ボディービル界のスター、カイ・グリーンから学ぶ3つの英語表現

ボディービル界のスター、カイ・グリーンから学ぶ3つの英語表現

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第8回はボディビル界のスター、カイ・グリーンに学ぶ英語表現です。

カイ・グリーンの魅力は美しい筋肉と語り口

通訳の勉強を始めたときは通訳の教本を読んでいた私ですが、10年目あたりからは他の業界で道を究めた人たちを参考にし始めました。単純に面白いし、通訳は一見無意味そうな知識が意外なところでつながって役に立つ仕事ですから、今までまったく触れてこなかった業界について積極的に学び始めようと思ったのです。その一つがボディビル(bodybuilding)でした。

大学時代に小遣いでクレアチンを買ってジムに通い、筋力アップを図った私ですが、ボディビルとのつながりはほぼゼロ。ゴールドジムも「なんか化け物みたいにデカいやつがいっぱいいる所」くらいのイメージでした。

そんな私の目にとまったのはカイ・グリーン。2010年あたりは確実に世界トップ5に入ったボディビル界のスターです。彼に興味をもったのは、美しい筋肉はもとより、彼の求道者のようなアプローチや語り口がとても印象的だったからです。でもまあ、まずは彼の筋肉を見てください。

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華やかな舞台を降りた日常の姿もきちんと見てほしい

2012年にはすでにボディビルダーとしていくつもの大会で優勝し、大きな成功を収めていたグリーンですが、この年、ドキュメンタリー映像作家に密着取材を許可します。その理由がとても彼らしく、「華々しい舞台上の姿は選手の生活のほんの一部。舞台を降りた姿も、見苦しい部分も含めてきちんと見てほしい」からでした。

彼自身、華やかなイメージに魅かれてボディビルを始めたものの、今では見えないところで日常的に努力することの重要性を語っています。9:00あたりから。

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I recognize that now, being on the other side of that, oh, this is the work though that produces the desired end result. It’s, you know, being able to climb into the trenches now, when it’s not convenient, when it’s not comfortable, when the kitchen isn’t very beautiful yet

成功した今は、絶えず努力することが求める結果を生む、とわかるんだ。環境が整ってなくても、苦痛をともなっても、台所が汚くても、我慢してやり抜くことがね。

Be in the trenchesは日常会話でもビジネス英会話でもたびたび使われる表現です。直訳は「塹壕(ざんごう)の中」ですが、一般的には「苦しい状況を戦い抜く/耐える」「難しい何かをやりとげる」という意味です。

ちなみに動画でグリーンは料理に使うコンロだけでなく、全部のコンロを強火にして放置していますが(6:20あたり)、これは部屋の温度を上げて自分を追い込むためなんだとか。「暖かい部屋が好きなんだよ」とか、さらっと言ってますが(笑)。

グリーンの一日は決められたルーティンの繰り返しです。決められたことを粛々と繰り返すだけと聞くと、「なんだそんなの、誰でもできるじゃん」と思うかもしれませんが、できない人の方が圧倒的に多いとグリーンは言います。自分に負けて怠ける人が大多数だというのですね(3:00あたりから)。

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Basic fundamentals being applied over and over and over again. Getting up at certain time, doing certain things, cooking your meals, going to, you know, do your cardio, walking through the disciplines, keeping the checklist, and staying on top of those …

(成功するには)基本を忠実に何度も繰り返すことだね。決められた時間に起きて、やることをやって、食事を準備して、有酸素運動をして、決まったトレーニングをして、チェックリストで管理して、これを全部きちんとこなすことだね・・・。

Stay on topは「~をきちんと管理する」「~を適切に行う」という意味。私は学生時代、先生によくYou need to stay on top of yourself. と言われたものです。「え?私が自分の上にってどういうこと?」と思いますよね。これは「自己管理をしっかりしなさい」という意味です。私は落ち着きがなく、やりたいことしかやらない性格で先生には迷惑ばかりかけてましたから・・・。

四の五の言わずに、まずやれよ!(Just do it!)

ナイキの宣伝ではありませんが、グリーンは「四の五の言わずに、まずやれよ(Just do it!)」と言います。10g単位でタンパク質にこだわったり、このトレーニングはあのトレーニングより良いなどと延々と話すわりには、結局は始めない人が多いし、始めても続かない人が多い。

本当に夢をかなえたいのであれば、本当に自分を変えたいのであれば、細かい部分はどうでもいいから今日から始めて、そして何があっても黙々と続けること。シンプルなようで、実は一番難しいことなのかもしれません。23:00あたりから。

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… stop talking, stop trying to sound smart, you know, you meet these people that want to engage you in these conversations and one-up the professional bodybuilder …

・・・話はいらない、うんちくはいらないって言いたいよ。プロのボディビルダーより知識があると証明したいがためにわざわざ話しかけてくる人にも会うけどね・・・。

知識を持つことは大事だけれど、成功する人とそうでない人の違いは「知識を使うかどうか」だとグリーンは断言します。

お菓子の食べ過ぎや酒の飲み過ぎが体に悪いとわかっていても多くの人は暴飲暴食してしまいますし、英語だって毎日30分欠かさず勉強すれば絶対に上手くなるとわかっているけれど、やらない。自分に負けてしまうのです。これは遺伝子や才能の問題ではなく、心の問題だとグリーンは指摘します。静かに燃える炎のような眼差しで、「本当に実現したい夢があるのであれば、頑張る覚悟をしてみたら?」と訴えながら。  

踊るグリーン!自らの肉体をアートにした舞台

ちなみに現在のグリーンは自らの肉体をアートにして、さまざまな活動をしています。たとえばこちら。ボディビルをまったく知らない人でも引き込まれてしまう妙な魅力がありますよね。

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カイ・グリーンの名言から学ぶ3つの英語表現

in the trenches

in the trenchesは、戦争中、塹壕(ざんごう)の中の厳しい環境を耐えて戦うところからきた表現。一般的には「苦しい状況を戦い抜く/耐える」「難しい何かをやりとげる」という意味です。

たとえばHe and I fought together in the trenches. は「彼とは戦友でね」という意味になります。実際に戦争に行ってなくても、若い頃の難しい時期を一緒に乗り越えてくれた友人っていますよね?

stay on top of

stay on top ofは、「~をきちんと管理する」「~を適切に行う」という意味。たとえばstay on top of the situation(状況を注視する)はビジネスの現場でもよく使われる表現です。

one-up on

one-up onは、一般的には「一枚上手をいく」「一歩先をいく」「一つ勝つ」という意味です。

グリーンの例でいえば、相手は(try to) one-up on you ですから、相手はグリーンより自分の方が(栄養学に関する知識量などが)上だとマウンティングをとっていたわけなんですね。あとで駐車場でボコボコにされてなければいいのですが!

「スポーツと英語!」過去の連載はこちら

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関根さんが本業の通訳について語る連載はこちら

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関根マイク

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。FIFA(国際サッカー連盟)公式通訳者。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/