相手に対してどのぐらい丁寧な表現を使えばよいか、悩んでいる人は多いかもしれません。ビジネスやプライベートの場面における、ちょうどよい「距離感」の英語を学んでいきましょう。第1回となる今回は、異文化コミュニケーションを専門とする経営コンサルタントのロッシェル・カップさんに、日本と世界におけるコミュニケーションギャップや考え方・文化の違いについて伺います。
日本と世界におけるコミュニケーションギャップ
異文化間のコミュニケーションにおける大きな違いの一つに、どのように話すかという「コミュニケーションスタイルと対立への姿勢」が挙げられます(下の図参照)。図の 右側にある国の文化は対立を非常に嫌い、できるだけそれを避けようとします 。
私の友人アダムさんから聞いた話ですが、彼がイギリスのパブで注文の列に並んでいたところ、ある女性客が列に気付かずに注文しようとしたことがありました。その時、列に並んでいたイギリス人客がこのように茶化して小声で言ったそうです。
I didn’t realize we didn’t need to queue anymore.その女性客はそれを聞いてすぐ列に気付き、「ごめんなさい!」と列の最後尾に並び直しました。上の図で、イギリスより左側にある直接的なコミュニケーションを好む文化では、次のようにわかりやすく伝えるかもしれませんね。僕らがもう並ぶ必要ないだなんて知らなかったな。
Excuse me, the line ’s over here.しかし、そのイギリス人客は女性に対して直接的ではなく婉曲(えんきょく)的な形で伝えたというわけです。すみません、列はこちらですよ。
一方、上の 図の左側は対立することをいとわない文化で、直接的なコミュニケーションを大切 にしています。そのため、この文化の人は直接的な表現を多く使いますし、みんなで率直な意見を言い合えるディベートやディスカッションを好みます。
話す相手だけでなく自分はどんな 傾向 なのかについても考えて、 相手とどのくらいコミュニケーションギャップがあるかを 把握する ことが重要 です。知らない人や表面的な接触しかない相手であれば、その国の一般的な 傾向 を考えるしかありません。しかし、もっと親密度の高い、あるいはこれから知る機会があるだろうという相手においては、その国の 傾向 だけでなくその人個人がどんな 傾向 を持つのかを考えるとよいでしょう。
世界で活躍するためののglobal mindset
グローバルな舞台で活躍するために、もちろん英語力は大変重要です。言葉で相手との意思疎通ができなければ、スタートラインから出発することはできません。
しかし、英語力だけではなく「話す内容」がとても大切になります。たとえ流暢な英語でも、相手が不快に思うことやその場のTPO に合わないことを言うのは、何も発言しないことよりも悪いと言えるでしょう。 英語力だけでなく、相手やその場に適した「内容」を話すよう気を付ける 必要があります。
日本人同士であれば「空気を読む」ことによって、その場において何が適切なのか推測できるかもしれませんが、外国人の場合では難しいでしょう。まずはお互いの違いを認め合い、相手はどんな文化・価値観を持っているのか理解する努力をしてください。その知識に基づいて、 相手に合わせて自分の行動を調整しようとすることが、「global mindset(グローバルマインドセット)」 と言えます。要するに、 外国人とコミュニケーションを取る際は、「日本人同士とは違った対応が必要」 という心構えを持っておきましょう。これからの世界で働く人なら確実に押さえておきたい考え方です。
「多様性」を尊重すること
ここまで、異文化間のコミュニケーションの違いについて紹介しました。しかし、これはあくまで一例で、ここには書ききれないほど世界には多くの価値観の違いがあります。私は日本の文化と何十年もの間付き合ってきましたが、日本文化の価値観については今でもまだ新しい発見があるのです。
すべてのことにおいて、自分の文化の尺度で測ろうとしてはいけません。 「相手の文化について知り、理解したい」という好奇心を持つ ようにしましょう。異文化の人と接する際に自国の文化の行動と何か違うことに気付いたとしても、「悪い」というレッテルを貼るのではなく、その背景にある相手との文化の違いを 把握する よう努力することはとても重要です。
相手の行動に 影響 を与えている文化・価値観を知り、それに基づいて自分の対応を柔軟に調整する ことが、グローバル社会で活躍するために最も効果的だと言えます。現在は、異なる言語・文化や社会的マイノリティーなど、「多様性」を尊重する社会に変わりつつあります。 話す相手と状況に応じて常にフレキシブルに対応することが、すべての人に求められている のです。
TPOに合わせた英語の「距離感」を身に付けよう!
『ENGLISH JOURNAL』7月号の特集は「心が伝わる英語の『距離感』」。会社の上司・ 同僚 ・部下や仲のよい友達に対する丁寧な英語やコミュニケーションについて取り上げます。相手と場面に応じたちょうどよい「距離感」の英語を身に付けることで、周りに好印象を与えられるようになりましょう!
異文化コミュニケーション関連の記事はこちら
Rochelle Kopp(ロッシェル・カップ)
1964年、アメリカ、ニューヨーク州生まれ。シカゴ大学経営大学院修了(MBA)。北九州市立大学教授兼ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社社長。専門は異文化コミュニケーション、グローバル人材育成、人事管理、リーダーシップと組織活性化。著書に『 反省しないアメリカ人をあつかう方法34 (アルク はたらく×英語シリーズ) 』(アルク)、『 [音声DL付]英語の品格 実践編 』(アルク)など多数。
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。