、短時間で読了できる。
- 読むという能動的アクションがおっくうなときでも、聞くという受動的アクションで比較的、楽に本が進められる(寝落ち注意)。
- 著名な俳優や、著者本人がナレーターを務めるケースもあるので、ストーリーに加えて、音そのものとしても楽しむことが可能。
- 一度、読了した本を再度オーディオで聞くことで、時間を短縮した復習ができるし、違った角度から本の要素や魅力を吸収できる。
- 読むかどうか迷っている本も、オーディオブックなら敷居が低くチャレンジしやすい(時間の投資が少なくて済むので)。
- とにもかくにも英語力アップできる!
いかがでしょうか?
魅力というものは人それぞれ感じることが違って当たり前だと思いますが、僕としては少なくとも上記のようなワクワク感を感じています。
さて、最後の項目、「英語力アップ!」は、わざと大ざっぱに書きました。
以下、この部分にフォーカスして、簡単に解説してみますね。
オーディオブックは英語学習にどんなメリットがあるのか?
メインとしてはリスニング力が上がり、それにつられて全体的な英語力のアップも大いに期待できると実感しています(継続して聞き続けた場合、という条件付きですが)。
「川合さん、洋書オーディオブックがリスニング力アップに効果的というのは、なんとなくわかります。でも、それだったら、無料のPodcast(ポッドキャスト)で事足りません?」
もしかしたら、あなたはそう思われたかもしれません。
実際、(無料の)Podcastを多聴し続けることで得られる英語力の恩恵は計り知れません。それは、僕自身の実体験を通じて十分、証明済みです。
しかし、あえてここでは、Podcastにはなくて、オーディオブックだからこそ得られる英語力アップに関わる恩恵を3つ紹介したいと思います。
物語の力をなめんなよ
物語って、記憶に残りやすいし、話を追わなきゃ、という意識が働くので、集中力も自然に発動されやすい。
つまり、Podcastで情報番組やニュースなどを聞き流すのに比べると、英語の物語をオーディオブックで聞く、という行為は、英語が頭により残りやすいアクションなんですね。
子どもが寝るときに読み聞かせをしている(していた、または自身が昔、してもらっていた)方もいらっしゃるかと思いますが、読み聞かせと子どもの言語脳の発達は密接な関係があるという研究結果があります。
子どもの脳と大人の脳を並列に比べるつもりはありませんが、「物語を聞く」行為と「言語脳の発達」の因果関係は、老若男女におおむね当てはまるはずだ、と経験則を通じて感じています。
一貫性が語彙・表現力を強化するのだ
ある1人の作家が英語で書いた、ある1冊の本に登場する単語や表現、構文には、ある程度の一貫性が存在する、と実感しています。
簡単に言うと、ある単語や表現に関して、「あれ、これ、さっきも出てきたな」というのが起こりやすい、ということです。
繰り返しが記憶定着の重要な条件であることを否定する人は多くないと思います。そういう意味で、1冊の本がもたらす語彙力アップや表現力アップのポテンシャルはとても高いのではないでしょうか。
一方、Podcastのバラエティー番組やトークショーは(それはそれのよさはあるとして)、そういう意味での一貫性に欠けると思うのです。
身銭を切るとやる気も湧くぜ
Podcastは基本的に無料なので、いわゆる「聞き流し」をしても、懐にはまったく影響はありません(そのこと自体は、大いに喜ぶべきことです)。
でも、有料のオーディオブックに「投資」をした場合、しっかり聞かないと損という感情が湧きやすいし、せっかく買ったんだから、という思いで、とにかく最後まで聞こう、という意識が働きやすくなると想像します。
そういう意味で、強制力でもってじっくり英語力を上げていきたい方は、とにかく1冊選んで、身銭を切って入手し、取りあえず読了してみることが、とても大切な一連のアクションになると思います。
アクションなきところに、結果はついてきませんからね。
3冊のおすすめオーディオブック
「何を選んでいいのか、皆目、見当もつかない!」という方のために、最後に僕のおすすめを3冊紹介して、この特別寄稿を締めくくります。
Have a great audiobook time!
川合亮平でした。
『Boy: Tales of Childhood』Roald Dahl著
イギリスを代表する作家のロアルド・ダール氏は、『チャーリーとチョコレート工場』が一般的には有名かもしれません。
『Boy』は、彼の幼少期を描いた自伝的ストーリーです。天才と呼ばれる作家の幼少期から青年期にかけての物語はサプライズであふれていて、僕なんかは夢中になりました。
そしてオーディオブックのナレーターは、ダン・スティーヴンス氏!そうです、ドラマ『ダウントン・アビー』のマシュー・クローリー役で世界的にブレイクした男前。実写版『美女と野獣』でエマ・ワトソンと共演した「野獣」でぴんとくる方も少なくないかもしれません。
『The World Is Murder』Anthony Horowitz著
イギリスでいちばん多作な作家の一人として知られ、僕が大好きな作家でもある、アンソニー・ホロヴィッツ氏が手掛けるマーダー・ミステリー。
日本でも最近、彼の世界的ベストセラー・ミステリーである『カササギ殺人事件(原題:Magpie Murders)』が、各ミステリー賞を総なめにしていたので、記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。
『Magpie Murders』も僕は大好きなんですが、どちらかというと、現在のロンドンが舞台のシリーズ物の第1弾である『The World Is Murder』の方が好みです。
ナレーターは、イギリスの実力派俳優、ロリー・キニア氏!最近では、映画「007」シリーズのビル・タナー役が有名かもしれません。
『Born a Crime』Trevor Noah著
2016年の発売(翻訳版は2018年)以来、話題の書なので、ご存じの方も少なくないでしょう。
アメリカでコメディアンとして活躍するトレバー・ノア氏が、南アフリカでの激動の生い立ちをつづった自伝です。
貧困と差別、そして暴力といった「社会の闇」がメインテーマなので、書き方によってはいくらでもダークでヘヴィーにできると思いますが、そうなっていないのが、この本が類書とは一線を画す超一級品であるという証しだと思います。
語り口はあくまで軽やか、それでも読後は何か自分の中に確かなものが残る感覚があります。
ナレーターは、(もちろん)著者本人。
『ENGLISH JOURNAL』8月号は「Podcast&ラジオ大活用法」
『ENGLISH JOURNAL』(EJ)2020年8月号の特集は、「使える英語は耳から学ぶ~Podcast&ラジオ大活用法」。EJおすすめのPodcastやラジオの番組を紹介しています。
リスニングは、英語の総合力を効率的に上げるのにも有効と言われています。お気に入りの番組を見つけて、聞き続けてみましょう!
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満足するまで学習に終わりはない、いつからでも、続けるための方策がある――「英語」のみならず、大人の「学びと向上」に対する多くのヒントも得られる一冊です。

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- メディア: Kindle版
文:川合亮平(かわい・りょうへい)
通訳者。エディ・レッドメイン、ベネディクト・カンバーバッチ、マーティン・フリーマン、エド・シーランなど、俳優・ミュージシャンの通訳・インタビューを多数手掛ける。関西のテレビ番組で紹介され、累計1万部を突破した『「なんでやねん」を英語で言えますか?』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・監修書は現在11冊。
イギリス関連の記事:https://www.british-made.jp/author/kawai
編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部