アフターコロナに備えて進化を!全国通訳案内士の今

新型コロナウイルスの感染 拡大 は、今なお多くの業界に深刻な 影響 をもたらしています。海外からの観光客をガイドし、日本の魅力を伝える通訳案内業界は今どのような状況なのでしょうか?2020年6月時点の様子を全国通訳案内士の松本美江さんに聞きました。

「国内旅行」の回復の道筋

緊急事態宣言が解除された5月末から、第2波、第3波に警戒しながらも、各地で日常生活が戻りつつあります。

特に大きな打撃を受けていた観光産業も、「Go To キャンペーン」 *1 に1兆7000億円という破格の支援 予算 が付けられ、まずは県内での観光、そして徐々に県外への宿泊を伴う旅行へと、政府による回復の道筋が示されています。

第2波が来たとしても、一進一退で国内旅行の需要は増えていくと 予想 されます。

「訪日旅行」の回復の難しさと仕事消滅の日々

それに比べて、訪日観光の最前線にいる私たちは、お客さまの国々での感染が落ち着いて、日本政府も入国許可を出せるようになるまで、仕事消滅の時間が続きます。

中国湖北省からの入国を拒否した1月末以降、予約のキャンセルが始まり、73カ国からの入国が禁止された4月からは、仕事ゼロ、収入もゼロの日々が続いています。

私が理事長を務める全日本通訳案内士連盟(JFG)では、通訳ガイドへの支援を大臣や国会議員の方々にお願いするため、要望書を 提出 しました。

その際、いかに仕事がなくなって困窮しているかを証明するために、3月から定期的に全国の組合員の就業状況 アンケート をとりました。それを見ると、3月末からオリンピックが予定されていた8月末までは、ほとんどすべてのツアーがキャンセルになったことがわかります。

最初に帰ってくるお客さまは?

では9月以降はどうかというと、私自身の場合、普通の観光ツアーは11月まですべてキャンセルになり、9、10月で予約が生き残っているのは、日本の企業が招待するジャーナリストや販売代理店の方たちの、いわゆるビジネスがらみのツアーだけです。

これまでも、鳥インフルエンザなどの感染 拡大 、そして東日本大震災などの大きな危機の後は、ジャーナリスト、ビジネスマン、その後に個人客、そして最後に団体ツアーという順で帰ってきたので、今回も同じ順番で戻ってきてくださるのだろうと 予測 していますが、それにもワクチンや治療薬の普及が必須なので、未来を描くことが困難になっています。

一つの救い、でもまだ続く長いトンネル

こうした状況の中、一つ救いになったのが「持続化給付金」です。

大臣や国会議員の方への辛抱強い陳情が功を奏したのか、私たち個人事業主やフリーランスも給付の対象になったのです。

これまで、個人事業主やフリーランスが政府の支援対象になったという記憶がなかったので、正直うれしい驚きでした。

これにより、かなり多くの通訳案内士がほっと一息をつくことができました。しかしまだまだ先の見えないトンネルの中にいるような状況には変わりがありません。

当初、夏には感染も止まるだろうと期待していただけに、 予想 以上に仕事がない状態が続き、ガイド仲間たちと会って励まし合うこともできなくなるにつれ、「最初は『この機会に普段できなかった勉強をしよう』『読みたかった本も読もう』と思っていたのに、次第に気持ちが落ち込んでしまう」との声が聞こえてくるようになりました。

危機を「進化」につなげる試み

そこで私たちの団体が考え付いたのが、オンラインでのミーティングや研修の 実施 です。

これまで研修を行えるのはツアーのオフシーズンだけで、それも大きな会議室を使っていました。

それが今年は春の繁忙期に突然仕事を失ったため、時間だけはたっぷりある状態になり、急きょオンラインで研修をしようということになったのです。

そしてあっという間にベテランガイドによるセミナーやプレゼン練習会、それに「お客さまに喜ばれるアイデア交換」や「ツアー中のトラブルを防ぐ方法」をテーマにしたパネルディスカッションが十数回も開催され、多い時には400人以上が参加しています。

参加者からは、「もう二度とガイドができないのではと落ち込んでいたが、たくさんのオンライン研修で救われた」という喜びの声が届いています。

仲間の通訳案内士の多くは、こうして「何もできず待つだけ」という受け身の心理から、「この危機で生まれた時間を使ってガイドとして進化しよう」という前向きな気持ちに切り替えようとしています。

「転んでもただでは起きないぞ」という気迫を持って、アフターコロナの時代に備えようとしているのです。私たちのこのエネルギーが尽きないうちに、一日も早く安全にお客さまをお迎えできるようになりますように。

刻々と移り変わる状況を追いかける

「ENGLISH JOURNAL ONLINE」では、2020年8月頃にも再度、新型コロナウイルス感染 拡大 とそれぞれの業界の現状について特集予定です。夏、例年ならば観光シーズン本番の季節 にもかかわらず 、海外からのお客さまをお迎えするのは難しい状況です。「長いトンネル」の 先に 何が見えてきたのか、松本さんによる8月の記事にもご注目ください。

松本美江
米国コロラド大学にて言語学と英語教授法の修士号を 取得 。1977年に通訳案内士試験に合格後、通訳ガイドとして活躍。現在までに世界各国数万人の外国人のガイディングを担当。世界トップ企業の重役やVIPからの指名も多い。全日本通訳案内士連盟(JFG)理事長として、通訳案内士試験合格者のための研修も担当している。

*1 :新型コロナウイルスの感染 拡大 が収束した後に観光や飲食、イベントなどの消費を喚起するために行う官民一体型キャンペーン。

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