カッコイイから使ってる?カタカナと英語の落とし穴

外国人が間違いやすい日本語

日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが出会った「間違いやすい日本語」をご紹介します。音が似ていたり、発音しづらかったり、私たちが英語を話すときに困った経験を、海外の方は日本語で感じているかもしれません。日本語を見つめ直すことで、英語学習への意外なヒントを発見してください!

漢字より難しいカタカナ

私たち外国人にとっては、日本語は発音が難しいだけじゃなくて、読み書きもバリ難しいです。日本語では漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字を使っていて、これを完全にマスターするのは、なかなかできないなぁ。私は、20年間頑張っているけれど、たぶん、日本語を読む能力は中学生ぐらいかなと思います。

今回、特に書きたいのは、カタカナの話です。なぜかって?カタカナは漢字より難しいときがあるんです!だから今日は、カタカナの意外な難しさについて書きたいと思います。さて、始めよう!

全部同じじゃないの?「ソ・リ・ン」

突然ですが、私の旧姓は「ラーソン」です。日本に来てすぐの頃、まずはひらがなとカタカナを勉強し始めたのですが、どうしても、カタカナで自分の名字を正しく書けませんでした。「ソ」と「ン」はあまりにも似過ぎていて、どんなに頑張って書いても、変な名字になってしまったのです。

「ラーンソ」「ラーンン」とか。誰か助けて!と叫びたくなりました。

ある日、病院に行ったとき、「アン・ラーリン」と呼ばれました。マジ?!問診票に頑張って書いたのに、「ラーソン」じゃなくて、「ラーリン」に見えると?悔しい!

カタカナには形が似ているものが多いから、外国人はよく混乱するんです。

日本人は、学校で正しい書き順や形などを勉強するから、もしかしたら「え?全然似ていないのに!」と思っているかもしれません。けれど、自学した私は苦しんでばっかりでした。

日本に来て1年たった頃に、結婚しました。うれしいことに、私の名字はややこしい「ラーソン」から「クレシーニ」になりました。「ソ」も「ン」も書かなくてよくなったことに一瞬喜んだけれど、次の問題があったんです。今度は「シ」を書く必要があります。「シ」もややこしい!「ツ」にバリ似ているからさ。

私にとってバリバリ読み書きが難しい単語は3つあります。

シンシツ

アイデンティティ

ジョンソンエンドジョンソン

この3つは、見ているだけで頭が痛くなります。ちゃんと読めるように書くのは難しくて、変な読み方をされてしまうことが山ほどあります。

私は、カタカナより漢字の方が読みやすいと思います。カラオケが大好きだから、カラオケの歌詞の字幕で日本語を覚えました。いちばん苦手な曲は、カタカナがたくさん入っている曲です。無理無理、マジで。

きっと、多くの外国人は同じことを言うと思います。どうしても、カタカナを速く読めない。漢字やひらがなの方がましに感じます。

日本人もカタカナは苦手?

日本人もなぜか、時々カタカナが苦手みたいだと思うことがあります。

というのも、私は名前が「クレシーニ」になって、少しは書きやすくてよかったと思ったけれど、実は多くの日本人は「クレシーニ」をすんなりと読めないんです。

ちゃんと学校でカタカナを習っているはずなのに、私の名字を見たら、急に読めなくなる人が多いことに気付きました。私がきれいに書いた「クレシーニ」を見ると、しばらくためらった後、噛みながら名前を声に出してくれます。正しいときもたまにあるけれど、一度「クルシミ」になったことがあります。呼ばれた方も、苦しかった。

講演会をしていたときも、スピーカーの紹介で名前の発音を間違えられたことがあります。せめて、スピーカーの名前は事前に覚えておいて!と言いたくなりました(笑)。やっぱり、ずっと名字を変えなければよかったかな。それとも、「アンちゃん」を芸名にしようかな。

電話も大変です。どんなにゆっくり「クーレーシー二」と言っても、必ず「はい?」と聞き返されます。一回だけ、「クレシーニ」と名乗った後、相手が「はい、クレシーニさん!」と答えてくれたことがありました。バリ嬉しかった。思わず、相手を褒めてしまいました。

ごめん、ちょっと話が脱線した。外国人として、難しいと思っていることに戻りましょう。

「ン」「ソ」「リ」そして。「ツ」と「シ」が似ているから、書くときはかなり混乱する、という話をしました。

それ以外では、なかなかバランスよく書けない字というのもあります。例えば、「ア」。下の線の向きを間違えると、「マ」になります。何回も、これをしてしまいました。

どう書くのが正解かわからない外来語

それから、外来語を文字にしようと思うとき、どうやってカタカナにするか、わからないものがあります。簡単なものは簡単です。ice creamは「アイスクリーム」になりますね。mailは「メール」です。

一応ルールがあるみたいなんだけれど、不思議なものもあります。例えば、何でcameraは「カメラ」になるけど、campは「キャンプ」になるのでしょう?

「ウイルス」が正しいのか、「ウィルス」が正しいのか?「メイク」なのか、「メーク」なのか?このあたりは、どっちも見るよね。この場合は、適当でいいように思いました。

英語の音に似ているカタカナを使う?

外国人の名前も、本人がカタカナを決めていいようです。

私の子どもの名前はAbbyです。発音的には「アビー」が近いかもしれないけれど、個人的には「アビ」が好き。だから、カタカナを付けるときには、それにしました。

国の名前は多くの場合、その国の発音からカタカナになります。例えば、英語では、「ローマ」はRome(ローム)です。けれど、イタリア語では、Romaというから、「ローマ」になりました。「パリ」もそうだったようです。

ということは、音に合わせてカタカナを決めるのかな?でも、英語のHelloは「へロー」じゃなくて、「ハロー」ですよね。不思議で難しいなあ。

そして、全然英語の音に似ていないカタカナ語もたくさんあります。私の好きなベストスリーはこの3つ。

ワクチン

ウイルス

キシリトール

多くの場合は、外来語を聞くとなんとなく元の英単語が想像できるけれど、この3つはあまりにも発音が違い過ぎて、わからなかったです。

ちなみに、「ワクチン」は英語で書くとvaccine、「ウイルス」はvirus。それぞれどう発音するのか調べてみてくださいね。そして、「キシリトール」は、xylitolと書きます。xylitolが一番、英語の発音が違う気がします。英語では「ザイラター」みたいな発音です。

「外来語はカッコイイから使う」のでもいいけれど・・・

最後に、メディアが使っているカタカナ用語について話したいと思います。

私の専門分野は、外来語です。つまり、西洋の言葉から来て、日本語に組み込まれた語。外来語の主な役割は、それぞれの国の言葉にあるギャップを埋めることです。もともと、その国の言葉にないものを説明するとき、適切な語がないから、新しい語を取り入れないといけません。そんなときに外来語が使われます。

けどやっぱり、それだけではなくて、外来語は「カッコイイから使っている」というときが多いように思います。

今、新型コロナウイルスの感染が拡大しています。その報道で、メディアはよく外来語を使っています。オーバーシュート、ロックダウン、パンデミック、クラスター。ここのところ、毎日のように聞く言葉です。

これらの言葉は、カッコイイかもしれないけれど、多くの日本人はちゃんと意味がわかっていないと思います。普通の日本語で表現した方がわかりやすいと言っている人もたくさんいますよね。そして、すべて対応する日本語がちゃんとあるから、それでも問題ないはずです。

「オーバーシュート」は本当に英語?

ところで、私は「オーバーシュート」は和製英語だとずっと思っていました。英語圏で生活していたときもそんな単語は聞いたこともなかったし、どんな意味なのか想像しても、よくわかりませんでした。けれど友達から、「オーバーシュートは英語に本当にある単語だよ」と教えてもらいました。

マジ?使ったこともないし、聞いたこともない。でも、ほかにもさまざまな意見があって、やはり和製英語だという考え方もあるし、金融業界で使われる単語だいう話もあります。正確な語源は謎のようです。だから、カタカナ用語は、英語でも、英語圏の人がわからないこともあるんです。ちなみに、一般のアメリカ人は、こういう言い方をします。

オーバーシュート:explosion in cases

ロックダウン:lockdown、stay-at-home order

クラスター:cluster of infections

パンデミック:pandemic 

ちなみにパンデミックは、ギリシア語のpandemosという単語から来た言葉です。意味は「すべての人」。だから、パンデミックは、すべてに人に広がる感染症を示す単語です。

カタカナが表現する日本語のカラー

言語学者の私は、カタカナが大好きです。カタカナがあるからこそ、日本語には独特のカラーがあるように思います。それに、日本人にとっては英語の勉強にもなると思います。そして、私たち外国人にとっても役立ちます。

ただ、今回まとめたように、ややこしいときもあることは覚えておかないといけません。私自身も、その落とし穴をしっかり理解して、これまで以上に勉強を頑張らないといけないなと思いました。そして日本語を教える日本人も、外国人がカタカナと向き合うとき、どこにつまずきやすいかがわかれば、よりよい指導ができると思いました。

その結果として、すべての人がカタカナの魅力を感じるようになるはずです。

私も、結婚して「クレシーニ」になったけれど、旧姓の「ラーソン」も正しく書けるように頑張るバイ!

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アン・クレシーニ

文:アン・クレシーニ
アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページ更新中!

写真:リズ・クレシーニ